あの滑走路の向こう側へ

きさらぎ ねこ

第3章 四、久々の思い出の地



翌日、美香ははやる気持ちを抑えながら、
待ち合わせへと向かった。

11月も半ばの鎌倉の寺院は、
紅葉が色付き始め、たくさんの人がいた。

「懐かしいな」
「一緒に行った映画の舞台だよね、
 えーっと…」
「『そして君に逢う』だよね」

昔、一緒に観た切ない恋愛映画、
美香は、自分に重なるようで、
暖かいような苦しいような気持ちだった。

ふと立ち止まり、空を見上げていたり、
紅葉を眺めながら何か考えている様子は、
昔の真樹と変わらない姿だった。

邪魔したらいけないような、
邪魔できないような、
手が触れるぐらい近いのに、遠いような、
真樹は、そんなふうだった。

「空港って場所、すきなんだよ」
と、真樹は出発ロビーまで送ってくれた。

「美香ちゃんも、ああいう仕事してるんだよね」
無線を手に走り回る航空会社の係員を見ながら、真樹は感心したように言った。

「そうだよ、うちは羽田みたく広くないけどね」
そう言いながら、美香は手荷物検査場へ向かった。

日曜日の夕方の出発ロビーは、
別れを惜しむ家族やカップルが溢れていた。

「今日は、ありがとう、懐かしかった」
美香は想いを振り切り、笑顔を作った。

手荷物検査場を通り、
ガラス越しに真樹を探すと、
彼も気付いて、片手を上げた。

美香も軽く手を振ると、搭乗口を目指した。

東京に、また想いを残してしまった、
そんな事を機内で美香は考えていたが、
到着し、飛行機から一歩踏み出すと、
そこは職場であり、現実であった。

到着ロビーで同期の唯が近寄ってきた。
「お客様、ご搭乗ありがとうございました」
「あぁ、おつかれ」
「結婚式、どうだった?」
「ん?あぁ、まぁ、良かったよ」

「およ?およよ?」
美香の反応の薄さに、何か気になるところがあったようだが、唯は仕事に戻って行った。



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