異世界転生チートクソ野郎を原住民がぶちのめす~ただそれだけの物語~
ソフィーの願い
『……獣人の子よ。あなたも早く去りなさい。さもなくば、あの異界の子のように追い払うのみです』
ミツルが落ちていった崖と山小屋を交互に見つめていたソフィーの脳に、直接、声が響いた。
それは、離れた相手に思念を届ける魔法で、言葉が通じない相手とも意思の疎通が図れるものだ。
その言葉の内容から察するに、小屋の中の精霊が話しかけてきたのだろう。
『え、えっと……すみません。勝手に縄張りに踏み込んでしまって。でも私達にも事情があって、この場で起こる事態を観察する必要があるんです。小屋には近づきませんし、干渉するつもりもありません。なので、この場に居させてもらえませんか?』
人間は精霊の言葉を理解できないが、精霊は人間の言葉を理解できる。
なので、普通に口で話しても意味は通じるのだが、ミツルが戻ってきた時に存在を気取られては厄介だ。
そこで、ソフィーは相手に合わせて思念の魔法を使い、返答した。
ちなみに、他の三人はミツルを追って、この場を離れているようだ。
だからこそ、精霊はソフィーだけを指定して警告したのだろう。
『……そもそも、異界の子は、もう去りました。いったい何を観察する必要が?』
少しの沈黙の後、精霊はソフィーの願いに疑問を返した。
話を聞いてもらえたことに安堵しつつ、ソフィーは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『彼が、あの程度で諦めるとは思えません。あなたを手に入れるまで、何度でも向かってくるはずです』
『なるほど、異界の子の狙いは私の力ですか。……ところで、あなたと彼には何の関係が?』
『彼は……敵です。私達の。そして、彼の力が強大だから、その行動を観察して勝機を探っているんです。あと、もし叶うなら、あなたをここから逃したい』
『……私が異界の子に遅れを取ると?』
僅かに気分を害したような反応。
しかし、ここで怖気づいていては救えるものも救えない。
『あなたが看破しているように、彼は異界の存在です。それも、この世界より上位の世界から転生してきた強者なんです。私なんかじゃ敵わないくらい、あなたは強い。けど、彼の強さは、きっと、その上をいく。だから、お願いします。彼が、この地から離れるまで、別の場所に避難してもらえませんか?』
『……なぜ、そこまで私のことを案じるのです? 初めて会ったばかりで、互いのことも良く知らない間柄であるにも拘らず』
『……正直な所、打算もあります。彼が、あなたの力を手に入れてしまえば、私達にとって不利になる。けれど、それ以上に、もう沢山なんです。転生者によって蹂躙される何かを見るのは……』
悲痛に、それでいて真摯に、自らの思いを訴えるソフィー。
それが精霊にも伝わったのか、感じていた圧力が僅かに和らいだ。
『話は分かりました。その心に偽りがないことも理解できます。けれど、それでも私は、ここを離れる訳にはいきません。……かつての恩人に報いるために。たとえ、彼が実力行使に出ようとも、最後まで戦い抜きます』
『……そう、ですか』
また救えなかった。
ソフィーが、そんな無力感に肩を落とした次の瞬間。
その肩に、そっと手が乗せられた。
「やだなぁ。人のことを暴力主義者みたいに言ってくれちゃって。むしろ僕は暴力を嫌う平和主義者なのにさ」
「…………なん、で……?」
信じられない思いで、ゆっくりと後ろを振り返るソフィー。
そこには、傷どころか汚れ一つないミツルが笑顔で立っていた。
ミツルが落ちていった崖と山小屋を交互に見つめていたソフィーの脳に、直接、声が響いた。
それは、離れた相手に思念を届ける魔法で、言葉が通じない相手とも意思の疎通が図れるものだ。
その言葉の内容から察するに、小屋の中の精霊が話しかけてきたのだろう。
『え、えっと……すみません。勝手に縄張りに踏み込んでしまって。でも私達にも事情があって、この場で起こる事態を観察する必要があるんです。小屋には近づきませんし、干渉するつもりもありません。なので、この場に居させてもらえませんか?』
人間は精霊の言葉を理解できないが、精霊は人間の言葉を理解できる。
なので、普通に口で話しても意味は通じるのだが、ミツルが戻ってきた時に存在を気取られては厄介だ。
そこで、ソフィーは相手に合わせて思念の魔法を使い、返答した。
ちなみに、他の三人はミツルを追って、この場を離れているようだ。
だからこそ、精霊はソフィーだけを指定して警告したのだろう。
『……そもそも、異界の子は、もう去りました。いったい何を観察する必要が?』
少しの沈黙の後、精霊はソフィーの願いに疑問を返した。
話を聞いてもらえたことに安堵しつつ、ソフィーは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『彼が、あの程度で諦めるとは思えません。あなたを手に入れるまで、何度でも向かってくるはずです』
『なるほど、異界の子の狙いは私の力ですか。……ところで、あなたと彼には何の関係が?』
『彼は……敵です。私達の。そして、彼の力が強大だから、その行動を観察して勝機を探っているんです。あと、もし叶うなら、あなたをここから逃したい』
『……私が異界の子に遅れを取ると?』
僅かに気分を害したような反応。
しかし、ここで怖気づいていては救えるものも救えない。
『あなたが看破しているように、彼は異界の存在です。それも、この世界より上位の世界から転生してきた強者なんです。私なんかじゃ敵わないくらい、あなたは強い。けど、彼の強さは、きっと、その上をいく。だから、お願いします。彼が、この地から離れるまで、別の場所に避難してもらえませんか?』
『……なぜ、そこまで私のことを案じるのです? 初めて会ったばかりで、互いのことも良く知らない間柄であるにも拘らず』
『……正直な所、打算もあります。彼が、あなたの力を手に入れてしまえば、私達にとって不利になる。けれど、それ以上に、もう沢山なんです。転生者によって蹂躙される何かを見るのは……』
悲痛に、それでいて真摯に、自らの思いを訴えるソフィー。
それが精霊にも伝わったのか、感じていた圧力が僅かに和らいだ。
『話は分かりました。その心に偽りがないことも理解できます。けれど、それでも私は、ここを離れる訳にはいきません。……かつての恩人に報いるために。たとえ、彼が実力行使に出ようとも、最後まで戦い抜きます』
『……そう、ですか』
また救えなかった。
ソフィーが、そんな無力感に肩を落とした次の瞬間。
その肩に、そっと手が乗せられた。
「やだなぁ。人のことを暴力主義者みたいに言ってくれちゃって。むしろ僕は暴力を嫌う平和主義者なのにさ」
「…………なん、で……?」
信じられない思いで、ゆっくりと後ろを振り返るソフィー。
そこには、傷どころか汚れ一つないミツルが笑顔で立っていた。
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