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王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました

狭山ひびき

メロン栽培には愛情が必要です 1

 サーシャロッドの月の宮殿にきて三日がたった。

「えれのあ、きょうはなにを作るのー?」

「いちごいるー?」

「桃もあるよー」

「あーもんどに、くるみ」

「はちみつもばっちりー」

「ねー、なに作るのー?」

「ねー?」

 エレノアの部屋に作られたキッチンのまわりを、妖精たちがぱたぱたと飛び回る。

 月の宮殿に来たときにエレノアがすごした部屋は、どうやら「夫婦の寝室」だったらしい。

 エレノアの部屋は別に大きな部屋が用意されていて、最初は何もない殺風景な部屋だったのだが、ひょんなことからこうして部屋の中にキッチンが用意された。

 というのも、エレノアが初日に食べたサクランボの糖蜜漬けは、どうやらリーファの手作りだったらしく、気になったエレノアが作り方を聞いてみたところ、それでは一緒に作りましょうということになった。

 そして念のためサーシャロッドに許可を得た方がいいとリーファに言われたので相談したところ、サーシャロッドがエレノアの部屋にキッチンを用意したのである。

(パチンって、指を鳴らしただけだったのに……)

 エレノアは部屋の中のキッチンが出現した時の驚きを今も忘れない。

 サーシャロッドが、パチンと一回指を鳴らしただけで、何もないところからいきなりキッチンが現れたのだ。

 そして、何もすることのないエレノアのために、リーファが毎日お菓子作りを教えてくれることになったのだ。

「今日はショートケーキを作るんだって」

 すっかり仲良くなった妖精たちに答えると、あちこちから「わーい!」と歓声が上がる。

 作ったお菓子は妖精たちが喜んで食べてくれるので、エレノアも作るのが楽しくなる。

「じゃあ、たくさんいちごがいるね!」

「まっててー、とってきてあげるー!」

「ついでにお花もつかってきれいにかざろー」

「いいねー、ケーキに飾るちいさいお花さがしてくるー!」

 妖精たちが数人まとまって部屋から出て行くと、隣でオーブンの温度を見ていたリーファがくすくすと笑いだした。

「すっかり妖精たちに好かれてしまいましたね、エレノア様」

 リーファは長い艶やかな黒髪を一つに束ねて、白いエプロンをつけていた。エレノアの髪はリーファによって編み込まれて、妖精たちの手で小さな花がたくさん飾られている。

 リーファともあれからたくさん話すようになった。聞けば、リーファは今は三十歳らしい。一、二歳年上くらいだろうと思っていたエレノアが驚けば「ここでは年は取りませんから」と内緒話のように教えてくれた。

 よくわからなかったのでそのあとサーシャロッドに訊いてみたところ、月の世界ーー月の宮では人も動物も年を取らないらしい。そんな不思議なことがあるのかと思ったが神様の住まう世界なので、人の物差しでは測れないものがあるのだろう。

 リーファの指示に従って、湯煎をしながら卵を泡立てていると、ふらりとサーシャロッドが現れた。

 せっせと卵を泡立てるエレノアの背後に回り、後ろから抱きしめると、くんくんとエレノアの耳の後ろのあたりに鼻をつける。

「甘いにおいがするな」

「バニラの香りではないでしょうか? さっき、妖精たちがバニラビーンズをくれましたから。香りづけにって」

 リーファが答えると、「なるほどそれでか」とサーシャロッドが耳の後ろで笑うので、エレノアはくすぐったくなって小さく身を震わせる。

 この三日でわかったが、サーシャロッドはエレノアを抱きしめるのが大好きだ。廊下でばったりあってもぎゅっと抱きしめられるし、部屋でぼんやりしていたら、いつの間にかやってきたサーシャロッドに膝の上に抱き上げられる。眠るときもサーシャロッドの腕の中だ。エレノアは全然柔らかくないので、抱きしめても硬いだけだと思うのだが。

「まだまだ全然肉がつかんな」

 そういってサーシャロッドがエレノアのわき腹を触るので、エレノアは慌てた。

「サーシャ様、いま、卵を泡立てているので……」

「うん? ああ、作業がしにくかったか。悪かった。では、お前を触るのは後にしよう」

 楽しそうに笑いながら、サーシャロッドは部屋の中のソファに腰を下ろす。

「仲がよろしくて、よかったですわ」

 リーファに言われて、エレノアはうっすらと頬を染めた。

「あ、えっと……」

「あら、そんなに照れなくても。夫婦ですもの、スキンシップは大切ですわ」

 世の中の夫婦がどんなものかはわからないが、リーファの中では当たり前のことなのだろうか。

 リーファと彼女の夫の話を聞いてみたいような気もするが、怖いような気もして、エレノアはうーっと唸りながら卵を泡立てる。

 そこへ。

「えれのあ、いちごとってきたよー」

「あかくておおきくておいしいやつ!」

「たくさんたくさんあるから、いっぱいつかってー」

「あとこれ、お花ー!」

「ぴんくとしろのお花でかざるのー」

 三人がかりで籠を持って、妖精たちが戻って来る。籠の中には山盛りのイチゴと小さな花が入っていた。

「ありがとう、妖精さんたち」

 お礼を言うと、妖精たちは得意そうに胸を張る。

 そして、泡立てた卵と小麦粉を混ぜ合わせて型にいれ、スポンジケーキを焼いていると、一人の妖精がエレノアの肩にとまって、「はい!」と手をつきだした。

 妖精の小さな手に握られていたのは、一粒の種だ。

「これは……?」

「ひみつのたねー!」

「秘密の種?」

「うん! あのね、とってもおいしい、めろんができるの!」

 なるほど、メロンの種らしい。

 でもどうしてメロンではなく種をくれたのだろうと首をひねっていると、妖精が悪戯っぽくくすくすと笑いだした。

「このめろん、いっぱいいっぱい、あいじょうをあげると、とってもおおきく、あまーく、おいしくなるの! だから、えれのあにそだててほしいの!」

 なるほどそう言うことなのか。

 植物を育てたことはなかったが、妖精が植木鉢を土も用意してくれるというので、エレノアは頷いてエプロンのポケットに種を入れる。

 そして、ケーキが焼き上がるまでこちらに来いとサーシャロットに手招きされて、彼の気のすむまで「肉付きチェック」をされる羽目になった。

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