異世界転生チートクソ野郎を原住民がぶちのめす~ただそれだけの物語~

雪月 桜

亡霊のお仕事

「なん……で。僕の、力が……通じない?」

「よぉ、転生者さま。今まで散々、虐げてきた原住民に、してやられる気分はどうだ?」

鬱蒼と繁った広大な森の一角。

ここには、地面に倒れ伏す少年と、彼の頭を踏みつける少年の姿があった。

既に陽は落ち、辺りを照らすのは木々の合間から漏れる僅かな月明かりのみ。

しかし、そんな薄暗い視界の中でも、踏みつける側の少年——イブキが浮かべた三日月のような笑みは相手に、はっきりと映ったようだ。

その証拠に、這いつくばる少年の顔が屈辱に歪んでいる。

「お前……! こんなことして……タダで済むと思ってんのか……! 」

ジタバタと、必死にもがいて、イブキの足を払い除けようとする少年だが、その力は、あまりにも弱々しい。

それは、イブキ達が4人で施した数々の拘束魔法が原因だが、イブキは、わざわざ説明したりしなかった。

事情を知らない少年からすれば、いきなり全身の力が抜けたような感覚だろう。

「随分と威勢がいいなぁ、おい。けど、この状況で粋がっても滑稽なだけだぞ。にしても、初日のギルドでの騒ぎから一週間、お前ほんとにろくなことしねぇな」

昼間に街を歩けば、トラブルに巻き込まれ、暴力で解決。

深夜の路地裏で口論する男女を見かけ、男が乱暴に女の肩を掴んだ所で、割って入って男を半殺しに。実はただの痴話喧嘩だと知れば金で解決。

そのくせ、正義感が空回りした少年を見かければ、躾と称して痛め付け、ついでに正論を叩き付けてトラウマを植え付ける。

珍しく善行を働いたと思ったら、相手の足元を見た法外な対価を要求し、破産寸前に追い込んで豪遊。

一週間で積み上げた負の武勇伝は数知れず。

そして、その全てで、罪のない誰かが犠牲になっていた。

「はぁ? なに……言ってんだ? 僕は転生神に選ばれた転生者だぞ……。僕は前世でイジメられて散々な目に遭ったんだから……今度は僕が好き勝手する番だろうがっ……!」

この期に及んでも、まだ反抗心が萎える様子はない。

その度胸だけは称賛に値するな、とイブキは内心で皮肉げな笑みを浮かべつつ反論する。

「世の中には、もっと不幸な奴がいるんだから、その程度で不幸面すんな——とは言わない。別に不幸なんて誰かと比べるもんでもないしな。お前にとって、相応に不幸な【何か】は確かにあったんだろう。……けど、人が生きてるうちに不幸な目に遭うなんて当たり前のことなんだから、いちいち癇癪起こして八つ当たりすんなよ」

「ざっけんな! お前……調子こいてられんのも今のうちだぞ。僕に何かあれば、近くで待機してる配下の魔物が押し寄せてくる。見てくれが悪いから普段は視界に入らないように指示してるけどな。あいつらが来れば、お前なんか一撃で……」

「あぁ、そいつなら俺の仲間が張った罠にかかって、ナナバの皮で転んで死んだぞ?」

「…………はっ?」

これまで、ずっと足に掛かっていた負荷が急に消える。

どうやら、あまりの驚きで少年の力が抜けたらしい。

「信じられるか? ナナバの皮で転んで死ぬとか、どんなギャグだよwww マジ受けるんですけどwww」

ここで再び、少年が暴れだす気配を感じる。

イブキが改めて足に力を込めたのと、少年が口を開いたのは、ほぼ同時だった。

「お前……ふざけてんのか!?」

「あれ、使い方、間違ってたか? 前に他の転生者が、こんな感じで喋ってたんだけど」

「んなことは、どうでも良いんだよ! お前、他人の死に様を馬鹿にするとか舐めてんのか!? 命を何だと思ってんだ!?」

非常に耳が痛い正論である。

……ただし、真っ当な人間の口から出た言葉であれば、だが。

「おいおい、忘れたのか? これは、お前のやり口だ。他人の不幸を、他人の痛みを、他人の心を嘲笑い、弄び、理不尽を押し付ける。俺は、それをなぞって見せただけ。俺達が監視した一週間だけで、お前は、どれだけの人間を不幸にした?」

「だから、僕が何しようが僕の勝手だろ! それに、あいつらにだって非はあった!」

「そうだよな。そうやって言い訳してれば周りは納得してくれたよな? 知ってるか? それは転生神が与えた能力チートだ。転生者が簡単に魔族に殺されないよう、周囲に無条件の好意と協力を強制する。だから、お前のやることに異を唱える人間はいないし、むしろ称賛される。都合良く人が寄ってきては自分に利をもたらしてくれて、やること為すこと上手くいく。今の今まで、ご都合主義な展開が続いて、さぞ、気分が良かったろうな?」

「はっ、なに言ってんだ? 単に人望と能力の差だろ? お前に無いものを持ってるからってひがむなよ」

イブキの発言を一蹴し、嘲るような笑みを見せる少年。

これまでに相対してきた、ほとんどの転生者と同じ反応だ。

「聞く耳持たず。まぁ、改心できるなんて期待はしてないし、さっさとやることやるか」

イブキが少年に手をかざすと、少年の体が鮮烈な光を放った。

ついでに、足に掛かる圧力が、みるみる上昇していく。

「あ? ……おおっ!? ふふっ、ははははは! 力が……力が湧いてきた! そうだ、僕は選ばれたんだ! こんな所で死ぬわけが——」

「あー、盛り上がってるとこ悪いけど、それは俺がやってることだぞ?」

「あっはっは! だとしたら馬鹿じゃないの!? 僕に、こんな力を与えて無事でいられるとでも——」

「馬鹿は、お前だ。敵が自分を強くしてくれるとか、ご都合主義にもほどがあるだろ? 当然、罠に決まってるよな?」

そう言って、イブキが再び手をかざす。

すると、少年の放っていた光が輝きを失い、そ
の力も急速に萎んでいった。

「なっ……急に力が……」

「一つ目に掛けたのは、魂を削って能力を強化する禁忌の魔法。力が湧いた原因は、それだ。そして、二つ目は、体内の魔力エネルギーを大地に分け与える魔法。こっちは、お前も知ってるだろ? 主に農業で使われる有名な地属性の初級魔法だ」

「……魂を削る」

「そう、気付いたか? 要するに、お前は今、魂を削って大地に垂れ流してる状態だ。やがて魂は擦り切れて完全に消滅する。それは、もう転生すら叶わない本当の意味での死だ。こうしないと、また転生神に転生させられて、いつまで経っても転生者が減らないからな」

「い、嫌だ…………嫌だっ! 死にたくない!」

「誰だって、そうだ。お前が、ふざけて笑いながら殺した人間や魔族だって、そうだった。恨むなら神に力を与えられて調子に乗った自分を恨め」

「いやだ……い、や……だ……」

やがて少年は、その肉体すらエネルギーとして大地に捧げ、跡形もなく消え去っていった。

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