夢の中でも愛してる
6
――今夜、あいてる?
弘貴から食事の誘いがメールで届いたとき、遥香は純粋に嬉しかった。
遥香もメールではなく直接会って謝りたかったし、昨日の弘貴はとても怒っていたから、ゴールデンウィーク前に仲直りがしたかった。
定時後に一緒に社外へ出たら目立つからという理由で、弘貴とは駅前の時計の下で待ち合わせすることになった。
デートの時にずぶ濡れになっていた弘貴を思い出し、遥香は思い出し笑いをかみ殺しながら弘貴を待つ。
五分ほど待ったところで到着した弘貴に連れていかれたのは、高そうなイタリアンレストランで、遥香は思わず自分の格好を見下ろしてしまった。今日はライトグレーのワンピーススーツだ。地味である。店内はきれいに着飾った女性が多く、気後れしていると、弘貴が笑いながら耳元でささやいた。
「大丈夫、この店、ドレスコードはないんだよ。それから、個室をおさえてもらったから」
格好が気になるなら、今度はドレスアップして来ようねと言われて、遥香はほんのり頬を染めた。今度があるらしい。つきあえない、と思っているくせに、今度と言われて喜んでしまうのだから、自分も大概意志が弱い。
「お酒強くないんだっけ? どうする」
「あ、ウーロン茶で」
「わかった。それから、勝手にコースにしちゃったけど、食べられないものはない?」
「大丈夫です」
弘貴が飲み物をオーダーし終えて店員が個室から出て行くと、遥香は急に落ち着かなくなった。
テーブルの真ん中にインテリアとしておいてある小さな蝋燭の炎が、ガラスの容器の凹凸に反射して幻想的に揺らめくのを、無言のまま見つめる。
やがて飲み物と前菜が運ばれてくると、乾杯とグラスを合わせた後に、遥香は意を決して口を開いた。
「昨日は……、すみませんでした」
コースに合わせて白ワインを頼んでいた弘貴は、グラスに口をつけたまま動作を止めた。
それからグラスをテーブルにおくと、真剣な表情になる。
「俺の方こそ、ごめん。怖かったよね」
テーブルの上でそっと左手を握られたから、遥香は恥ずかしくなってうつむいた。
「頭に血が上ってやりすぎた。泣かせてしまってごめん。でも、これだけは信じてほしい。俺は、ちょっとしたことで嫉妬して目の前が真っ暗になるほど、君のことが好きなんだ」
「……っ」
ドクンと心臓が大きく脈打って、うつむいたまま視線だけで見上げた弘貴の眼鏡越しの瞳がとても真剣だったので、遥香は握られていない方の手をぎゅっと握りしめた。
もしも、弘貴のこの表情が、言葉が、嘘や冗談だと言うのなら、彼はよほど演技が上手なのだと思う。それくらい真剣で、本気度が伝わってくるから、遥香は泣きそうになる。
釣り合わないと言い訳して、もう二度と恋愛で傷つきたくないと逃げて、惹かれているのに曖昧な態度ばかり取り続けた。
(……信じていいの?)
弘貴に握られた左手が熱い。どうしようもなく高ぶっている鼓動がその手を通して伝わっていきそうだった。
緊張で硬直していると、くすりと弘貴が苦笑を浮かべた。
「ごめん、困らせるつもりはなかったんだよ」
すっと左手を握っていた弘貴の手が離れていくのを、淋しいと思ってしまう。
(……好き)
そう言えたら、どんなにいいだろう。けれど、遥香にはまだその勇気が足りない。
前菜として出されたブルスケッタとカプレーゼは、緊張でうまく喉を通らなかった。
弘貴から食事の誘いがメールで届いたとき、遥香は純粋に嬉しかった。
遥香もメールではなく直接会って謝りたかったし、昨日の弘貴はとても怒っていたから、ゴールデンウィーク前に仲直りがしたかった。
定時後に一緒に社外へ出たら目立つからという理由で、弘貴とは駅前の時計の下で待ち合わせすることになった。
デートの時にずぶ濡れになっていた弘貴を思い出し、遥香は思い出し笑いをかみ殺しながら弘貴を待つ。
五分ほど待ったところで到着した弘貴に連れていかれたのは、高そうなイタリアンレストランで、遥香は思わず自分の格好を見下ろしてしまった。今日はライトグレーのワンピーススーツだ。地味である。店内はきれいに着飾った女性が多く、気後れしていると、弘貴が笑いながら耳元でささやいた。
「大丈夫、この店、ドレスコードはないんだよ。それから、個室をおさえてもらったから」
格好が気になるなら、今度はドレスアップして来ようねと言われて、遥香はほんのり頬を染めた。今度があるらしい。つきあえない、と思っているくせに、今度と言われて喜んでしまうのだから、自分も大概意志が弱い。
「お酒強くないんだっけ? どうする」
「あ、ウーロン茶で」
「わかった。それから、勝手にコースにしちゃったけど、食べられないものはない?」
「大丈夫です」
弘貴が飲み物をオーダーし終えて店員が個室から出て行くと、遥香は急に落ち着かなくなった。
テーブルの真ん中にインテリアとしておいてある小さな蝋燭の炎が、ガラスの容器の凹凸に反射して幻想的に揺らめくのを、無言のまま見つめる。
やがて飲み物と前菜が運ばれてくると、乾杯とグラスを合わせた後に、遥香は意を決して口を開いた。
「昨日は……、すみませんでした」
コースに合わせて白ワインを頼んでいた弘貴は、グラスに口をつけたまま動作を止めた。
それからグラスをテーブルにおくと、真剣な表情になる。
「俺の方こそ、ごめん。怖かったよね」
テーブルの上でそっと左手を握られたから、遥香は恥ずかしくなってうつむいた。
「頭に血が上ってやりすぎた。泣かせてしまってごめん。でも、これだけは信じてほしい。俺は、ちょっとしたことで嫉妬して目の前が真っ暗になるほど、君のことが好きなんだ」
「……っ」
ドクンと心臓が大きく脈打って、うつむいたまま視線だけで見上げた弘貴の眼鏡越しの瞳がとても真剣だったので、遥香は握られていない方の手をぎゅっと握りしめた。
もしも、弘貴のこの表情が、言葉が、嘘や冗談だと言うのなら、彼はよほど演技が上手なのだと思う。それくらい真剣で、本気度が伝わってくるから、遥香は泣きそうになる。
釣り合わないと言い訳して、もう二度と恋愛で傷つきたくないと逃げて、惹かれているのに曖昧な態度ばかり取り続けた。
(……信じていいの?)
弘貴に握られた左手が熱い。どうしようもなく高ぶっている鼓動がその手を通して伝わっていきそうだった。
緊張で硬直していると、くすりと弘貴が苦笑を浮かべた。
「ごめん、困らせるつもりはなかったんだよ」
すっと左手を握っていた弘貴の手が離れていくのを、淋しいと思ってしまう。
(……好き)
そう言えたら、どんなにいいだろう。けれど、遥香にはまだその勇気が足りない。
前菜として出されたブルスケッタとカプレーゼは、緊張でうまく喉を通らなかった。
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