先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*52

昼休み。
職員室から出てくる先生に声をかけた。

「先生、進路のことで相談したいことがあるんですけど」
先生はこう言ったら絶対聞いてくれるって思ったから。

「…なに?」
「ちょっとこっち来て」
そう言って、先生の腕を掴んですぐ近くにあった空き教室に入った。

「ここじゃなくて職員室で話そっか?」
先生は俺を警戒してる。

「誰にも聞かれたくないんで」
「じゃあ、面談のスペースがあるからそこで」
先生はどうしても俺と2人きりになりたくないみたい。
誰かに見られるとまずいから?
それともやっぱり俺のこと避けてるから?

先生が教室を出ようとしたタイミングで、廊下から女子生徒の甲高い笑い声が聞こえてきた。

「今出るとまずいんじゃない?」
「…」
俺は先生の腕を強引に引っ張って、廊下から死角になるように先生を隠した。
教室の後ろ、扉のすぐ横。
「ちょっと離してっ…」
「俺と一緒にいるところ、他の生徒に見られてもいいんですか?」
そう言うと先生はおとなしくなった。

俺たちのすぐ横を、女子生徒たちが通り過ぎていく。
俺は先生を隠すように、その狭い空間で先生に密着した。
その距離感にどうしても鼓動が早くなってしまう。
今はこんなにも近くに先生がいるのに。
いなくなるなんて言うなよ…。

生徒が通り過ぎていって、静かになった後も、俺は先生を引き止めるために必死で。
先生が俺から離れていかないように、先生の腕を握って、自分の胸に押し当てた。
「…なに?」

「先生といると、俺、こんなにドキドキしてます」

静かな教室で。
俺の心臓の音だけが鳴り響いてる。

先生と目が合うと更に加速する音。
そんな俺を見ながら先生は下唇をギュッと噛み締めた。

その顔、前にも見たことがある。

俺は、掴んでいた先生の腕を引っ張って、自分の胸に飛び込んできた先生をギュッと抱きしめた。

「先生に聞きたいことがたくさんあります」

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