きみの隣にいるだけで幸せだったと気づいたのは
#4 何か接点を
5月にもなると、だんだんと夏の暑さに近づいてくる。今日も、運動すると汗ばむぐらいの陽気だ。
「暑いのが、チャリ通学の欠点だよな」
そう呟きながら、悠也は学校の駐輪場に自転車を止めた。少し錆びかけて固くなったサドルを、力を入れてガッチャンと上げる。鍵は失くさないように、制服のズボンの右側のポケットと決まっている。
下駄箱に向かって歩き始めると、前の方から数人で固まって歩いてくる集団がいくつも見える。家から近く、喋りながら登校できる徒歩通学が少し羨ましい。
あ、でも有季さんも徒歩通学だっけ。前に歩いて帰るのを見た気がする。じゃあ前言撤回。
脳内でくだらないことを考えながら、靴を履き替え教室に入る。すると、ドアの前の机で陽太のグループが喋っていた。
「悠也、おはよう」
教室に入ってきた悠也にいち早く気づいた陽太が声をかけ、それに続いてそこにいた皆が口々に挨拶を返してくれた。
「おはよう」
悠也も挨拶を返す。陽太たちのグループは明るく、クラスの中心になるようなグループだ。
僕もメンバーと喋るが、そこのグループに入っているわけではない。
みんなでワイワイとはしゃぐのもいいけれど、僕はひとりでいる方が落ち着いていられる気がする。
荷物を一旦置こうと、自分の席に向かった。隣では、有季さんが友達と喋っている。名前は確か、今野美咲さんだっけ。
有季さんとは対照的に、スラッと伸びたロングヘアーだ。それに、目がぱっちりしていてちょっと気が強そう。まだ話したことがないけど。
その時ふと、有季さんが何気なくこっちを見た。僕は有季さんを思いっきり見ていたから、しっかりと目が合ってしまった。
どうしよう。「おはよう」って言うべきか。でも、今野さんもいるし、周りの目もある。口の中をモゴモゴさせている間に、有季さんはまた視線を今野さんの方に戻してしまった。
途端に、頭の中が後悔でいっぱいになる。
何やってんだ。まず挨拶が、仲良くなる第一歩だろうが。
挨拶は、あなたを認めていますという証だ。家族でも友達でも恋人でも知らない人でも、挨拶をされると認められた気がして嬉しい。
よし、決めた。僕は今日のどこかで、絶対に有季さんに話しかける。
その決意を行動に移したのは、意外にも早く1限目のことだった。朝のホームルームで必死に考えた結果、思いついたのは忘れ物を借りるという方法だ。
ありきたりだとか古い手だとか、そんな事はどうでもいい。ただ、有季さんと何か接点を作ることができればいい。
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続く…
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