藤ヶ谷海斗は変われない。
どうあがいても無能。
_______は?
プレートに映ったその文字は、理解という行為をさせるつもりが一切ないと言わんばかりに、バグり散らかしていた。
この世界にバグなんて言葉があるんだろうか、なんてどうでもいいことに現実逃避しつつ、空を見ていると。
「異界人というのはすごいんだね、みんなとても高い能力を持っているよ。あとは君のプレートさえ確認すれば全員の確認が完了するかな。」
フリードはどうやら能力の傾向をチェックしているようで、俺のゲームの知識と世界が完全に同じとまではいかないだろうが、後衛に向く人と前衛に向く人で別れるのだろう。
にしてもこれを見せるの?大丈夫?これを見た人もバグり出して世界崩壊したりしない?多分しないけど魔力0の時点で割と戦力外通知感がすごい。追放物的な感じで王宮から追放されたりするのだろうか。
...心配になってきたがここで逃げるのが一番最悪な選択肢であることは明確なので、見せるしかないという事実に憂鬱になりそうになる。課題が間に合わなかった時の授業みたいな気分だ。
プレートをブリードに渡すと、一番最初のスキルの部分の時点でフリードの端正な顔が歪んだのが見えた。一瞬持った亜月が異常なだけという希望は打ち砕かれた。悲しい。
「...このプレートが壊れてしまっているのかな、プレートに異変があることなんて前例はないはずなんだが...もしかしての可能性もある、一応新しいプレートを持ってこよう。」
フリードがそう言って頭を下げてくる。なーんだそういうことか!戦力外通知のカスになるかもしれないという心配がなくなったことにより、ほっと胸を撫で下ろし、大丈夫です、と返事をする。そしてしばらく待ち、新しいプレートに血を垂らしこれからの自分の未来を大きく決定するであろう素晴らしいステータスは....そこにはなかった。
全く変わらない文字。変わらぬ魔力量。輝く0の文字。
「...どうやら、プレートに異常はないようだ...」
「...ハ...ハハ。」
テストの答案の点数を見せ合うかのようにお互いのステータスを比べてキャッキャと騒ぐクラスの明るい雰囲気の中で、唯一あまりにも暗い雰囲気でここに立つ俺。一人だけ0点取りましたみたいなステータス。
...笑えねえ...
というかフリードの目線が怖い。助けて。俺悪くないじゃん。なあ。
フリードは俺にプレートを渡して考え出した。怖い顔してる。どうしたんだろうか。
「オタクくーん、お前はどうだったんだよ?」
そんなことを考えていると、かなりニコニコとした気持ちの悪い笑顔で、野口が話しかけてくる。オタクと言えるほど熱くのめり込んだ趣味があるわけでもないので、実際はただのネクラなのだが、それはこいつにとってはどうでもいいことなんだろう。自尊心を満たしに来たみたいな顔がとてつもなくむかつくが、それを述べたら多分ボコボコにされるので、言わないこととする。
「...普通...じゃないすか。」
他人と比べてすらいないのに“普通”なんてちゃんちゃらおかしいが、そんなことは気にしてはいけない。こういう人種はそもそも苦手なのだ。適当にやり過ごしたいのだが...ステータスを見せても見せなくても明らかにバカにしてくるのが目に見えている。ああ...神様。どうして俺は普通に生きることすら許されないのでしょう。無宗教だけど誰に祈れば助けてくれるのだろう。ツェーシャ様?
... 縺...
____?何が声が...
「そんな連れねえこと言わずによお、見せろって!」
違和感に気を取られていると、手に持っていたプレートを剥ぎ取られる。
「ん...?なんだ、魔力量0...、ハッ、おめえただの雑魚じゃねえか!」
ギャハハ、と下品に笑う野口。その声に気づいたのか、クラスのオタクインキャグループのやつらや、谷山を筆頭に野口にこびを売る悪ぶった奴ら、主にそういう面子が俺に視線を向けてくる。人に見られるのは、苦手だ。
スキルの意味と魔術適性の意味がよくわからない状況で唯一わかるのは魔力量、それだけであるのだが。
おそらく多い方がいいであろう魔力量、俺は驚異の0。最低ライン、というか0はフリードといえど見たことがないような反応をしていた。前例も0だったのかもしれない。
「見ろよ、俺の魔力量。200だ。」
おそらく俺以外の人間はフリードに大体の標準魔力量みたいなのを教えられているのだろうか。俺の時はバグっちゃったんだろうな、思考が。普通って言葉に突っ掛かられることがなかったのもそういうことだろう。にしてもとんでもなく勝ち誇った顔を向けてくる。
実は0の方が強いなんてことがあればという現実逃避をしながら、そのドヤ顔で俺に優位を示してくる野口を見つめていた。
「それに比べてお前は0!一般人でも10以上、ある程度戦える人間なら100はあるという魔力が、お前は0!0だぜ?」
0をすごい強調して話してくるなこいつ。そんなに俺を上回ったのが嬉しいのか?もともとお前の方が上だったじゃん...
なんでそんなに、俺を気にするのだろうか。
「話聞いてんのか?おまえは無能!俺たちどころか一般人以下なんだよ!」
勝ち誇る、周りに誇示する。自分が強者だという事実に酔いしれているのだろう。
学校ではパッとせず、今まで苦渋を舐めていた自分が、この世界では強者として扱われる。
俺だって、きっと自分の魔力量が圧倒的だったら、優越感に浸ってしまうだろう。
「とりあえずグループに分けさせてもらおう!」
いつまでこいつのこのドヤ顔の説明を聞かなければいけないのだろうか、なんて思っていると、救世主の声が聞こえた。
というかアカムだった。彼の声に全員が目線をそちらに向けると、彼は4人の騎士を中心に人を分け始めた。
どういう基準で分けたのかが全くわからないが、何かあるのだろう。4つのグループに分けられた人たちは、それぞれの騎士についていく。
「....俺は?」
1人名前を呼ばれぬまま残された俺は、ポツリと1人残った庭の訓練場で、どうしてこうなったんだと頭を抱えているのであった。
完。
とはならないわけで。
「君には少し、この世界の常識を知ってもらわなければならない。」
そう言ってフリードに手を引かれ、俺の知る図書館よりも大きな書庫?だろうか、本がたくさん置いてある場所に誘導された。
「君は...魔力量が0、と書いてあったね。」
「は...はい。」
先ほどまでの穏やかな表情が、厳かで、何やら重い雰囲気に変化した。
フリードは、厳しい表情で俺に確認をとる。
その雰囲気にのまれた俺は、言葉を詰まりながらも、なんとか返事をすることができた。のだが。
「ありえない、はずなんだ。魔力量0。これは、今の僕が知る限り、君を除けば...魔王。その1人しかいないんだ。」
....。
「え?」
「これから君に、この世界で生きていくためのある程度の常識と、歴史を叩き込む。君は、それと僕がこれから書く手紙を持って、とある街に向かってほしい。」
「ちょっと待ってください、それって...」
その発言に、嫌な予感がした。
まるで、いや、恐らくそうなのだろう。
「君には、王宮から逃亡してもらう。」
「ちょ、ちょっと待てって!どうして逃げる必要があるんだよ!」
思わず声を荒げてしまった。
「...魔力量0。これは、魔王の象徴なんだ。この王宮において魔王は絶対悪。
迫害される身になってしまうのは、目に見えている。」
...魔王。王宮において、絶対悪?
違和感が残る。
「じゃあどうしてあんたは...あんたは俺にそこまでするんだ?バレたらあんただってタダじゃ済まないんじゃねえのか?」
むしろ騎士団長という立場のフリードならば、ここで俺を叩きのめさなければ、騎士団が裏切り者として扱われてしまうかもしれないというのに。
「...それは君が知らなくてもいいことだ。」
「納得がいかねえ。本当はただお前が追放したいだけじゃねえのか?」
「違うッ!僕は、僕は...」
思い詰めた顔で、俯いたまま、悩み続けるフリード。話が掴めない俺。一切話が続かないと思い、俺は一つ、ある案を提示した。
「1週間。」
「....?なにをいって、」
「1週間様子を見させてくれ。お前のいうことが本当かどうか、1週間もあればわかるはずだから。」
....俺としても、やり残したことというか、為さなきゃいけない責任みたいなものがあるのだ。今すぐにも逃げ出すなんて事は、受け入れがたいのだ。相手にどんな事情があろうと。
「俺にも.....いや、なんでもない。」
「....。」
口に出すのは、違う気がした。
「...君にも、何か、事情があるんだね。」
フリードは、そう呟いて、立ち上がった。
「わかった。君の意見を飲もう。でも、きっと厳しい1週間になる。」
「ああ、お前のいうことが本当なら、そうなんだろうな。」
少ない時間の、少ない会話が、何故かとんでもなく重く長い時間に感じられた。
特に何かが変わったわけでもないのに、フリードという男に対する評価が、大きく変わった気がする。
俺は、この世界の本をフリードに渡され、これだけでも読んでおいて欲しい、と伝えられた。あいつは先に部屋を出ていったのだが、今はとりあえずいうことを聞いておくことにしよう、と本を開いた。
「僕はうまくできているのかな、ユズ。」
扉を閉めたフリードは、一人、呟いた。
プレートに映ったその文字は、理解という行為をさせるつもりが一切ないと言わんばかりに、バグり散らかしていた。
この世界にバグなんて言葉があるんだろうか、なんてどうでもいいことに現実逃避しつつ、空を見ていると。
「異界人というのはすごいんだね、みんなとても高い能力を持っているよ。あとは君のプレートさえ確認すれば全員の確認が完了するかな。」
フリードはどうやら能力の傾向をチェックしているようで、俺のゲームの知識と世界が完全に同じとまではいかないだろうが、後衛に向く人と前衛に向く人で別れるのだろう。
にしてもこれを見せるの?大丈夫?これを見た人もバグり出して世界崩壊したりしない?多分しないけど魔力0の時点で割と戦力外通知感がすごい。追放物的な感じで王宮から追放されたりするのだろうか。
...心配になってきたがここで逃げるのが一番最悪な選択肢であることは明確なので、見せるしかないという事実に憂鬱になりそうになる。課題が間に合わなかった時の授業みたいな気分だ。
プレートをブリードに渡すと、一番最初のスキルの部分の時点でフリードの端正な顔が歪んだのが見えた。一瞬持った亜月が異常なだけという希望は打ち砕かれた。悲しい。
「...このプレートが壊れてしまっているのかな、プレートに異変があることなんて前例はないはずなんだが...もしかしての可能性もある、一応新しいプレートを持ってこよう。」
フリードがそう言って頭を下げてくる。なーんだそういうことか!戦力外通知のカスになるかもしれないという心配がなくなったことにより、ほっと胸を撫で下ろし、大丈夫です、と返事をする。そしてしばらく待ち、新しいプレートに血を垂らしこれからの自分の未来を大きく決定するであろう素晴らしいステータスは....そこにはなかった。
全く変わらない文字。変わらぬ魔力量。輝く0の文字。
「...どうやら、プレートに異常はないようだ...」
「...ハ...ハハ。」
テストの答案の点数を見せ合うかのようにお互いのステータスを比べてキャッキャと騒ぐクラスの明るい雰囲気の中で、唯一あまりにも暗い雰囲気でここに立つ俺。一人だけ0点取りましたみたいなステータス。
...笑えねえ...
というかフリードの目線が怖い。助けて。俺悪くないじゃん。なあ。
フリードは俺にプレートを渡して考え出した。怖い顔してる。どうしたんだろうか。
「オタクくーん、お前はどうだったんだよ?」
そんなことを考えていると、かなりニコニコとした気持ちの悪い笑顔で、野口が話しかけてくる。オタクと言えるほど熱くのめり込んだ趣味があるわけでもないので、実際はただのネクラなのだが、それはこいつにとってはどうでもいいことなんだろう。自尊心を満たしに来たみたいな顔がとてつもなくむかつくが、それを述べたら多分ボコボコにされるので、言わないこととする。
「...普通...じゃないすか。」
他人と比べてすらいないのに“普通”なんてちゃんちゃらおかしいが、そんなことは気にしてはいけない。こういう人種はそもそも苦手なのだ。適当にやり過ごしたいのだが...ステータスを見せても見せなくても明らかにバカにしてくるのが目に見えている。ああ...神様。どうして俺は普通に生きることすら許されないのでしょう。無宗教だけど誰に祈れば助けてくれるのだろう。ツェーシャ様?
... 縺...
____?何が声が...
「そんな連れねえこと言わずによお、見せろって!」
違和感に気を取られていると、手に持っていたプレートを剥ぎ取られる。
「ん...?なんだ、魔力量0...、ハッ、おめえただの雑魚じゃねえか!」
ギャハハ、と下品に笑う野口。その声に気づいたのか、クラスのオタクインキャグループのやつらや、谷山を筆頭に野口にこびを売る悪ぶった奴ら、主にそういう面子が俺に視線を向けてくる。人に見られるのは、苦手だ。
スキルの意味と魔術適性の意味がよくわからない状況で唯一わかるのは魔力量、それだけであるのだが。
おそらく多い方がいいであろう魔力量、俺は驚異の0。最低ライン、というか0はフリードといえど見たことがないような反応をしていた。前例も0だったのかもしれない。
「見ろよ、俺の魔力量。200だ。」
おそらく俺以外の人間はフリードに大体の標準魔力量みたいなのを教えられているのだろうか。俺の時はバグっちゃったんだろうな、思考が。普通って言葉に突っ掛かられることがなかったのもそういうことだろう。にしてもとんでもなく勝ち誇った顔を向けてくる。
実は0の方が強いなんてことがあればという現実逃避をしながら、そのドヤ顔で俺に優位を示してくる野口を見つめていた。
「それに比べてお前は0!一般人でも10以上、ある程度戦える人間なら100はあるという魔力が、お前は0!0だぜ?」
0をすごい強調して話してくるなこいつ。そんなに俺を上回ったのが嬉しいのか?もともとお前の方が上だったじゃん...
なんでそんなに、俺を気にするのだろうか。
「話聞いてんのか?おまえは無能!俺たちどころか一般人以下なんだよ!」
勝ち誇る、周りに誇示する。自分が強者だという事実に酔いしれているのだろう。
学校ではパッとせず、今まで苦渋を舐めていた自分が、この世界では強者として扱われる。
俺だって、きっと自分の魔力量が圧倒的だったら、優越感に浸ってしまうだろう。
「とりあえずグループに分けさせてもらおう!」
いつまでこいつのこのドヤ顔の説明を聞かなければいけないのだろうか、なんて思っていると、救世主の声が聞こえた。
というかアカムだった。彼の声に全員が目線をそちらに向けると、彼は4人の騎士を中心に人を分け始めた。
どういう基準で分けたのかが全くわからないが、何かあるのだろう。4つのグループに分けられた人たちは、それぞれの騎士についていく。
「....俺は?」
1人名前を呼ばれぬまま残された俺は、ポツリと1人残った庭の訓練場で、どうしてこうなったんだと頭を抱えているのであった。
完。
とはならないわけで。
「君には少し、この世界の常識を知ってもらわなければならない。」
そう言ってフリードに手を引かれ、俺の知る図書館よりも大きな書庫?だろうか、本がたくさん置いてある場所に誘導された。
「君は...魔力量が0、と書いてあったね。」
「は...はい。」
先ほどまでの穏やかな表情が、厳かで、何やら重い雰囲気に変化した。
フリードは、厳しい表情で俺に確認をとる。
その雰囲気にのまれた俺は、言葉を詰まりながらも、なんとか返事をすることができた。のだが。
「ありえない、はずなんだ。魔力量0。これは、今の僕が知る限り、君を除けば...魔王。その1人しかいないんだ。」
....。
「え?」
「これから君に、この世界で生きていくためのある程度の常識と、歴史を叩き込む。君は、それと僕がこれから書く手紙を持って、とある街に向かってほしい。」
「ちょっと待ってください、それって...」
その発言に、嫌な予感がした。
まるで、いや、恐らくそうなのだろう。
「君には、王宮から逃亡してもらう。」
「ちょ、ちょっと待てって!どうして逃げる必要があるんだよ!」
思わず声を荒げてしまった。
「...魔力量0。これは、魔王の象徴なんだ。この王宮において魔王は絶対悪。
迫害される身になってしまうのは、目に見えている。」
...魔王。王宮において、絶対悪?
違和感が残る。
「じゃあどうしてあんたは...あんたは俺にそこまでするんだ?バレたらあんただってタダじゃ済まないんじゃねえのか?」
むしろ騎士団長という立場のフリードならば、ここで俺を叩きのめさなければ、騎士団が裏切り者として扱われてしまうかもしれないというのに。
「...それは君が知らなくてもいいことだ。」
「納得がいかねえ。本当はただお前が追放したいだけじゃねえのか?」
「違うッ!僕は、僕は...」
思い詰めた顔で、俯いたまま、悩み続けるフリード。話が掴めない俺。一切話が続かないと思い、俺は一つ、ある案を提示した。
「1週間。」
「....?なにをいって、」
「1週間様子を見させてくれ。お前のいうことが本当かどうか、1週間もあればわかるはずだから。」
....俺としても、やり残したことというか、為さなきゃいけない責任みたいなものがあるのだ。今すぐにも逃げ出すなんて事は、受け入れがたいのだ。相手にどんな事情があろうと。
「俺にも.....いや、なんでもない。」
「....。」
口に出すのは、違う気がした。
「...君にも、何か、事情があるんだね。」
フリードは、そう呟いて、立ち上がった。
「わかった。君の意見を飲もう。でも、きっと厳しい1週間になる。」
「ああ、お前のいうことが本当なら、そうなんだろうな。」
少ない時間の、少ない会話が、何故かとんでもなく重く長い時間に感じられた。
特に何かが変わったわけでもないのに、フリードという男に対する評価が、大きく変わった気がする。
俺は、この世界の本をフリードに渡され、これだけでも読んでおいて欲しい、と伝えられた。あいつは先に部屋を出ていったのだが、今はとりあえずいうことを聞いておくことにしよう、と本を開いた。
「僕はうまくできているのかな、ユズ。」
扉を閉めたフリードは、一人、呟いた。
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