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王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました

狭山ひびき

失意の果て7

 夜。

 サーシャロッドと一緒に夕食を取って、湯あみを手伝うというリーファの手によって、あわあわしているあいだにとてもいい香りのする香油を全身に塗られたあと、薄くて軽い夜着に着替えさせられた。

 いつも使っていた、古いごわごわとした着心地の悪い夜着と比べると、さらさらとした着心地のこの夜着はとても快適だったが、薄すぎて心もとなく感じてしまう。

 がりがりにやせ細っている体の線がまるわかりで、エレノアは思わず自分の二の腕を触ってしまう。そこには女性特有の柔らかさは全然なく、骨と皮だけの、まるでニワトリの足のようだと思った。

 ふかふかのベッドにもぐりこんで、エレノアはじっと天井を見つめる。

 寝るのが、少し怖かった。

 朝目覚めたら、今日のことはすべて夢で、深い山の奥で一人目覚めるのではないかと思ったからだ。

 わずか半日。たったそれだけ、サーシャロッドやリーファ、妖精たちに優しくされただけで、一人で放り出されるのがこんなにも怖くなる。

 眠りたくない。このまま起きていたら、明日の朝もまた、みんなと会えるだろうか。

「なんだ。一人で寝てしまうのか。冷たいな」

 眠らないためにはどうしたらいいのかと考えていたエレノアは、笑みをかみ殺したような声を聞いて首を巡らせた。

 部屋に入ってきたのはサーシャロッドだった。白いゆったりとした夜着に身を包んで、銀色のさらさらと美しい髪を緩く一つに束ねている。

 何か用事だろうかとエレノアがきょとんとしていると、サーシャロッドがためらいもなくベッドに身を滑り込ませてきて、硬直した。

「さーしゃ、さま?」

 どうして同じベッドにもぐりこんでくるのだろうか。

 首をひねっている間に、エレノアはあっという間にサーシャロッドの腕の中に抱き込まれてしまう。

「――っ」

 何が起こったのかわからずに石のように固まってしまったエレノアを見て、サーシャロッドが困ったように眉を下げた。

「なんて顔をしているんだ」

「……え?」

「驚いているのか泣きそうなのか、よくわからない顔をしている」

「えっと……」

「妻だ、と私は言ったと思うのだが」

 耳元でささやかれて、ぞくり背中の産毛が逆立った。サーシャロッドの息が耳にかかって、まるで真冬に冷たい水に足先をつけたかのように全身がわななく。

 それと同時に、頭の中のもう一人の自分が警鐘を鳴らした。だが、何が危険なのかがわからずに、ただ子ウサギのようにふるふると震えていると、ぽんぽんとなだめるように背中が叩かれた。

「いくら妻でも、同意なしで抱くほど鬼畜ではないつもりだ。だから、落ち着け」

 一定のリズムで、あやすようにポンポンと背中が叩かれて、エレノアの体からゆっくりと力が抜けていく。

 髪を梳くように撫でられて、気持ちがいいと思ってしまう。

 リーファが丁寧に椿油を塗り込んで、梳ってくれたから、いつもごわごわしていた髪が、今は艶々でしっとりしていた。

 抱きしめられているから、サーシャロッドの体温と鼓動が伝わってくる。

「妻だから、一緒に眠るんですか……?」

 クライヴに嫁ぐ予定だったので、花嫁教育で学んだ。結婚すれば閨を共にするらしい。子作りには必要なことだそうだ。

 では、サーシャロッドは子供が欲しいのだろうか?
 純粋な疑問をぶつければ、サーシャロッドは微苦笑を浮かべて、エレノアの頬を撫でた。

「半分正しくて、半分は不正解だな。たしかにお前が私の妻だから一緒に眠るが、妻だからではなく私がお前を好きだからだ。そして、一緒に眠るのは子供をつくるためだけではなく、ただ一緒にいたいからだ。子作りはおいおい教えてやる」

「サーシャ様が、わたしを、好き?」

「好きでなければ、妻にしようとは思わない」

「でも、……わたしは、不細工で、とろくて、使えないから……」

 エレノアがしょんぼりとつぶやくと、サーシャロッドがぐっと眉を寄せた。

「それは、誰が言った?」

「え? あ、なんでも……」

 急に恐ろしい顔をしたサーシャロッドが怖くなってぎゅっと肩に力を入れて縮こまれば、彼は慌てたようにエレノアの頭を撫でた。

「ああ、怯えるな。お前に怒ったわけじゃない」

 よしよしと頭を撫でられて、そろそろと目を開けると、困ったようなサーシャロッドの顔。

「お前は充分美しいよ。でも私はお前の顔ではなくて、『お前が』好きなんだ」

 サーシャロッドは諭すように告げるが、やはりエレノアにはまだわからない。

 サーシャロッドはエレノアの額に触れるだけのキスを落とすと、ぎゅうっと腕の中に閉じ込めた。

「もういいから、寝ろ」

「でも……」

「いいから。いつまでも起きていられたら、襲いたくなるだろう」

 サーシャロッドのそのセリフはよくわからなかったが、あやすように背中を叩かれるとだんだんと瞼が重たくなっていく。

 でも――、眠りたく、ないのに――

 エレノアはサーシャロッドの胸に頬をつけて、抗いがたい睡魔に負けて瞼を閉ざしながら、「寝ても、夢じゃ、ない……?」と口を動かした。

 そして、すーっと夢の世界に誘われたエレノアの耳に、そっとサーシャロットが「夢じゃない」と、優しくささやいてくれた気がした。

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