ウ〇コ時間に読めるショートショート

けったいん

やっぱリアルっしょ。【4月13日をテーマにショートショート】


多摩川の河川敷。小さな桜の木の下。
裏手には水産会社の工場がある。

ここで約一時間後、俺の決闘が行われる。

相手は誰かというと、実は会ったこともない奴だ。

SNS上で喧嘩になり、実際にタイマンで解決しようと決闘を申し込まれた。
俺も相手も同じ高校二年生らしい。負けるわけにはいかない。

かの宮本武蔵と佐々木小次郎も、この令和の新型決闘スタイルにさぞ驚いていることだろう。

ふざけたことを言ってはいるが、
いちおう俺は地元で有名な不良で、売られた喧嘩は絶対に買う主義だ。

俺を更生させようと、これまで何度も中学校や高校の教師が
暑苦しく近寄ってきたが、やはり途中で呆れて見放していく。

結局、俺みたいな泥水にどんな浄水器を使っても同じだ。
泥水は、泥水のままなのである。

そうやって物思いにふけっていると、その時間はやってきた。
遠くの方から、5人ほどの人影がこっちに向かってくる。

「仲間連れてくるとかダセェことしてんじゃねえぞ。」
煙草をくわえながら思わずつぶやいた。

5人の中でもひと際ガタイのいい奴が先頭を歩いているが、
たぶんアイツが俺の相手なのだろう。

「お前さ、そいつら何?」と俺が尋ねる。

「心配すんな、審判だよ。初対面だと合図がねぇと始めにくいだろうが。」
と、先頭の男が近づいてきて答えた。

近くで見て分かったが、こいつはガタイがいいだけではなく、
スポーツで鍛え上げられたしなやかそうな身体をしている。
なかなか強そうだ。

「んじゃ、今はネットのことはゴタゴタ言わずにとっととやるか。」
煙草を靴底で消しながら、少し挑発してみる。

「いいよ、早くやろうぜ。」と相手が答える。

すると、取り巻きの男が一人、俺らにゆっくりと近づいてきた。

「すたーとぉ。」
そいつのダルそうな声と同時に、俺らはお互いに殴り掛かった。


まず、俺の右ストレートが相手の肩下に入った。
その後、相手の右フックが俺の脇腹に入る。思わず声を漏らす。

そこからは、あまり記憶がない。

お互い流血しながら10分ほど殴り合っていたところを、
急に取り巻き立ちに止められた。
水産会社の人間が警察に通報したらしい。

俺は、草むらに倒れて動けなくなった。

しかし、それは相手も同じだったらしい。
2人で大の字になっている。

取り巻きたちは、いつの間にかいなくなっていた。

空では、桜の花びらが風に乗って舞っている。

そういや、今年の桜は一生懸命咲いているのに、
コロナであまり誰にも見られてないのか。
なんか、俺と少し似てるな、と思った。


少し無言の時間が続き、相手に聞いてみる。

「お前さ、スポーツとかやってるっしょ。」
「ハンドボール。」
「なら喧嘩とか売ってんじゃねえよ。」
「関係ねぇだろ。」
「てか、SNSで揉めてタイマンはまじでヤバすぎ。」
「確かにちょっと面白い。」
「お前が売ってきたんだろ、面白いじゃねえよ。」
「新しいだろ。」
「新しいけど審判まで連れてくんなよ、アホが。」

遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。

「そろそろ逃げるか。」
「喫茶店でも行くか?」
「おう。」
「よし、行こう。」
「おう。」

身体の痛みをこらえて立ち上がる。
「やっぱリアルだな。」
「だな。」


久しぶりに、親友ができた。


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4月13日は、
決闘の日
水産デー
浄水器の日
喫茶店の日

これらのキーワードをつなぎ合わせてショートショートを書いてみました!


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