先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*10

やっと愛してるゲームが終わり、最後のレクは鬼ごっこ。
鬼ごっこなんてどれくらいぶりだろう?

鬼は何人かいて、誰が鬼か分からない設定らしい。
鬼じゃないと言いながら近づいてタッチするのもあり。
心理戦が強めのルールだ。
ちなみにタッチされた鬼にタッチし返す事はできない。

くじで最初に鬼を引き当ててしまった。
さっきのゲームで思ったよりも体力を消耗していて、逃げる生徒を横目にのんびりと歩いていた。

割と人目につきにくい芝生の所まで来て、ごろんと横になった。
目を閉じると、鳥の鳴き声が聞こえて。
遠くで水の流れる音が聞こえる。

やばい、寝れる。

しばらく自然の心地よさに身を委ねていると、遠くから足音が聞こえてきた。
顔においていた自分の腕をどかして音のする方を見れば、そこにいたのは加ヶ梨先生だった。

「里巳くん!?」

やばい、サボってるのバレた。

「…びっくりした!!人が倒れてるって思って…生きててよかった…」
先生は寄り添うように俺に近づいてきて、大真面目にそう言った。
真剣な眼差しで俺を見ている。

「ははっ、勝手に殺さないで下さい」
本気で心配そうにしている先生が、なんか可笑しくて、俺はこらえきれずに笑った。

「里巳くんもそんな表情するんだ」

え?

「初めて笑った顔見たから」
そう言って俺の顔をじっと見る先生。

「俺だって笑いますよ」

たしかにここ数年、本気で笑うってことがなかった気がする。
最後に笑ったの、いつだったかな。

「里巳くん、笑ってた方がかっこいいよ」

いきなり何を言い出すのかと思えば、眩しい笑顔でそんなこと言ったりして。
先生は何も分かっていない。


「先生は笑わない方がいいです」
「え、そんなに笑った顔ブスかな?」
って本気で心配していて。
それが可笑しくて、また笑った。

先生とちょっと話しただけなのに、さっきまでのイライラがウソみたいに溶けていくようだった。


「鬼ごっこ、先生は見回りですか?」
「うんん、先生たちも全員参加よ」
先生はそう言いながら俺の横に腰を下ろす。

「先生も参加型のレクって斬新ですよね」
「そうかな?校外授業は生徒間の親睦を深めるの意味合いもあるけど。
先生と生徒も親睦を深められたら一石二鳥でしょ?」
「まあ、確かに。先生何気にめちゃくちゃ楽しんでますもんね」
今日は先生って感じがしないくらい、はしゃいでいるように見えたから。

「あはは、バレてた?だってみんな面白いんだもん」
そう言って先生はまた笑った。

「せんせー。完全に油断してますね」
ちょっと驚いた先生を横目に、俺は先生の右腕を触った。

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