先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*43

「いい加減素直になって下さい…」
「里巳くん、さっきからなに言ってるか分かんないよ…」

先生がそこまで言うならもういい。
俺だってもう引くに引けないから。


「先生がなんて言おうが、俺諦めませんから」


先生の気持ちは置き去りにしたまま。
俺は自分の気持ちを伝えるのに必死だった。


「もう俺のこと否定できないくらい、先生の頭の中、俺でいっぱいにしてあげる」

「だからそれは無理なんだって…」


無理って何だよ。
この先どうなるかなんて誰にも分かんないじゃん。

「俺はずっと、先生のことばっか考えてるよ」

「生徒を好きにはなれないよ…」
「あー、さっきからうるさいな」

先生は俺のこと否定してばっか。
じゃあ、なんでそんな辛そうな顔してんだよ。
何とも思ってない奴にそんな顔すんのかよ。


「先生には先生の都合があるのかもしれないけど、俺、もうそんなこと考える余裕ないんで」
「だから…「さっき、先生と彼氏が仲良さそうに喋ってるの見て、すげームカつきました。だからもう引きません」
俺は先生の言葉に被せいた。

「…」

先生がなんと言おうともう引かない。
だって。

「本気で落としに行くんで、覚悟しておいて下さいね。せんせ」
俺は先生にぐっと顔を近づけて、耳元で呟く。

見る見るうちに先生の顔が赤くなるのが分かる。
ほら。
そんな反応されたら俺だって引くに引けないんだよ。
少しでも先生に隙を感じたら、どんな手を使ってでも手に入れたいと思ってしまう。


「先生だって本当は俺のこと気になって気になって仕方ないんでしょ?顔に書いてありますよ」
俺は先生の赤くなった頬をそっと撫でる。

「そんなことない!」
そんな俺の手を先生は振り払う。

「そうやって必死に俺を否定すればするほど、そう感じるんだよ!」


先生に何言ったって聞いてもらえないのは最初からだった。
先生のその頑固なところも好きだよ。

でも。
これだけは。
この気持ちだけは譲れない。

「せいぜい自分の地位とか気持ちとか、俺に全部持っていかれないように、気をつけて下さいね」
俺は最後に精いっぱいの強がりを言って、音楽室を出た。



あー、もうなにやってんだろう。
全部ぐちゃぐちゃ。
先生のことになると本当に自分が自分じゃなくなるみたいだ。
勝手に体が動いて勝手に口が動く。

「むしろ逆か」
先生に対しての俺が本当の俺で。
今までの俺は何にも無頓着なフリをして、諦めていただけなのかもしれない。

欲しいものが手に入らなくて傷つくのが怖かった。
だから大人のフリして、平気なフリをしてきたんだ。

でも。
今はどんなに傷ついたとしても。
それで先生の気持ちが手に入るなら、俺は諦めない。

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