王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました
失意の果て2
――お前のような娘なんて、クライヴ殿下の婚約者でなければとっとと捨ててしまうのに。
物心つく頃から、エレノアはそう言われて育った。
鉄さび色と蔑まれる赤みがかった金髪に、頼りなさそうな水色の瞳。容姿は十人並みで、美しい義母は「不細工」と蔑んだ。
城に行くときだけはドレスが与えられるが、普段はぼろぼろになった使用人のお古が与えられて、部屋は天井の低い屋根裏部屋。
家族と一緒に食事を取ることは許されていなかったから、いつも邸の使用人にパンをもらって食べていた。
おかげで十八歳だというのに、年頃の娘のようにふっくらとしていない。ガリガリにやせ細った体はみすぼらしく、城に花嫁修業に行くようになってからは、クライヴはエレノアが隣を歩くことを許さなかった。
だが、エレノアは「王子の言うことにすべて従え。王子が死ねと言ったら死ね」と父から教育を受けていたので、クライヴにどんな仕打ちをされようと黙って受け入れた。
クライヴは暴力こそ振るわなかったが、いつもエレノアのことを「くず」だの「のろま」だのと蔑んだが、エレノアにとって侮蔑や嘲笑は日常だったので、ただ頭をさげて「申し訳ございません」とその言葉を受け入れた。
ただ、「クライヴの婚約者」という身分だけがエレノアにとって生きる価値だった。
義母が言った通り、エレノアは王子の婚約者でなければ、とっくに捨てられてもおかしくない存在だったからだ。
だから、精いっぱい花嫁修業をがんばって、クライヴの役に立てるようになろうと心に誓っていたのだが。
(……そうよね。わたしみたいなのが今まで殿下の婚約者だったことの方が、おかしいんだわ)
ガタガタと揺れる馬車の中で、エレノアはぼんやりと考える。
誰からも必要とされていなくて、誰からも愛されないエレノアが、誰よりも尊いクライヴの妃になれるはずなんてなかったのだ。
馬車が止まると、乱暴に扉があけられて、引きずるように馬車から下ろされた。
エレノアを下ろすと、馬車はすぐに来た道を引き返していく。
エレノアはぼんやりとたたずんで、あたりをゆっくりを見渡した。
どこだかわからない山の中だ。ここまではかろうじて馬車が通れるような砂利道が続いていたが、この奥は背の高い木々が生い茂っていて、道などどこにもない。
エレノアは自分の格好を見下ろす。ぼろぼろの使用人のお仕着せ。荷物はない。食べるものもない。ここがどこなのかもわからない。
上を見上げれば、まだ日は高かったが、やがて日も落ちるだろう。
エレノアは小さく息をついて、見る限り道の無さそうな山の方へ足を向けた。
教えられなくてもわかっている。不要となったエレノアは、捨てられたのだ。
それは、エレノアがクライヴに婚約破棄を告げられた、翌日のことだった。
物心つく頃から、エレノアはそう言われて育った。
鉄さび色と蔑まれる赤みがかった金髪に、頼りなさそうな水色の瞳。容姿は十人並みで、美しい義母は「不細工」と蔑んだ。
城に行くときだけはドレスが与えられるが、普段はぼろぼろになった使用人のお古が与えられて、部屋は天井の低い屋根裏部屋。
家族と一緒に食事を取ることは許されていなかったから、いつも邸の使用人にパンをもらって食べていた。
おかげで十八歳だというのに、年頃の娘のようにふっくらとしていない。ガリガリにやせ細った体はみすぼらしく、城に花嫁修業に行くようになってからは、クライヴはエレノアが隣を歩くことを許さなかった。
だが、エレノアは「王子の言うことにすべて従え。王子が死ねと言ったら死ね」と父から教育を受けていたので、クライヴにどんな仕打ちをされようと黙って受け入れた。
クライヴは暴力こそ振るわなかったが、いつもエレノアのことを「くず」だの「のろま」だのと蔑んだが、エレノアにとって侮蔑や嘲笑は日常だったので、ただ頭をさげて「申し訳ございません」とその言葉を受け入れた。
ただ、「クライヴの婚約者」という身分だけがエレノアにとって生きる価値だった。
義母が言った通り、エレノアは王子の婚約者でなければ、とっくに捨てられてもおかしくない存在だったからだ。
だから、精いっぱい花嫁修業をがんばって、クライヴの役に立てるようになろうと心に誓っていたのだが。
(……そうよね。わたしみたいなのが今まで殿下の婚約者だったことの方が、おかしいんだわ)
ガタガタと揺れる馬車の中で、エレノアはぼんやりと考える。
誰からも必要とされていなくて、誰からも愛されないエレノアが、誰よりも尊いクライヴの妃になれるはずなんてなかったのだ。
馬車が止まると、乱暴に扉があけられて、引きずるように馬車から下ろされた。
エレノアを下ろすと、馬車はすぐに来た道を引き返していく。
エレノアはぼんやりとたたずんで、あたりをゆっくりを見渡した。
どこだかわからない山の中だ。ここまではかろうじて馬車が通れるような砂利道が続いていたが、この奥は背の高い木々が生い茂っていて、道などどこにもない。
エレノアは自分の格好を見下ろす。ぼろぼろの使用人のお仕着せ。荷物はない。食べるものもない。ここがどこなのかもわからない。
上を見上げれば、まだ日は高かったが、やがて日も落ちるだろう。
エレノアは小さく息をついて、見る限り道の無さそうな山の方へ足を向けた。
教えられなくてもわかっている。不要となったエレノアは、捨てられたのだ。
それは、エレノアがクライヴに婚約破棄を告げられた、翌日のことだった。
「王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
-
16
-
-
殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です
-
27
-
-
深窓の悪役令嬢
-
25
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
25
-
-
冬薔薇姫
-
14
-
-
婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪
-
19
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
18
-
-
私は妹とは違うのですわ
-
30
-
-
婚約者を寝取られたけど割とどうでもいいです
-
23
-
-
悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
-
32
-
-
乙女ゲームに転生したけど、推しキャラカプ観察に忙しいので勝手に恋愛ゲームしていてください
-
14
-
-
我が道を行く悪役令嬢は精霊に愛される
-
39
-
-
悪役令嬢と書いてラスボスと読む
-
24
-
-
「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい
-
25
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
23
-
-
ループしますか、不老長寿になりますか?
-
12
-
-
聖獣に転生したら、もふもふされ過ぎてつらい
-
11
-
-
婚約破棄ありがとうございます王太子殿下、でも、隣にいるのは女装した私の弟ですよ。
-
12
-
-
真実の愛に生きたいのが自分だけと思うなよ
-
38
-
-
夫が浮気をしたので、離婚して子連れ冒険者になりました。
-
5
-
コメント