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王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました

狭山ひびき

妖精の不思議な鏡 4

 ホットケーキを焼いていたエレノアは、いつもよりも妖精の数が少ない気がして不思議に思った。

 いつもなら、フルーツやナッツ類、はちみつを持って、わらわらと集まってくる妖精たちが、今日は数えるほどしかいない。

(ホットケーキ、あんまり好きじゃないのかな?)

 リーファと二人で、せっせとフライパンでホットケーキを焼いていくが、いつもと同じ量を作ってしまうと、妖精たちが少ないから余ってしまうかもしれない。

 すると、はちみつを持った妖精が、「おみやげちょうだい」と言い出した。

「おみやげ?」

「うん! みんなきょうはちょっといそがしいから、おみやげもってかえるのー」

 なるほど、忙しいから妖精の数が少なかったのか。

 ホットケーキが嫌いなのではないとわかって、エレノアはほっとする。

 焼き上がったホットケーキを、お土産用とティータイムに食べるように分けて、今食べるものには、カットしたフルーツや蜂蜜でトッピングをすると、妖精たちがくんくんと鼻を動かした。

「おいしそうー」

「ほっとけーきー」

「はちみついっぱい!」

「えれのあのおかしだいすきー」

 妖精たちがホットケーキの皿をテーブルまで運んでくれるので、エレノアとリーファはその間に使ったものを洗っておく。

「すっかりお上手になりましたわね」

 リーファがフライパンを洗いながら言うので、エレノアは嬉しくなった。

「妖精さんたちが食べてくれるから、楽しくて」

「あら、サーシャロッド様もでしょう?」

 リーファがいたずらっ子のような表情を見せると、エレノアは頬を赤く染めて、エプロンの裾をいじりながらもじもじしてしまう。

 サーシャロッドはエレノアの旦那様だそうなので、エレノアは彼に尽くさないといけないのだと思うけれど、甘やかされてばかりで全然尽くせていない。そもそも尽くすとはどういうことなのかもよくわかっていないのだけど、こうしてお菓子を焼けば、少しは尽くしていることになるのではないかと思っている。

 ひょんなことからサーシャロッドの「妻」になったエレノアだが、夫婦とはどういうものかあまり理解できていない。クライヴ王子の婚約者だった時は、結婚すれば彼の命令に従って生きるのだと理解していたが、サーシャロッドはクライヴのようにエレノアをモノのように扱わないし、冷たく命令したりしない。だから、どうしていいのかわからなかった。

 まだ会ったことがないが、リーファにはラーファオという夫がいるそうなので、夫婦とはどういうものなのかを一度聞いてみたいとも思うのだが、まだ聞くのが怖いような気がして実行に移せていない。

 少なくとも、サーシャロッドがするように、リーファの夫は「肉付きチェック」はしないはずだ。

 エレノアはリーファの豊満な胸のあたりをちらりとみて、自分の胸に視線を落とした。

 どれだけ頑張って食べても、たぶんリーファのようにはならないと思うのだが。

 片づけを終えて、エレノアとリーファは紅茶を煎れはじめる。紅茶のいい香りが、ホットケーキの甘い香りに混ざりはじめたとき、サーシャロッドが顔を出した。

「ホットケーキか。おいしそうだな」

 サーシャロッドは当たり前のようにエレノアを膝の上に抱き上げた。そして、妖精たちに視線を向けると、首を傾げる。

「お前たち、今日はずいぶんと少ないんだな」

「今日は忙しいそうですよ」

 エレノアが答えると、妖精たちに向けているサーシャロッドのまなざしが疑り深いものになった。

「忙しい、か。お前たち、何か悪戯を思いついたんじゃないだろうな?」

 妖精たちはホットケーキを頬張りながら、ぶんぶんと首を振った。

「いたずらじゃないよ」

「いいことするの」

「えれのあのためー」

「エレノアのため?」

「あ、なんでもないのー」

「ひみつなのー」

「でもいいことなのー」

 妖精たちはそう言ってくすくすと笑う。

 サーシャロットはまだ怪訝そうだったが、「エレノアのため」で「悪戯でない」のならばまあいいかと、ナイフとフォークでホットケーキを切り分けると、いつも通り、エレノアの口に運んだのだった。

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