夢の中でも愛してる
3
信じられないことだが、どうやら夢の中のリリーと入れ替わったらしい。
遥香がそう気がついたのは、夢の中と思っていた世界でリリーの姿で目覚めた、次の日のことだった。
昨日は、「リリーは頭を打った衝撃からか、少し意識がぼんやりしている」というクロードの咄嗟の機転で、アリスやリリックを含め、クロード以外の人とはほとんど会話をせずにすんだ。
遥香はベッドの上で上体を起こすと、こめかみをおさえて、ふう、と息を吐きだす。
――夢の中に、遥香の姿をしたリリーがいた。
(もう、わけがわからない……)
夢の中の弘貴は「リリー」を知っていた。
(クロードもわたしを知ってるし、弘貴さんもリリーを知ってる。リリーも弘貴さんを知ってる風だったし、意味がわからない……)
はあ、とため息をこぼしていると、コンコンと部屋の扉が叩かれてクロードが部屋に入ってきた。
「気分はどうだ?」
探るような目で見られて、遥香は苦笑を浮かべる。
すると、中身が遥香のままだと気がついたクロードが、肩をすくめて見せた。
「遥香のまま、か」
ゆっくりとベッドまで近づいてきて、クロードはその淵に浅く腰掛ける。
昨日、クロードは、夢の中で遥香を見ていたと言っていた。
遥香が夢の中でリリーを通して世界を見ていたように、クロードは弘貴を通して遥香の世界を見ていたらしい。
逆を言えば、リリーが遥香の目を通して遥香の世界を見て、弘貴がクロードの目を通してこの世界を見ていたと考えれば、四人がそれぞれを知っている理由がつく。だが、あまりに非現実的すぎて、遥香の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「……現実の、ううん、あっちの世界のわたしの中に、リリーがいたの」
遥香が言えば、クロードは予測ずみだったのか、「そうか」と頷いた。
「どういう理屈かわからないが、お前とリリーは中身だけ入れ替わったらしいな」
遥香は怪訝そうに眉を寄せた。
「どうして、そうすんなり納得できるの?」
「実際に目の前で起こっているんだ、納得するしかない」
「でも……」
遥香は左手の薬指を撫でる。そこには弘貴からプレゼントされた指輪がはまっている。どういうわけか、中身と一緒に指輪も入れ替わったようなのだ。
「入れ替わったのなら、元に戻る方法もあるはずだ。途方に暮れるより、元に戻る方法を考える方が建設的だろう」
クロードに諭すように言われて、遥香は押し黙る。
クロードは立ち上がると、部屋のカーテンを開けた。朝の白い光が部屋いっぱいに入り込んで、遥香はまぶしくて目を細める。
クロードは窓の外に広がる青い空をしばらく黙って見上げていたが、やがて遥香を振り返った。
「遥香、リリーのふりはできるか?」
「え?」
「お前がリリーじゃないと言っても、きっと誰も信じない。変に怪しまれても困るし、できればリリーのふりをしていてほしい。元に戻る方法は俺が探す」
「……できるかどうか、わからないけど」
この世界の勝手は、毎夜夢を見ていたおかげでなんとなく理解している。だが、「リリー」になりきって生活しろというのはなかなか難しい要求だった。それでもその必要性は遥香も理解できるので、不安に思いながらも遥香は頷く。
こうして、何がどうなっているのかわからないまま、遥香はリリーとして生活することになったのだった。
遥香がそう気がついたのは、夢の中と思っていた世界でリリーの姿で目覚めた、次の日のことだった。
昨日は、「リリーは頭を打った衝撃からか、少し意識がぼんやりしている」というクロードの咄嗟の機転で、アリスやリリックを含め、クロード以外の人とはほとんど会話をせずにすんだ。
遥香はベッドの上で上体を起こすと、こめかみをおさえて、ふう、と息を吐きだす。
――夢の中に、遥香の姿をしたリリーがいた。
(もう、わけがわからない……)
夢の中の弘貴は「リリー」を知っていた。
(クロードもわたしを知ってるし、弘貴さんもリリーを知ってる。リリーも弘貴さんを知ってる風だったし、意味がわからない……)
はあ、とため息をこぼしていると、コンコンと部屋の扉が叩かれてクロードが部屋に入ってきた。
「気分はどうだ?」
探るような目で見られて、遥香は苦笑を浮かべる。
すると、中身が遥香のままだと気がついたクロードが、肩をすくめて見せた。
「遥香のまま、か」
ゆっくりとベッドまで近づいてきて、クロードはその淵に浅く腰掛ける。
昨日、クロードは、夢の中で遥香を見ていたと言っていた。
遥香が夢の中でリリーを通して世界を見ていたように、クロードは弘貴を通して遥香の世界を見ていたらしい。
逆を言えば、リリーが遥香の目を通して遥香の世界を見て、弘貴がクロードの目を通してこの世界を見ていたと考えれば、四人がそれぞれを知っている理由がつく。だが、あまりに非現実的すぎて、遥香の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「……現実の、ううん、あっちの世界のわたしの中に、リリーがいたの」
遥香が言えば、クロードは予測ずみだったのか、「そうか」と頷いた。
「どういう理屈かわからないが、お前とリリーは中身だけ入れ替わったらしいな」
遥香は怪訝そうに眉を寄せた。
「どうして、そうすんなり納得できるの?」
「実際に目の前で起こっているんだ、納得するしかない」
「でも……」
遥香は左手の薬指を撫でる。そこには弘貴からプレゼントされた指輪がはまっている。どういうわけか、中身と一緒に指輪も入れ替わったようなのだ。
「入れ替わったのなら、元に戻る方法もあるはずだ。途方に暮れるより、元に戻る方法を考える方が建設的だろう」
クロードに諭すように言われて、遥香は押し黙る。
クロードは立ち上がると、部屋のカーテンを開けた。朝の白い光が部屋いっぱいに入り込んで、遥香はまぶしくて目を細める。
クロードは窓の外に広がる青い空をしばらく黙って見上げていたが、やがて遥香を振り返った。
「遥香、リリーのふりはできるか?」
「え?」
「お前がリリーじゃないと言っても、きっと誰も信じない。変に怪しまれても困るし、できればリリーのふりをしていてほしい。元に戻る方法は俺が探す」
「……できるかどうか、わからないけど」
この世界の勝手は、毎夜夢を見ていたおかげでなんとなく理解している。だが、「リリー」になりきって生活しろというのはなかなか難しい要求だった。それでもその必要性は遥香も理解できるので、不安に思いながらも遥香は頷く。
こうして、何がどうなっているのかわからないまま、遥香はリリーとして生活することになったのだった。
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