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藤ヶ谷海斗は変われない。

うみはかる

ザリアとギルドと夜明けの記憶。

「それで貴方、名前は?」

シャワーを上がった少女は、怪我をリィに手当てされている俺の目をじっと見てそう言った。
 

めちゃくちゃに吹き飛ばされた後にしては軽傷だったらしく、リィは「よくこんな軽傷で済んだっすね〜」と包帯を俺の体にグルグルと巻きながら言っていた。割と雑なので痛むが、手当てをしてくれているだけありがたいというものだろうか。

上半身裸の男と風呂上がりで薄着の女の子が見つめあっている絵面が怪しすぎる気がするが、それは言わぬが仏というものだろう。

この地球と違いこの世界では珍しいであろう黒髪を紅と表すのが最適だろうと思われる綺麗な瞳に、凛としている顔立ち。風呂上がりで薄着だからわかるが、服の上からだと華奢に見えた体は相当に鍛えられていると思える。
凛々しさという言葉が一番似合うだろう。

「俺は海斗。あんたは?」

「私はスズ。黒髪はあんまり見ない。カイトはどこから来たの?」

...のだが。
彼女、まったくもって表情が動かない。表情が「無」である。
何を考えているか分からなくて参る。
ここで転移者ということを明かしてもいいのだろうか。と考えていると

「...話しにくいこともある。無理に話さなくてもいい。」

と、こちらを気遣ってくれた。どうやら悪い人ではなさそうである。そもそも、命の恩人なので、それを疑うのはどうなんだと言われたら何も言い返せないが。

「明日には私たちはここを出て、ザリアに向かう予定。馬車でどこかに向かってたようだけど、目的地は?」

先ほども上がった、ザリアという地名には、聞き覚えがあった。

『ザリアという街のギルドにいる人に、この手紙を渡せば、話が通ると思う。』

そんな言葉を思い出し、服のポケットを漁ると、手紙はしっかりと入っていた。

大切に入れておいたおかげで、吹き飛ばされてもこぼれ落ちることなく入っていた。
他の荷物はほぼほぼどっかに飛んで行ったが、まあそれは仕方ないことである。
特に大切なものはいれてないので、よしとしよう。

この世界での紙の価値がどんなものかはわからないが、俺なんかのために紙を使ってくれること自体がありがたい。これでもし高価じゃなかったら涙を流すしかないが。

そんなことを思いつつ折りたたんだ紙を開いて、スズに見せる。

手紙を受け取ったスズはしばらく手紙を読んだ後、手紙を丁寧に折りたたんで俺に返す。

「...訳ありなのね。分かった、今日は休憩して、明日にはザリアを目指しましょう。」

そう言って、彼女は立ち上がって小屋の奥に向かって行った。

「師匠はあんまり顔に出る人じゃないからわからないかもっすけど、優しい人っす。とりあえず、この怪我だと風呂に入るのも厳しいだろうし、今日のところは寝ることにするっす。」

手当てを終えたリィはうちはここで寝るっす、カイトは寝室に行くっす!と言って床に寝た。

...女の子を床に寝かして自分がぐっすり寝る、と言うのはいかがなものだろうか。
この世界の常識がどんなものか知らないが、この二人、特にスズへの好感度は高く持っておきたい。

自分がこれからこの二人の中でどれくらい重要な立ち位置になれるか、というのは、もしもの場合にこの二人が自分を見捨てないかもしれない可能性を作るためにも大切である。好感度は、小さなことの積み重ねだと、誰かが偉そうに言っていたことが、脳裏をよぎる。

「起きてくれ、命の恩人を床に寝かせるわけには行かない。俺がここで寝るから、あんたは休んでくれ。」

どうやら日本人特有の譲り合いなんてものは、当たり前のようにリィは持ち合わせていない。俺の発言を聞くや否や、

「ほんとっすか!ありがたく寝させてもらうっす!カイトはいいやつっす!」

そういって風の如く、とんでもないスピードで寝室にかけて行った。日本人同士の譲り合いみたいなものが起きないというのは、今の場においてはとても楽なことだろうか。素直な彼女の性格に感謝といったところだ。

床は木製で固めではあるが、まあ別に寝れないわけではない。地球にいた時も、こんなことは数回あったし、と思い寝転がる。


今日はひたすら馬車に揺られたし、体も疲れていた。簡単に寝付けるだろうと思っていた。


まぶたを閉じると、すぐに睡魔はやってきて、泥沼の中に意識が薄れて....


『妻と二人の子供が、家で待ってるんだ。』

そう語る声が、後ろから聞こえた。

振り向くと、いい笑顔をしたアロイがこちらを見ていた。

顔しかなかった。


「———はッ...はッ...はぁ...」
 

顔が見ていた。こちらを。呪うように。


顔を手で覆っても、その目は視界から消えない。

...妻と子が、いたんだ。

生の実感に潰されて、隠れていたもの。

いや、生の実感に目を向けて、死の実感から、逸らしていた。

ドクン、と心臓が跳ねるのを感じる。
誰でもない、ただの見知ったばかりの大人。

言ってみれば、自分にはなにも関係のない人間である。

俺は悪くない。俺は悪くない。なんも、関係ない。


脳裏から、あの笑顔と、絶望したような顔は離れない。





結局、うまく寝付けず、朝日がその顔を出し始めた。

スズは早起きなようで、外が明るくなり始めた頃には起き上がってきた。


「...カイトは起きるのが早いのね。」

「うまく寝付けなかったんだ。いつもは朝に弱いんだけどな。」

「そう。移動方法だけれど。カイトは私たちについて来れなさそうだし、リィに担いでもらうわ。トレーニングにもなるだろうし。」

え?という声は届かなかったのだろうか。

現在、俺はリィに雑に担がれたまま、ものすごいスピードで移動している。

亜人の中でも身体能力の高い獣人族のリィはともかく、人間であるはずのスズがこんなスピードで移動できるものなのだろうか。


体感で数十分、休憩なしに移動し続けるこの二人の化け物加減がとんでもない気はするが、馬車を失った今は、この移動方法が最速なのだろう。

とはいえ絵面が酷すぎる。ひどいにも程がある。アニメとかに出てくる忍者みたいな動きだから、風も凄く当たる。

要はなにが言いたいかというと。

ザリアについた俺はボロッボロになっていた。

「...は、はは。」

「どーしたんすかカイト。元気がないっすよ!」

バチーン!という小気味よい音とともに、背中に衝撃が走った。

「リィ、馬鹿。カイトは今怪我人。優しくしなきゃ。」

スズが嗜めてくれたので、リィは素直に「ごめんなさいっす...」と少し落ち込みながら謝ってくれた。

「あ、ああ。大丈夫だ。ところで、ギルド、ってわかるか?」

「ん、それなら私たちもこれから向かう予定。賞金首を持って行かなきゃいけないから。」


...思い出したくもないが、あの魔族のことだろう。
賞金がかかっているということは、しばらくあの付近で暴れていた、ということだろうか。いや、それならあそこをわざわざ通る意味がない、か。

軽く目撃情報があり、移動先を予測してスズたちが動いていた、と考えるのが普通だろう。

そんなことを考えながら数分歩くと、ギルド、と呼ばれる施設にたどり着いた。

外見はかなりの広さの建物で、中にはある程度の人数の冒険者と思われる人々と、ギルドの職員と思われる人が数人いる。

看板には大きく冒険者ギルドと書かれており、中は外見ほどの広さを感じなかった。おそらく裏に倉庫でもあったり、いろいろあるのだろう。


「スズちゃ〜んおかえりぃ〜!今日も可愛いねえおじさんと」

「はいはい、マスター落ち着いて。」

スズがギルドに入るや否や、40代くらいだろうか、と思われる白髪の多めな男が飛び込んできて、職員の人にゲンコツで打ち落とされていた。

職員の人は若いお姉さんで、どうやら受付嬢と呼ばれる役割の人のようだ。金髪を後ろでまとめていて、苦労人な雰囲気が見て伺える。

「...マスター、これ。賞金首。王都に出しといて。」

雑に洗われた、完全に生気を失った魔族が皮の袋からその顔を覗かせる。手際良く職員の人が受け取っていき、奥に持ってかれた。

「...う」

こみ上げた吐き気に手を抑え、声を上げると、そこでマスターがやっと俺に気づいた、という風にこちらを見る。

「.......ハッ!もしかして、スズちゃんに男が!生かしておくべぐふっ!」

「やめてくださいマスター!珍しいお客さんでしょ!依頼人かもしれないんだから大切にしてください!」

俺に飛びかかろうとしたギルドマスターは職員に抑えられている。
....大丈夫だろうか。ここ。

ハッとして、胸ポケットを漁る。
目の前のドタバタに引っ張られて、半分くらい忘れかけていた。

「こんにちは。カイトと言います。フリードからの伝言で、ここに来ればいい、と伝えられて伺いました。手紙を見てもらえれば、事情は伝わる、とフリードは言っていたので、見ていただけると幸いです。」

フリード、という名前を出した途端、ギルドの空気が変わったように思えた。

「...ふむ、あの坊やからか。分かった。ついてきたまえ。」

先ほどとは打って変わり真面目な面持ちになったマスターが、俺をギルドの奥へと連れて行った。


...ギルドマスターの部屋に迎え入れられ、手紙を渡すとマスターはしばらくの間手紙と睨めっこしていた。

「...ふむ、なるほど。......」

ぼそり、と呟いた言葉は正確には聞き取れなかったが、読み終わったことだけはなんとなく伝わった。

「お主、魔力0というのは、本当なのかね。」

「...え、あ、はい。」

険しい表情になったマスターは、かなりの凄みというか、荘厳な感じがしていて、これがこのギルドのマスターと呼ばれる人の圧か、という感じがする。というか怖い。助けてくれ。俺こういうの慣れてないんだって。


「よし、わかった!私たちはザリアを中心に活動する冒険者ギルド、その名をリバティザイン。君を歓迎しよう、カイト。」

先ほどまでの圧から一変、明るい笑顔で、ギルドに入ってきた時と同様の印象に戻ったマスターが、その手を差し伸べてくる。

「よろしくお願い、します。」

恐る恐る手を出して、握手する。
この日から、俺はリバティザイン所属のカイトとして活動することになった。



























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