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藤ヶ谷海斗は変われない。

うみはかる

それは終わりの始まり、あるいは始まりの終わり。

「ちょっと待てよ。まだ誘拐って決まったわけじゃないだろ?」

確かに、幼い子供をずっと見かけないというのは、誘拐の線を疑うのも当然の道理だ。でも、誘拐と断定した上、自分たちの追っている事件に関連していると断ずるのは判断が早すぎるのではないだろうか。

「……そうですね。少し断定が早かったと思います。とりあえず、こちらでこの依頼は受理しておきます。」

少し物憂げな顔をしてから、アシュネはそう言ってギルドの奥へ向かってしまった。もやもやとした感情が残る中、リィと俺は顔を見合わせて、ふう、とため息をついた。

「……なんだか遊ぶ気分でもなくなっちゃったっす。」

「そうだな。」

 こんな雰囲気の中で遊びに興じるような気分にはどうしてもなれないな、と思っていたが、リィも同じような気分だったようだ。

とぼとぼと歩いて行くリィの背中を追うようにゆっくりと街を歩いていく。ギルドでの依頼になった以上、その依頼が俺たちの仕事として振られない限りは俺たちにできることはもう無くなってしまったのだ。

そんな日から、3日が経った。
毎日少しずつ増えていくトレーニングをこなして、スズとリィの模擬戦を見て静謐ノ型を観察して、俺自身もそれを試す。三日間、ひたすら同じような日々を繰り返していた。正直体は限界。死んじゃう。
静謐ノ型についても結果は芳しくなく、最初の模擬戦での成功は奇跡と呼ぶのがふさわしかった。あの一回以来、俺の静謐ノ型が成功することがなかったのだ。失敗は成功の元とは言うが、成功が失敗の元になるのは聞いてないな……。
何が悪いんだろうか、と頭を悩ませても答えは出ない。がむしゃらにやるしかないだろう。時間をかけてでも、少しずつ自分の物に。何のために特急でトレーニングをしたのか。少しでも静謐ノ型を会得するための時間を取るためだ。

そんなことを考えながら、リィと一緒に家に戻る。今日は用事があるからと修行を先に抜けていたスズは、難しい顔をして悩んでいた。

スズの肩を叩くと、そうしてやっと俺とリィの存在に気づいたようだ。

「終わった?お疲れ様。」

「ん。で、どうしたんだ、そんな難しそうな顔して。」

俺の質問に少し唸ったスズが、うん、と一人頷いた。何かを決心したのだろうか。

「私、一日この家を開けることになる。」

「……一応聞いておくが、なんでだ?」

「ギルドからの指令。」

なんとなく予想がついていた。ギルドが総出を上げて取り掛かっている仕事。そしてスズへの指令。ここまで情報が出ていれば誰でも気づけるだろう。リィもなんとなく勘付いたようだ。

「内容について聞いてもいいか。」

「ん、同じギルドメンバーだから大丈夫。他の人には秘密にして。」

そう言ってスズがぽつぽつと語り出す。要約すると、人攫い、というか指名手配として国が追っていた盗賊が徒党を組んでここら辺にのさばっていて、その盗賊たちがアジトにしている場所を突き止めたらしいのだ。
問題は盗賊たちの強さで、人間だけでも国が手を焼くような手練れが多く、さらに魔人亜人もその賊と手を組んで活動しているようだ。理由は不明だが、そうなってしまっては話も変わってくる。魔人に対抗できる力を持つスズが駆り出されるのもそういう訳だろう。

にしても。この一連の話を聞いていれば、黙っていない奴がいるだろう。

「し、師匠!私も連れて行って欲しいっす!」

獣耳の少女が放った大きく部屋に響いた声には、焦りのようなものが含まれていた。
スズはそれに幾分か驚いたようで、少しの静寂が部屋には訪れた。

「駄目。リィ、あなたといえど魔人と戦えるほどじゃないのは、自分でも分かっているでしょ?」

少しの間を置いて、諭すような口調でスズは言う。それはリィだけでなく、俺に向かっても言っているように思えた。俺も行きたそうにしていると思ったのだろうか。
だが、リィにも事情がある。スズが心配だ、と言うのも多分に含まれているとは思うが、それ以上に依頼主のことを考えての発言だったと思う。そこら辺はスズが知る由もないところなので、スズとリィでは食い違いが起きるのも至極当然だった。

「ああ、ええとな。3日前の話なんだが。」

そう切り出して、スズに事情を伝える。ふむふむ、と頷きながら話を聞いていたスズは、全部を聞き終わるとしばらくの間黙ってしまった。

「や、やっぱり駄目っすかね……」

目を泳がせながらリィが俺に囁いてくる。無茶な提案だと言うのはリィもわかっていることらしく、語気には諦めが伺えた。

「……分かった。他にも連れ去られた子たちがいると思うから、その子たちを連れて逃げるのをカイトとリィに任せたい。」

気づいたら俺までメンバーに加わっていた件について。
なんてくだらないことを考えていると、俺が返事に迷っていると思ったのか

「カイトは心配じゃないんすか……?」

目を潤ませて、耳を垂れさせたリィが追撃をかけてきた。

ぐ……ここで断るのも印象的に悪いだろうし、危険だからできれば行きたくもないが、いくしかないだろう。仕方ない、仕方ないのである。

け、決して女の子のことが心配だったとかそういう訳じゃないんだからね!俺は誰に言い訳してるの?

「俺もある程度は鍛えてもらったし、それくらいならやらせてくれ。」

「カイトはいい奴っす!私は信じてたっす!」

ぴこーん!という擬音がなったかと錯覚するほどに耳を立てて尻尾を振り回して喜ぶリィ。それを穏やかに見つめるスズ。

二人がこんな顔をしてくれるのなら、やぶさかではない。日常は素晴らしいと非日常を経験して実感したのだ。うん。

「…出発は今日の夜。あの日カイトが襲われたところの近くにアジトがあるらしい。私たちは奇襲を仕掛けるつもり。戦闘要因と人質確保班に分かれる。あなたたちは人質確保の方で支援して欲しい。」

と告げられ、俺たちは夜を待つことになった。

自分に与えられた部屋に戻る最中、もしギルドに正式に所属したらこんな依頼ばっかなのだろうか、とか、よく考えたらこっちにきてからも人間以外と全く戦ったことがないな、とかそんなことを考えていた。

こっちにきてから何かがうまく行った試しもないのに、何も心配なんてせずに。これから起こることに、なんの憂いも抱かずに、俺はそんなくだらないことに思考を馳せていたのだ。




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