あの滑走路の向こう側へ

きさらぎ ねこ

第3章 八、怪我からの復帰



退院後、2週間の自宅療養ののち、
美香は、バックヤードでの勤務に復帰した。

全治3ヶ月。

薬で痛みを止めるような体では、
真樹へ一歩踏み込む気力もなければ、
まして、東京に乗り込む元気もなかった。

はれて完治を言い渡され、
久々に美香は同期の唯、史緒里と集まっていた。
「完治おめでとう!」
「ありがと」

「仕事はどう?」
「毎日、集札業務してたら、意味不明だったテレックスも解読できるようになった」

怪我の功名だねと、みんなで笑った。

「それでさぁ、美香、頻繁に東京に行ってたけど、治ったし、また行くの?」
「んー、わかんない」
「で、結局、その動機はなんなの?」

答えを渋っていた美香だが、話始めた。

「去年、友達の結婚式で再会した友達がいてさ」
「ほう、その友達は男だな」

「学生の頃からそうだったんだけどね、
2人で出掛けたり、趣味や価値観も合う思うんだ。
でも、学生の頃から、彼、連休になると
陶芸でこもっちゃって。
原因はそれだけじゃないけど、昔もそう、今もそう、それ以上に発展しなくて」

美香はグラスに目を落とすと、続けた。

「なのにさ、入院してたら、ひょっこり来たりさ」

二人の方を向くと、美香は困ったように笑った。

「難しいねぇ…」と二人は黙り込んだ。

しばらくして、まず唯が考えを述べた。

「基本的に何も考えず、ただ可愛いな、とか、この子頑張ってるな、って思うと、
自覚なく思わせぶりな態度になってしまう、みたいな人なのかな」

続いて史緒里が意見を述べた。

「付き合うってなると重い。踏ん切りがつかない。付き合うほどの勇気がない。
けど、可愛いと思ってる。他のやつと付き合うって思うとそれはやっぱちょっとやだ。
勢いで来ちゃったけど、色んな覚悟は出来てない、それとこれとは別。流されました、ってとこじゃないかな」

少し考えて、美香がまとめた。
「つまり、
唯の考えでは、無自覚なスケコマシ、
史緒里の考えでは、意気地なしの自己中、と」

「ダメじゃん」
「ダメだね」
唯と史緒里が口を揃えて言った。

「そうだよね…」
美香は呟くと、遠くを見た。




コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品