夢の中でも愛してる

狭山ひびき

3

クロードは、思わず羊皮紙を床にたたきつけた。

「ふざけるな!」

クロードの怒号に、リリーが国に帰っている間クロード付きの侍女をしていたセリーヌはびっくりして目を丸くした。

「な、なに? どうしたんですか?」

クロードはさっきまで、机に座って手紙を読んでいたはずだ。差出人はリリーの妹のアリスで、クロードは「俺に何の用だ」とぶつぶつ言いながら手紙を目で追っていた。

クロードが急に声を荒げたのは、リリーがセザーヌ国に帰国して淋しそうなクロードのために、リリーがわざわざセリーヌに送ってくれたセザーヌ国の甘い香りの紅茶を分けてあげようと、紅茶を煎れはじめたときのことだった。

思わず手を止めたセリーヌは、床に転がった羊皮紙に視線を落とす。見ていいものか悩んでいると、クロードに「読んでみればわかる」と言われて、何が書かれているのだろうと恐る恐る手に取った。

セリーヌは流麗な字で書かれた手紙に目を通し、徐々に眉を寄せた。

「……えっと、これはどういうことですか?」

「俺が聞きたい! 今更、何を言い出すんだ!」

クロードが部屋を右往左往する。カツカツと鳴るブーツの音が、クロードの苛立ちを物語っているようだった。

アリスからの手紙には、アリスとの婚約の話を元に戻して、リリーとの婚約を解消するようにと書かれていた。本当に、今更何を言い出すのだ。

「これは、セザーヌ国王の意思なんでしょうか?」

「知らん! だが、納得できるはずないだろう!」

それはそうだろう。少なからず、クロードはリリーを愛している。それなのに、今更婚約を解消して、当初予定していた婚約者に戻せなどと、彼が納得できるはずがない。

「まさか、リリーが俺との結婚を嫌になったのか?」

クロードが足を止めて青い顔をするが、

「それはあり得ません」

セリーヌはきっぱりと否定した。

リリーはクロードとの結婚を嫌がってはいない。それは短い間だが近くで見ていたセリーヌが一番よくわかっている。

リリーは、クロードがそばにいると幸せそうな表情を浮かべていたし、帰国直前にクロードからもらった指輪を嬉しそうに見つめていた。そんなリリーが、何の相談もなく、突然クロードとの婚約を解消したいと言い出すはずがないのだ。

クロードはセリーヌの断言にホッとした表情を浮かべたが、すぐに顔をしかめて、再び部屋の中をうろうろと歩きはじめる。

「じゃあ、どうしてだ? どうしていきなりこんな話になる?」

「それは……、この手紙からはなんとも……」

クロードはぐしゃぐしゃと髪をかき乱した。そして顔をあげると、大きく息を吸い込み――

「セリーヌ」

「はい?」

クロードは息を吐きだすと、言った。

「俺はこれからセザーヌ国に行ってくる」

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