先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*31

体調もすっかり良くなって金曜日になった。
ブレザーは結局返ってこず、さすがにまわりにも不思議がられてきて。
新しいブレザーを買ってもよかったんだけど、先生の家に行ってみることにした。

ブレザーを返してほしい、と言うのは建前で、俺は先生と会いたかった。
誰にも邪魔されない空間で。
あの日からずっと避けられていて、辛くて辛くて仕方なかった。

もう俺のこと、見てくれないのかもしれない。
そう思うと居ても立っても居られなかった。



放課後、いつものように図書館で適当に時間を潰す。

キスして以来、先生は図書館には一度も来なかった。
それでも俺は会いたくて、毎日閉館まで居座っていた。
今までずっと先生を避けてきたことを後悔しながら。

段々と外が暗くなってきて、そろそろ先生が帰る時間かなと思って、先生のアパートに向かった。
アパートについてインターフォンを押してみる。
何の反応もない。

まだ帰っていないのかな?
俺だって気づいて居留守使ってるとか?

20時をまわっても先生はまだ帰ってこなくて。
もしかすると彼氏とデートかも。
なんて、ネガティブな想像が膨らむ。

何時間もこんなところにいて、ストーカーかよ。
自分でも気持ち悪いと思った。

「ブレザー、やっぱり買おっかな」
急にここにいるのが虚しくなってきて、帰ろうとした時、
「里巳くん…?」

先生の声が聞こえた。
俺に向けられた先生の声。

「先生、あの」
「もしかしてずっと待ってたの?」
「いや、あの、俺のブレザーがなくて」

ずっと待ってたって言うのがイヤで、先生の質問には答えず、会うために用意していた口実を並べた。
「この間、先生の家に忘れてったかなーって」
「あ、そうだよね。ごめんね」
先生は手に持っていた袋を、そのまま俺に渡した。

「ずっと返そうと思ってたんだけど、タイミングがつかめなくて…。ごめんね」

なんで先生が謝るんだよ。
「こちらこそ、あって良かったです。ありがとうございます」

用件はもう終わった。
帰らないと。

先生にバイバイって言って、また来週学校でって。
なのに体は動いてくれない。
ただ、先生を見つめることしかできない。

先生はそんな俺に気づいていているのか気づいていないのか、何も言わない。
アパートにも入ろうとしない。
…先生からいなくなってもらわないと、俺は帰れないのに。

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