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ウ〇コ時間に読めるショートショート

けったいん

デジャヴ【4月9日をテーマにショートショート】


「もうお前、明日から来るなよ。」

俺は仕事をクビになった。

左官職人の見習いをしていたが、
親方がいつも作業中にラジオから流している意味の分からないフォークソングに対して、
「なんすか、この地味な曲。」
と、ついに本音を漏らしてしまったのだ。

理解できないかもしれないが、
意味の分からないフォークソングを毎日毎日絶妙な音量で聞かせられるのは、相当な苦痛なのである。

しかも、実はそのフォークソングは、親方が高校生の時に自分で作ったものだったらしい。
そんなの聴くかね、普通。

まあそんな小さなことから親方と殴り合いになり、
現場から追い出されたのだ。

ちなみに左官とは、建物の壁をこてを使って塗る仕事のことだ。
お互い壁を塗るのは上手くても、この関係の修復は難しそうだ。

思いもよらず午後から暇になってしまった俺は、
とりあえずコンビニで缶コーヒーと煙草を買い、家の近くの公園で一服していた。
隣のベンチでは、主婦らしき人たちが雑談をしている。
この後、市民会館でやっている美術展を見に行くらしい。
こんなおしゃべりが日課なのだろうか。とても平和な風景だ。

俺は、とりあえず家に帰ることにした。

・・・

家に帰ったはいいが、特にすることがあるわけでもない。
今日は汗をほとんどかいていないが、一応シャワーを浴びる。

見習いを初めてまだ4ヶ月そこらだったにもかかわらず、
仕事柄か身体も少し逞しくなったように感じる。
あのフォークソングに耐え続けていたら、
俺の身体は相当な筋肉に覆われることになったのかもしれない。

シャワーから出て、部屋着に着替える。
窓から入る風が心地よい。

ふと、先ほどの主婦たちの会話を思い出す。

美術展か。行ったことはないな。
金を払って作品を見た記憶といえば、奈良の東大寺ぐらいかもしれない。
あの大仏はデカかった。

思いのままにサンダルを履いて家を出た。

市民会館レベルだからか、今日が平日の昼間だからか、
いずれにせよ美術展は閑散としていた。
人混みで賑わうよりはずっとましだが、作品を出している人からすると、かわいそうだと思う。

よくわからない銅像や絵画、歴史的な絵巻物のようなものなど、様々なものが展示されていたが、
結論から言うと、俺の心に刺さるものは一つもなかった。
これで八百円も取られたなんて信じられない。俺は無職だぞ。

散歩がてら遠回りしながら家まで帰っていると、
鍼灸整骨院の看板が目に入る。
仕事と一緒にこの身体の凝りも取ってしまおう。
そう思って、整骨院の扉を開けた。

・・・

鍼はよく打ってもらっていたが、今回は久しぶりだ。
担当してくれたのは俺と同じくらいの年齢の男性だった。

鍼が刺さり、的確に凝りをほぐしている感覚がする。
すごく心地よい。
すると、その整体師はおもむろに音楽をかけ始めた。

すごく心地よい。ちょうどいい音楽。すべてがピンポイントだ。

無言なのも気まずいので、俺がクビになった話をしてみたら、
そこそこウケた。美術展の話もしてみる。

彼には、あの美術展が刺さったそうだ。よく分からない。
刺し上手で、刺され上手ということか。

仲良くなった俺らは、それからよく遊ぶようになった。

整体師だったリョウは、ギターが趣味でよく家で弾いていた。
こいつはやっぱり手先が器用だったらしい。
そんなリョウに影響されて、俺もギターを始めた。
もちろん、「ゆず」のようなフレッシュさはない。
傷物の「デコポン」レベルだ。

2人で集まっては曲を作り、公園で歌ったりした。
そうやって、どんなヒットチャートを塗り替えもできない、
そして、どんな人の心にも刺さらない曲を生み出し続けた。

・・・

無職になった俺はというと、こんなことをいつまでも
やってられないと思い、きちんとした仕事についた。
今では不動産会社の営業部長だ。


最近、よく部下に注意されることがある。

それは、デスクで自分の曲を流すことだ。


ーーーーー
4月9日は、
大仏の日
美術展の日 
左官の日
フォークソングの日
鍼灸の日

これらのキーワードをつなぎ合わせてショートショートを書いてみました!

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