幼なじみが負けるわけない!

空空 空

最強の幼なじみ

 ズシンズシンと、一定の間隔で地面が揺れる。道路には亀裂が走り、砂埃が舞う。辺りは阿鼻叫喚が溢れ、人々はデタラメに逃げ惑う。
 大音量で街に放送が流れる。
『大型異怪獣イモリンが上陸しました!ただちにテーブルの下や校庭などの安全な場所に避難してください!ブロック塀には近寄らないでください!』
 異怪獣。
次元の歪みがどうにかなって、この世界に召喚された怪物だ。
 そんな危機的状況だが、ある一人の人物を探して俺は人の波に逆らう。
 しかし......その人物を見つけるより先に、異怪獣イモリンがビルの隙間から現れた。
 黒くぬらぬらした体表に、背中にはゴツゴツしたトゲが生えている。首から腹にかけて血に濡れたように赤く染まっている。
 その濁った黄色い目玉がギョロギョロ動き、俺を捉える。
「うっ......」
 そのあまりにも非常識な大きさに気圧される。ビルより少し小さいくらいだ。しっぽまで含めれば楽々とビルの高さを超えるだろう。
 イモリンがこちらを見つめたまま握りこぶしを作る。骨ばっていてとても痛そう。
 イモリンに背を向け、逃げ出す準備を始める。
あまり猶予もないので、全行程をすっ飛ばしていきなりアキレス腱だ!
  しかし、そんな努力も虚しく拳が振り下ろされる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 人間の一番大切な部位は頭。頭が潰れたら終わり!
 咄嗟の判断でしゃがみこみ手で頭を覆う。
 ズンッという重い衝突音と共に、突風が吹き抜ける。首のところから砂が入った。気持ち悪い。
 数秒の間沈黙が続く。
自らの生を実感して、喜びに打ち震えながらゆっくり振り返る。
 目の前には、女の子の尻があった。ビキニ並みの露出度で、実際水着みたいな質感だ。魅惑の曲線を描く背中には機械で出来た翼を背負っている。あとなんか色々よく分からん兵器も積まれてる。丸みを帯びた肩から伸びるすらっとした腕は片手でイモリンの拳を受け止めている。
 そして彼女こそが俺が探していた人物。最強の『異怪天使』で俺の幼なじみの「なじみ」だ。
「なじむくん!大丈夫!?」
 長く柔らかな髪を振って、なじみが振り返る。
「ああ。大丈夫だ」
「こんなところにいちゃダメだよ!」
 イモリンの追撃を手で払いながらの説教が始まる。
「なんで避難しなかったの?」
「仕事ぶりを確認しようと......」
「そんなことで!?」
 顔を真っ赤にして、大層ご立腹のようだ。
「まぁ、悪かったよ......。後でジュース買ってあげるから」
 まったく......と、なじみが溜め息をつきながらイモリンのがら空きのボディに強烈なパンチをお見舞いする。兵器使わないんだ......。
 ゆっくりとした動作でイモリンがひっくり返る。また突風が発生し、なじみの髪が揺れる。
 俺ら以外誰も居ないちょっと壊れた街で、二人見つめ合う。
「なじむくん......。もうこんな危ないこと......」
 イモリンの尾が揺れる。
「危ないっ!」

 なじむくんが叫んで、私に飛び付いてくる。
え?小さい頃一緒にお風呂に入ったりしたけど、流石に今はそんな大胆なスキンシップはダメだよ!
 瞬間、強烈な衝撃が走りなじむくんと一緒に荒れた路面を転がる。
 景色の流れが止まると、青空の中に不安そうにこちらを覗き込むなじむくんの姿があった。
 私に馬乗りになって、顔に手を伸ばす。指が頰に触れると、なじむくんの温度が一気に流れてきた。
「なじむ......くん」
「大丈夫か?なじみ?」
 なじむくんが何か言っているが、私はそれどころじゃない。
 心拍数が跳ね上がって、体温がぐんぐん上昇する。
 軽くパニックな私を心配してか顔を近づけてくる。
「なじみ?」
「か、顔......カオガチカイ......」
 そう。
私はなじむくんのことが好きだ。
 この時間がずっと続けばいい。そうとすら思える。
 そうしている間にもイモリンの尻尾が......。
「邪魔しないで」
 高エネルギー弾で焼き払われる。
 私、なじむくんと......こんな近くで、こんなこと......!
 目を閉じて、意味有りげに唇を突き出す。奪ってしまいなさいと念じる。
 なじむくんの服が擦れる音がして、そして......なじむくんの重さが消えた。
「ん?あれ?」
 体を起こすと、強い日差しを浴びてなじむくんが立っている。
「今日もこの街を守ったな!」
 私の眼前にサムズアップ。
「ちょっと......!」
 私だけドキドキしてバカみたいじゃない!と立ち上がる。
「ほんとに、なじみはすごいな」
 そんな私を、満面の笑みで迎えてくれる。
「まぁ......その......ありがとう」
 眩しい笑顔からは、若干めを逸らしつつ。
 やっぱり私はなじむくんが好きだ。
 
 

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