夢の中でも愛してる

狭山ひびき

5

 遥香は勢いよく飛び起きた。

 部屋の中はまだ暗く――、ぼんやりと浮かび上がる部屋の内装に、昨日城に戻って来たことを思い出す。

 だが、そんなことはどうだっていい。

 遥香は自分の腕を抱きしめて、荒い息をくり返した。

 大きく見開いた目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちていく。

(……そういう、ことだったの……)

 零れ落ちた涙が、ぽたぽたと膝の上のシーツの上に染みを作った。

(弘貴さんが、わたしを好きになってくれたのは……、リリーが好きだったからだったんだ……)

 ずっとわからなかった。

 どうして、特別可愛くもない、平凡な自分を、弘貴みたいなハイスペックな人が好きになってくれたのだろう、と。

 どうして出会ってすぐに、あれほどまでにアプローチされたのだろう、と。

 わからなくて不安で――、でも、弘貴ならば信じられると思った。この人は自分を愛してくれているのだと、それだけは間違いないと――、信じていた。

(リリーのかわりだったんだ……)

 遥香が愛されていたのではなかった。

 弘貴は、リリーが好きだったのだ。

 その事実にどうしようもないほど打ちのめされて、遥香はただ、声を殺して泣き続けるしかできなかった。

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