異世界転生チートクソ野郎を原住民がぶちのめす~ただそれだけの物語~

雪月 桜

受け継がれる怨念

雷神の鉄槌トール・ハンマー

ミツルが、そう呟いた次の瞬間、雷で構成された巨大なつちが空に顕現する。

そして、近づいただけで消し炭になりそうな激しい放電を繰り返す、その槌が勢いよく地面に叩きつけられ、局地的な地震が発生。

轟音と共に粉塵が舞い上がり、周囲一帯に降り注いだ。

「ケホッ! ケホッ! ペッ、ペッ! お、お前……なんて事を!」

しばらくして揺れと砂埃が収まり、大男が震源地に目を向けると、そこにあった遺跡は跡形もなく消し飛んでいた。

ミツルの突然な凶行に取り乱し、声を荒げる大男。

しかし、当のミツル自身は、何を怒っているのか分からないという様子だ。

「どうかしましたか? もう調査もされてないんですし、あんなボロッちい遺跡を壊したって問題はないでしょう? それに、チマチマ探索するなんて手間だし、時間と労力の無駄じゃないですか」

「そ、そんな理由で……」

あまりにも自分勝手な言い分に絶句して、呆然とする大男。

それはそうだろう。

既に利用されていない遺跡だからと言って、即座に“じゃあ壊そう”という結論に至り、実行に移すのは人間として大切な何かが欠けているとしか思えない。

ましてや、自分に所有権がある訳でもない物なら尚更だ。

「おい、しっかりしろ! 頼むから返事してくれって!」

「……この声は、まさか!?」

遺跡があった方から聞こえてきた声に反応して、ハッと我に返った大男が慌てて現場に向かう。

ミツルも後を追うが、特に焦った様子はなく、その歩みは酷くゆったりしていた。

「これは……」

先に到着した大男が、目の前の惨状に言葉を失う。

そこには、子供3人、大人5人、合わせて8人分の遺体が横たわっていたのだ。

「う、うぅ……。なぁ、オジサン……。助けてくれよ。回復魔法でも、回復薬でも良いから……。金なら払うからさ……。みんなを、みんなを助けてくれよぉ……!」

遺体の側に崩れ落ち、嗚咽おえつを漏らして、ボロボロと涙をこぼしながら懇願する一人の少年。

どうやら、あの魔法に巻き込まれたメンバーの中で、一人だけ生き残ったようだ。

「俺たち、依頼を受けたんだ……。森の秘密基地で遊んでる子供達を連れ戻すって……。なのに、守れなくて。先輩たちは咄嗟に近くの俺だけ庇って障壁を張って……。なんで……なんで一番よわい俺なんかのために……ッ!」

地面に叩きつけられた、その拳からは、ポタポタと血が滴っている。

抑えきれない怒りで、爪が食い込んでいるのだろう。 

「……すまん。もう手遅れだ。恐らく即死だったんだろう。手の施しようがない」

大男は肩を震わせながら、絞り出すような声で言った。

その言葉を受け止めた少年は、とうとう堪えきれなくなったのか、一人の冒険者の体に縋りついて、泣き喚いた。

……そこへ、場違いなほど平坦なトーンの声が響く。

「へぇ。僕の“ファイアボール”ですら過剰な威力と言われる世界に、“雷神の鉄槌トール・ハンマー”を防げる魔法使いが居たなんて。勿体ない事しちゃったかな?」

なんの感慨も、罪悪感も感じられないミツルの言葉に、大男が振り返る。

「ミツル! お前、自分が何をしたか分かってんのか!」

「えっ? いやいや、モンスターも出るような、こんな危ない場所を秘密基地にしてる方が悪いでしょう? それに人がいるなんて知らなかったんだし。仕方ないじゃないですか」

「てめぇッ!」

死人に責任をなすり付ける、ミツルの胸ぐらを掴み、宙に持ち上げる大男。

「ちょ、何するんですか!」

「ガッ……!? ハッ……」

しかし、反射的に放たれたミツルの魔法が、大男の胸を貫いた。

ビクンッと、雷に打たれたように痙攣けいれんした大男の腕が緩み、ミツルが解放される。

続いて、大男の巨体が、ゆっくりと仰向けに倒れ、ズシリと重たい音が響いた。

「あっ、そうだった! 僕の力って、この世界では異常なんだっけ。ちょっと、痺れさせて抜け出すだけのつもりだったのに。……まぁ、まだ力加減に慣れてないし、向こうから襲ってきたんだから正当防衛だよねっ」

「あ……。あぁ……」

目の前で行われた殺人に腰を抜かし、尻餅をついたまま後退あとずろうと藻掻もがく少年。

そんな少年に、ミツルが笑顔で声を掛ける。

「ねぇ君! もし僕が罪に問われそうになったら証言してよね。先に手を出したのは相手の方だったってさ」

「う、うわぁぁぁっ!?」

とうとう目の前の事態が受け入れられなくなったのか、パニックを起こした様子の少年は、ふらつきながら森の奥へ走り去って行った。

まるで、認めたくない現実から逃げるように。

「あーあ。どっか行っちゃった。まぁ、良いけどさ。疑われても何とか出来るだけの力が僕にはあるみたいだし。さーて、街に帰って何か食べようっと。色々あって流石に腹ペコだし」

鼻唄でも歌いそうな雰囲気で、少年は悠々と森を後にした。

「……この男。盲信チートの影響を受けてなかった。たぶん、それだけ意思の強い男だったのね。生きていれば、転生者に対抗する切っ掛けにもなってくれたんでしょうけど……。また惜しい人を亡くしたわ」

ここまでの流れを見守っていたアミラが、大男の遺体を見下ろして、ポツリと呟きを漏らす。

ミツルが、この場を去ったため、ようやく顔を出すことが出来たのだ。

近くで見る大男の顔は、苦悶くもんの表情を浮かべている。

といっても、今更できることは殆ど無いのだが。

「……やっぱり。強い未練と転生者に対する怨念でアンデッドになりかけてる。でも、そんな形で蘇った所で、転生者には敵わない。……だから、その恨みは私達が継いであげる。きっと、転生者を滅ぼすために役立てるわ」

そう言って、アミラは懐から小さな黒い宝玉を取り出し、とある魔法を行使した。

すると、大男の体から紫の瘴気が立ち上り、宝玉に吸い込まれていく。

やがて、全ての瘴気が取り込まれると、大男は安からな表情を浮かべた。

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