追憶の彼方に、何が待つのか。

yk1998

Ep1.2 選択の時

村に戻ると、もう夕食時だった。

多くの家の煙突から煙が上がり、香ばしい香りが一帯に満たされている。
この村は小さい。住人は40人ほど。いわゆる集落だ。
建物は10戸ほど、30分もあれば1周はできてしまうだろう。

『おなか減ったね~!今日の夕飯、何かな~?』

そう言いながら少し前を歩いているのは、セリア。
記憶を無くして目覚め、何もなかった自分に婆さんが紹介してくれた。

黒髪、耳が隠れるほどの短髪、顔立ちは整っており、いわゆるかわいい部類だ。村ではかなりの人気者で、その陽気な性格からどんな人ともすぐに仲良くなれる。

自分とは真逆だ。あまり明るくない自分がこの村に受け入れてもらえたのは、セリアのおかげだといっても良い。

とはいっても、セリアもこの村の出身という訳ではない。自分が見つかる少し前に、王都からある騎士が訪れたという。

騎士はこの村を抜けたところにある砦の視察を目的としていた。しかし、娘を村に預けて砦に行ったきり、彼は戻ってこなかった。

後のうわさでは、当時は砦の周辺で紛争が多く起こっており、彼はそれに巻き込まれたらしい。

その砦に近づくことは禁止されている。近づくことができるのは騎士か、22歳で成人になり、村を出て騎士として修業を積む者だけだ。

当時、彼女はかなりつらかっただろう。彼女自身からすれば、未知の村に突然置き去りにされたのだ。しかも、何が起こったかは分からずじまい。

自分にとって大切な何かを失ったよそ者の2人。境遇が似ているからだろうか、自分たちが意気投合するまではそう長くはなかった。出会ったときは17歳。今年で22歳になる。

22歳か。

この国において、22歳は特別な年齢である。22歳からは村の保護を外れ、自らの職を選ぶ自由が与えられる。

騎士となって村を出る者、鍛冶屋として村に貢献する者、狩人として村に守護と食料を与える者、仕事は当人の自由である。過去には吟遊詩人として国中を周るといって村を出ていった者もいるらしい。

自分も、今年で22歳になる。

とはいっても、正確な年齢は分からないのだが。村の皆は目覚めた日を誕生日、そしてセリアと同じ年として扱ってくれた。

『ユキト!聞いてる?!』

『ああ、すまん…』

『最近、私に隠し事してるでしょ?』

『そ、そんなことないって!』

『フーン…。ま、いいんだけど。』

たわいもない会話を続けながら、村の広場を抜けていく。この広場は村の中心にあり、いわゆる交流の場である。

広場の中心には、とてつもなく大きな角のようなものが飾り付けられている。高さにして約3メートル、直径は約1メートルほどだろうか。村の言い伝えによると、遠い昔に村の奥の山脈よりやってきた竜人が、土産の品として置いていったものらしい。

これが実際の角だと考えると、どれほど巨大なのだろうか?
まあ、竜なんか存在すれば、の話であるが。

『ようユキト!斧の調子はどうだい?そろそろ手入れが必要なんじゃないのか?』

広場に面したところにある鍛冶屋。その親方が声をかけてくる。

『いまの所大丈夫かな。また今度寄るよ!』

『お前さんのために特注の一振りを作っているところよ!なんせもうすぐ22歳だからな!楽しみにしとれ!』

『いやあ、毎度毎度ありがとね!』

親方に返事をしながら、広場を抜け緩やかな坂を上っていく。

自分たちの家は、中央にある広場を抜け、少し上った高台にある。婆さんはこの村の村長だ。だからか、家も村を見渡せる位置にある。

坂道を登り切り、庭にある焚火の横を通り、玄関のすだれをくぐると、とてつもなくおいしそうな匂いが鼻を誘惑する。

『お婆ちゃん!帰ったよ!』

セリアの明るい声に反応し、台所から婆さんが顔を出す。

『ああ、セリア、迎えに行ってくれてありがとうね。
ユキトも、もう少し時間を考えて行動しなさいな。』

『ごめんごめん、ついつい時間を忘れちゃって…』

『良い良い、打ち込むのは大切なことよ。』

そう言いながら婆さんは、大きな鍋を机に置く。

玄関をくぐると、すぐ目の前に食卓がある。食卓の右側に行くと台所。左にセリアと自分の部屋がある。婆さんの部屋は台所の奥から上がった2階だ。

部屋に戻り、部屋着に着替えると、夕飯の準備ができたというセリアの声が届く。

こうして夕飯を食べられるのも、あと5回。いや、3人で食べるのは4回かな。
5回目の夕食は22歳の誕生日だ。村をあげて盛大に祝われるのだろう。

まだだれにも話していないが、その食事がおそらく村でとる食事の最後になる。
22歳を迎えたら、この村を出るのだから。

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