異世界転生チートクソ野郎を原住民がぶちのめす~ただそれだけの物語~

雪月 桜

自称、落ちこぼれ

「なるほどな。……ミチルって言ったか? 急な事故死で転生して、この世界にやってきたなんて、色々と大変だったろう。今まで、よく頑張ったな」


とある街の冒険者ギルドにて、一人の大男が、机の対面に座る少年に同情の視線を投げかけた。


それに対して、覇気のない苦笑いで応じた相手の少年は身の上話の続きを語り出す。


「はい。前世の記憶や肉体を引き継いでいるとはいえ、僕は故郷で落ちこぼれとか劣等種とか言われていたほど無能なんです。幸い、この付近のモンスターは、それほど強くなかったので、僕でも何とかなりましたけど、この先どうやって生き残っていけば良いのか……」


少年の瞳は不安に揺れており、嘘を吐いている気配はない。


少なくとも、自分では本心を語っているつもりなのだろう。


しかし、そのやり取りを別のテーブルから観察していたアミラは、少年の言葉を鼻で嗤った。


「……ハッ、そんな大層な魔力を宿しといて良く言うわね。体内で上手く循環させてるから他の連中は気付いてないみたいだけど、この大魔法使いアミラちゃんの目は誤魔化せないわよ」


少年たちには聞こえない声量で、一人呟くアミラ。


ちなみに、他のメンバーは、別の場所から少年を見張っている。


万が一、転生者に勘付かれて襲われた際に、バラバラに散って逃げるための配置だ。


アミラたちは、あくまで目的を共有する同志であり、仲間ではない。


よって、メンバーを助けるために自分の命を危険に晒したりはしない。


それは、行動を共にする前に、予め定めた契約である。


それぞれにとって、最も大切なのは、自分の復讐や目的を果たすこと。


それに反しない範囲では協力するし、仲良く雑談を交わすこともあるが、優先順位が変わることは絶対にない。


【亡霊】として生きると決めた4人の覚悟は、それほど深く、重いのだ。


……そんな【亡霊】に監視されているとも知らずに、少年たちのテーブルは何やら盛り上がりを見せていた。


「よっしゃ! そういうことなら、俺が鍛えてやるよ! なぁに、飲み込みの悪い弟子の一人や二人、今までだって育ててきたんだ。お前さんだって、食うに困らないくらいには、キッチリ仕上げてやるさ!」


「で、でも僕は本当に何をやってもダメダメなんです……。毒草も見分けられないし、体力も人並み以下。手先も不器用で、泳ぎも苦手。計算も遅いし、読める文字も少なくて。気配にも鈍感だし、何より、この世界の知識が全くありません」


「心配すんな。誰だって始めは初心者だ。それに、お前にも、きっと何かの才能がある。まだ、それに気付いてないだけでな」


「そうでしょうか……? たしかに、魔法だけは他よりマシと言われてましたけど……」


「おっ! なんだ期待できそうじゃねぇか! だったら、まずは、その魔法が、どれ程のもんか確かめようぜ! 近くに良い場所が、あっからよ!」


そうして、二人は冒険者ギルドを後にした。


当然、アミラたちも一定の距離を置きつつ、尾行していく。


「さぁて、見せて貰おうかしら。自称、落ちこぼれの魔法って奴を……ね」

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