異世界転生チートクソ野郎を原住民がぶちのめす~ただそれだけの物語~

雪月 桜

ゴスペルの歴史

『勇者様! どうか我々を、魔王の恐怖から、お救い下さい!』

何十年か、それとも何百年か。

記録にもハッキリとは残っていない遥か昔。

人間たちの国で、一人の王が、ある儀式を命じた。

それが、全ての始まりだ。

「人の心を持たぬ魔族めが! その性根を叩き直してやる!」

「弱者に生きる資格なし! 矮小なる人間よ、刃向かうなら根絶やしにしてくれよう!」

当時から、人間と魔族は争いあって生きていた。

‘‘力なき者は身内でも容赦なく切り捨てる’’、そんな魔族の在り方を認められない人間。

‘‘説教も矯正も相手のためにやってあげている’’、そんな人間の傲慢さを嫌悪する魔族。

お互いに反発は強かったが、より好戦的だったのは力で劣る人間の方だった。

といっても、魔族を滅ぼしたかった訳ではない。

理解できぬ価値観を恐れ、自分たちと同じ色に染めたかったのだ。

そして、それが結果的に魔族の幸せにも繋がると信じていた。

一方、弱者に興味がない魔族は積極的に人間を狩ろうとはしなかったが、人間側の干渉を大人しく受け入れる気もなかった。

人間の干渉が過剰になればなるほど、魔族は激しく突き放す。

やがて、魔族のトップである魔王が戦線に立つようになると、人間たちは為す術もなく追い詰められた。

そして、異世界から勇者を召喚するという暴挙に手を出したのだ。

しかし、それでも魔王を倒す事は叶わず、それどころか本格的に戦が始まってしまう。

魔王に敵意を向けられた人類は、このまま滅んでしまうのか。

誰もが、そう思っていた。

しかし、ここで予想外の事が起きた。

神が、この状況に介入してきたのだ。

転生者に能力チートを与え、勇者に仕立てあげるという方法で。

神が何を思って、こんなことをしたのか、それは今でも不明だ。

しかし戦況は再び五分と五分に戻った。

そして、転生者の強さを認めた魔王が停戦に応じ、相互不干渉の条約が結ばれることとなる。

こうして世界は平穏を取り戻した——ように見えた。

しかし、実際には新たな問題が浮かび上がっていた。

それが、転生者の過剰供給と彼らの暴走である。

魔族と人間の戦が終わってからも、転生者は増え続けた。

そして、相互不干渉の条約を無視して魔族の国に攻め入ったのである。

しかし、手柄を奪い合う転生者同士の争いにより、戦況は、どちらが有利とも言えない状態だった。

以降は転生者に乗っ取られた人間の国と、これに対抗する魔族の国が散発的な戦闘を繰り広げている。

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