きみの隣にいるだけで幸せだったと気づいたのは

ノベルバユーザー439854

#9 驚きと嬉しさと


心臓は、周りに聞こえてしまうのではないかというぐらいにバクバクと波打っている。手をぎゅっと握って力を入れていないと、前に進むことを止めてしまいそうだ。

大丈夫、ちゃんと考えてきた。

ふーっと一呼吸置いてから、さらに自分の席へ近づいた。そして、リュックを背中からおろし、有季さんの側の机の横に置いた。その音に反応して、有季さんがこちらを見る。僕は、有季さんの方を見ておく。目が合う。

今だ!

迷いを捨てて、僕は口を無理やり動かした。

「お、おはよう」

ちょっと噛んだが、なんとか言えた。
有季さんは、虚をつかれたように目を見開いた。そして、そのまま固まった。

......やっぱり引かれたか。

悠也は、半分投げやりな気持ちでガタっと椅子を引き、腰をおろした。椅子の少し冷たい感触が伝わってくる。やっぱり挨拶なんてしなければよかった。すぐに、自信を無くした自分が顔を出す。せっかく、今回は頑張ろうと決めていたのに。

しかし次の瞬間、有季さんの目がすっと細くなったかと思うと、表情がにへっと崩れた。

「おはよう、悠也くん」

今度は、悠也が驚く番だった。

「え」

自分から挨拶しておいて、「え」って何だ。冷静に自分に突っ込みを入れながらも、悠也は状況が飲み込めていなかった。

今、挨拶を返してくれた?しかも名前呼びで?

急に、体温が上がっていくのを感じる。座っている椅子が暖かい。そして嬉しい。とにかく嬉しい。というかやばい。ここからどうしたらいいんだろう。

軽く会釈して、にやけそうな顔と恥ずかしさを乗り切ろうとしたが、有季さんはまだニッコニコでこっちを見ている。直視できない。でも、このタイミングで目をそらしたら、素っ気ない感じがするのではないか。それも嫌だ。

窮地に追い込まれた悠也を救ったのは、いつもは敵である始業のチャイムだった。

キーンコーンカーンコーン......

「起立ー!」

先生の合図で、みんなが椅子を引いて立ち上がる。僕も有季さんも、そうせざるをえない。助かった。
先生に向かって礼をしながら、悠也の頭の中は驚きと嬉しさ、期待と不安が入り混じっていた。

僕の挨拶に、ちゃんと返してくれた。しかも、なんかめちゃくちゃ笑顔じゃなかったか!?それってどういう笑顔なんだろう......

今日の授業も、集中できそうにない。

________
続く……

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