エルフ始めました。
第6話 エルフ、ついに詰む。
エルフになって二日目。  
目を覚まし、顔を洗いがてら鏡を覗くと、改めて自分がエルフになってしまったと実感が湧いてくる。
「はぁ……」
昨日はエルフになってすぐで、調子に乗って実験やら何やらと色々試してきたわけだが、一回寝て夜を越してみると冷静さが戻ってくるわけで……
「昨日の俺、まじ無いわぁ……」
結構へこむ。いや、マジで。
スマホを開き、昨日撮ってトゥイッターにあげた写真をみるとよりへこむ。
「って、すげーバズってるし……」
自分のアカウントを開いてみると、フォロワーがすでに一万を超えていた。
さらに、自分のトゥイートのコメントを見てみるが、「すげー可愛い!!」とか、「クォリティー高すぎ!!」とか高評価。
一躍有名になってしまった。
一応社交辞令風にコメント返しとくか……
「高評価ありがとうございます。っと」
これで大丈夫だろう。たぶん。
そしてスマホをベッドに置き、昨日そのままにしっぱなしのお肉やお皿を片付けていく。ついでに部屋の片付けも。
ゴミ捨ては、自分の姿が目立たない夜にすることにした。
部屋の片付けが終わり、いつものポジション(ベッド)にあぐらをかいた俺は、今後の事について考えていた。
まあ、昨日も同じようなことを言っていた気もしないが、昨日は冷静さはなく、興味の方にそれてしまっていたため、それは気にしないで欲しい。
真剣に考えてみると、色々な問題が頭の中に浮かんでくる。
具体的には「肉食えねぇ」とか、「肩こりやべぇー」とか、「風呂どうしよう」とかだ。
その中で一番心配なのが、俺という存在を認めてもらえるかどうかだ。
何より、この姿では俺が俺ということを証明出来ない。色々証明の仕方はあるかもしれないが、俺が俺だとこの世の中に肯定させることはほぼ不可能に等しいだろう。近しい人だったら信じてくれる人もいるとは思うが。
このままずっと自宅警備員という名の引きこもりニートだったらそういう心配とかはしなくても大丈夫なのだが、生憎一人暮らしの俺は、働かなくてはならない。今は親から貰ったお金で生活できてはいるが、そろそろそのお金も底をついてしまいそうだ。
ならどうするか。
まあ、アルバイトするしかないだろう。だが、そのアルバイトには自分の証明書とか必要だ。
顔が凄い変わってるとかだったら最悪信じてもらえそうだが、性別も変わってしまっては無理と書いてゼロに等しいだろう。
てな訳で、結果、俺は将棋でいう王手をかけられているわけだ。
さて、このほぼ詰んでいる状況でどうしようか……
生憎今は時期的に春休み。まだ時間は……って、俺社会人だから関係ないじゃん。
そんな意味もない一人芝居をしている時だった。
「お兄ちゃん、電話だよっ!出ないと許さないんだからっ!」と、俺のスマホから三原 茜ちゃんから呼び出しが。
俺はそれにびっくり仰天。天地がひっくり返りそうになった。
だってさ、友達ゼロ人万年引きこもりニートの俺のスマホに電話がかかってきてるだぞ?
驚くに決まってるだろ。むしろ、驚きを通り越して死にかけたわ。
俺は恐る恐るスマホを取り、通話ボタンを押した。
「はい、もしもし?」
『あっ、えーくん?(えーくんは俺のこと)姉の詩織だけど……』
「姉かよ!!」
スマホをベッドに叩きつける。
期待してた俺の青春を返せよっ!!って思ったけど、俺の青春もう終わってた……
『えーくん?大丈夫?』
「あー、大丈夫です、気にしないでもらえると」
俺は気を取り直して電話の続きをする。
「ところで何用でございますでしょうか?」
『何用って、今日私がえーくんの家に行くことになってたはずだよ?』
「えっ?」
カレンダーを確認してみると、今日の日付にその通り記されていた。
「あははっ、忘れてました。てへっ」
『てへっじゃないよ、もお〜。覚えておいてよね。それより、さっきから女の子みたいな声で喋ってるけど風邪でも引いてるの?』
「そ、ソウナンダー、風邪引いてるだけだから気にシナイデー」
『風邪薬買ってきてあげようか?』
「いや、ダイジョウブデス」
『うん、わかった。じゃあ後五分くらいで着くから」
「あっ、了解です」
そして終了ボタンを押した。
それと同時に、将棋の場面も変わってしまっていた。
「これ、俺詰んだわ」
試合終了のカウントダウンが始まった。
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