異世界救う元漁師

琴瀬 ういは

突然のお別れ

鍛錬を続けてから3年の時がたった。

この空間では年を取らない。
だから俺の年齢もずっと19歳のまんまだ。

俺としてはかなり成長したと思う。

創造するスピードは一秒に50本の大剣が創れるって程に達し、またそれを全て扱うことが出来る。

剣を持たなくても命が宿っているため俺の意思で思いどうりに動かせるようにもなった。
最初は1本だけだったが今は全てだ。

前はジル爺と剣を交えて、1本も取れなかったが、今は95戦30勝50敗15引き分けとなっている。

ちなみにメイドのネロも戦闘が出来ると聞き、拳での組手をやってみたのだが……。

まさかの全勝した。

でも本当は、ネロは全身に気を纏い闘うらしい。
気を纏った一撃は剣に刺された痛みと同じだとジル爺は言っていた。

格闘や武術についてはティオナが教えてくれた。
獣神だけあって戦闘はパワフルなほうだ。

まずティオナの動きは目で追えない。
あまりにも速すぎて認識出来ない。

そんなスピード狂である武術の先生はと言うと、今はソファーでくつろいでいる。

ちなみに俺は椅子に座りコーヒーを飲んでいる。


「ティオナ様そろそろ薬のお時間です。」

「うん、わかったわ。」


この光景はこの空間に来てからよく見る。
どんな薬を飲んでいるのかは分からないが、たまに苦しそうにしている時がある。

それでも俺には優しく接してくれるし、朝はいつもおはようのキスをしてくる。

今は慣れたが最初はビックリした。
それに必ず夜中過ぎに俺のベッドに忍び込んでくる。
そのため朝は必ずイチャイチャ展開に発展するのだが、これも慣れてしまった。


さて、二人もリビングに居なくなったし、いつもの日課をやりますか。

まず目を瞑る。
そしてイメージする。
今回イメージするのは……ティオナにするか?うん、そうしよう。

俺は木製の等身大ティオナ像を作ることにした。
創造に慣れた俺なら、こんなのはすぐだ。

目を開けるとそこにはティオナがいた。
木製のティオナの完成。
これかなりの完成度じゃないか?と思いながら、ウンウンと頷く。


「おーい、ティオナ嬢。ちょっとこっちに来てくれんかのぉ、ん?なんで返事しないのじゃ?」

「あっははっ、お爺さん、これティオナの象だよ。ははっ」

「なに?象じゃと?お、ホントじゃの。いい完成度じゃ、お主が作ったのか?」

「創造で作ってみたよ。いい感じでしょ?」

「ふぉふぉ、まんまと騙されたわい」


まぁこんな感じで最近は過ごしている。
実に有意義な時間だ。
地球との暮らしとは大違いで、でもここの暮らしは好きだった。


「さて、ティオナ嬢は何処に─」

「ティオナ様っ!ティオナ様っ大丈夫ですかっ!あぁあ誰かっ、レイ様っ!レイ様っ!」


急の事だった。
直ぐにネロの所に行ってみると、ティオナが口から血を吐いて倒れている。

まだ息はしているようだ。
でもどうしたらいい?何をすればいい?


「これは不味いの、ネロ殿、今すぐ大量の水と布を用意してくれ。レイ、お主はわしとティオナ嬢を部屋へ運ぶのじゃ。」

「わかった。んっしょ、よし、行こう。」


訳が分からなかったが一大事って事は分かる。それに薬のことが絶対関わってることもこれで分かった。




暫くしてネロが水と布を持ってきて、血を洗い流し、ようやく落ち着いた。
ティオナは今、ぐっすり眠っている。
その横で不安そうにネロはティオナを見つめていた。
俺も椅子に座り、手を握りながら見つめている。


「今まで黙っていて申し訳ございません。ティオナ様は…その…。」

「ネロ、もう大丈夫だよ。だから言ってくれ、ティオナは?」

「ティオナ様は…もう長くはないのです。あと、一ヶ月程だとジルデット様は申していました。ティオナ様は生まれてから体が弱かったのです、それ故に貴方に会うまでは暗く、冷たい方でした。でもティオナ様は変わりました。」

「俺に出会ったから?」

「はい。とても明るくなり、まるで太陽のようでした。貴方の隣にいる時は、特にです。寿命が短いという運命と戦いながら、それでも生きようと一生懸命でした。」


泣きながら話すネロはとても見ていられない。
でも、俺は何も出来ない。
助けたいのに、その力もない。
なんて情けないんだ。

いやまてよ、創造で病が治る薬を作ればいいんじゃないか。


「わしもそれはやろうとしたのじゃがの。ティオナ嬢に止められてしもうての、死期が来た時は死なせて欲しいと、そう言われたのじゃ。」

「それで納得したの?」

「ティオナ嬢が言うんじゃ、どうにもならん。それにようここまで生きたもんじゃ、本来ならもうとっくに息は引き取ってるんじゃ。もう…これ以上…無理させてはならん。」


そうか、かなり無理をしていたんだな。
ごめんな、全然気づかなくて。
こんな弱いこれで…ごめん…。


「ふぐっ、ぐずっ、ごめん…ずっ、グゾぉ、」

「お主は悪くないのじゃ、自分を責めても何にもならん。せめてもティオナ嬢が幸せに逝けるように…準備してやるのが…わしらの務めじゃろ?」


俺は涙を拭った。
そうだ、こんな所で泣いてたって仕方ない。行動したいとな。

まずはいっぱい花を用意しよう。
それに沢山の思い出を1ヶ月で作ろう。





ティオナが倒れて眠ってから1週間がたった。あれからずっと俺は一緒にいる。

寝る時も一緒に寝てるし、朝は必ずおはようのキスをした。
ティオナがしてくれたように、今度は俺が返す番だと。

ティオナはたまに目を覚ますがすぐに眠ってしまう。
覚ました時に必ず言う言葉がある。


「また…お花の数…増えたのね…やっぱり…貴方は……可愛いわ…。」


俺はあの日から毎日、花を用意している。
創造で作って花だから、枯れたりしない。

今は70本ぐらい花がある。
一日に10本のペースで作っている。

それが今俺に出来る事だから。

ネロもまたに部屋に来る。アーテルも来るが必ず泣いてしまう。




時は早い、もうあれから1ヶ月経とうとしている。
今日は満月、とても綺麗だ。
今はティオナの隣で横になっている。


「もう、お別れなのかな」

「・・・・・・・・・」

「ティオナ、俺さ、今なら言える。いや今だから言いたいってのもあるけど、えっと…俺、ティオナのこと好きだった。だってめっちゃ可愛いんだもん、それに凄く優しいし、でも1番は……包容力ある所かな?なんつうか、ほら、すぐ抱きしめてくれるだろ?創造で失敗した時も、成功した時も、まるで自分事のように喜んでさ。そうゆう所、凄く好きだ。」


聞こえていないだろうが、だからこそ言えた。本当は本人の元気な姿を見ながら言いたいと思うが、それはもう叶わない。


「レイ…聞こえているわ…私も……貴方の事が…好きよ……。」

「え?お、おい、無理するなよ。」

「大丈夫よ…それに貴方だけ…好きに言うのは……おかしいでしょ……。」


とても見ていられない状態だ。
それでも彼女は言葉を続ける。


「あのね…本当は……貴方との間に…子供……欲しかったわ……アーテルの様な……元気がいい…子、でも…それも無理よね……ねぇレイ…私が死んでしまったら……忘れないでね。」

「忘れないよ…忘れるもんかっ!大好きだっ、」

「でも……レイには幸せになって欲しい……だから…私より…素敵な人に……出会って欲しい…私からの願いよ……。」


そんなの出来ない、俺にはティオナしかいない。
他の人を好きになるなんて、出来ないよ。


「貴方に……これをあげるわ…素敵でしょ?……本当は…結婚する時に…渡したかったけど……それも無理……だから、せめて…私という形を……残したいから…ゴホッゲホッ…」

「ティオナ…俺は…忘れないよ。そしてティオナの願いも受け止めるからっ、」

「良かった……愛してるわ…ずっと…見守っているから…困ったことがあったら…背中を…おし…て…あ…げ…」


ティオナの手から力が抜けた。
もう息もしていない。大切な人が死んだ。

神でも死ぬ、人と同じ。
俺はそっとティオナの左手の薬指に指輪をはめた。




その日の満月はとても綺麗だった。

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