先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*12

先生に連れられて、救急用のテントまで来た。
テントの中には保健の先生が待機していた。

「どうしましたか?」
俺たちが中に入ると、保健の先生は慌てて寄ってきた。
「里巳くんが具合悪いみたいで。ちょっと休ませてもらってもいいですか?」
「もちろんです、里巳さん大丈夫?」

保健の先生は椅子を並べて即席ベッドを作ってくれた。
そこで横になろうとしていると、保健の先生を呼びにくる生徒がいた。
どうやら怪我をしていて動けない生徒がいるようだった。

「大丈夫です、ここは私がついてますから。怪我をしてる生徒のところに行ってあげて下さい」
先生たちは少し話すと、保健の先生は救急箱を持って、呼びに来た生徒と一緒に出て行った。

「先生、俺1人で大丈夫ですよ。だから鬼ごっこに戻って下さい」
せっかく先生は楽しそうにしてたのに、俺のせいで台無しにしてしまうのはイヤだ。
「なに言ってんの。一人にさせておける訳ないでしょ」

先生は俺が何言ってもそこを動こうとしないで、ただ心配そうに俺を眺めていた。

なんなんだよ。
子供じゃないんだから、これくらい一人で平気だよ。
先生に心配されるなんて情けない。
俺はそんな情けない自分を見られるのが嫌で、腕で顔を隠した。



それからいつの間にか眠っていた俺は、ガシャンとする物音で目が覚めた。
まだ頭が少し痛いけど、さっきより楽になった。
少し重たい体を起こすと、
「ごめんね、起こしちゃった?大丈夫?」
って先生は俺に近づいてきて優しく声をかけてくれる。

「だいぶ楽になりました」
「…良かった」
俺の言葉を聞いて先生は安堵しているように見える。

「顔色もよくなったね」
そう言って俺の頬をそっと触る先生。
俺はその手を反射的に避けてしまった。


あれ。

なんで今、避けてしまったんだろう。
先生はそんな俺を不思議そうな顔で見ている。

「えっと。もしかして、俺が寝ている間もずっとここにいたんですか?」
「当たり前でしょ」

当たり前、か。
時計を確認するともう16時を過ぎていて、随分と長い間眠っていたことに気づく。

「みんなは?」
「もう帰ったよ。荷物用の車、使っていいって言われてるから、送ってく」
先生はそう言って俺のリュックを持った。
さっきまで寝ていたせいで、うまく頭が回らない。
送ってく?ってどこに?

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