先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*51 いなくならないで

次の日、俺は頭の整理がつかないまま学校へ向かった。

先生は昔何があったんだろう。
気になって夜も眠れなかった。

恋愛しちゃいけないと思う程の、大きな何か。
俺には見当もつかない。
先生に直接色々聞いて確かめたい。
でも今は何を聞いたって、ちゃんと答えてくれる気がしない。
お兄さんは俺にしかできないって言ってたけど、今の俺に一体何ができるんっていうんだ。

チャイムが鳴って先生が入ってきた。

あれ?
昨日ぶりに見る先生はいつもとちょっとだけ様子が違っていた。

「報告が遅くなりましたが、先月、産休で休職中だった吉田先生に、赤ちゃんが生まれました」

先生の言葉にクラス中が歓喜した。
生徒が静かになるのを待って、先生は話しを続ける。

「それで、来年から吉田先生が復帰するので、私は今学期中までとなります」



…え?



それはあまりにも突然で。
理解するのに時間がかかった。

だって、学校に来ればずっと先生と会えると思ってたから。
先生はずっとこの学校にいるんだって、勝手にそう思ってた。

俺は先生のことになるといつも大事なことが抜け落ちてしまう。

先生が臨時の先生だってことも。
吉田先生が戻ってくればいなくなってしまうことも。
頭の片隅にすら置いていなかった。

どうしてそんな大事なことが、頭から抜け落ちてるんだろう。


「えー寂しい!」
「卒業までいて!」

生徒たちの声が飛び交う。
先生が学校を辞めたら、もう先生とは会えなくなんの?

先生は少し寂しそうな顔をしながら言葉を並べる。
「みんなありがとう。初めて受け持ったクラスで、正直不安だったけど、みんな本当にいい子たちばっかりで、先生すごく楽しかった」

まるで別れの挨拶をしているみたいに聞こえて、すごく寂しくなった。

「みんなと一緒に過ごした半年間、私はずっと忘れないと思う。あと1カ月もないけど、よろしくね」


いやだ。
そんなこと言いうなよ。


先生がいなくなる。
先生が先生じゃなくなる。
頭では理解できても、感情がついていかない。


きっと先生は学校を辞めると俺には会ってくれない。
そんな気がしたから。
いてもたってもいられなくなった。
なりふりなんて構っていられなかった。

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