追憶の彼方に、何が待つのか。

yk1998

Ep1.1 その代償の果てに、何を得られるのか?


暖かい日差しの中、無心で斧を振るう。虫の鳴き声、小鳥のさえずりに包まれて、斧が幹に叩きつけられる音が響き渡る。

何時間こうしていただろうか、真上にあった太陽は柔らかな西日に変わりつつある。

この時間が一番好きだ。何もかも忘れられる。まあそもそも、何も覚えていないのだが。

全てを失くして目が覚めてから、5度目の夏。
村の皆はとても良くしてくれている。

部族の一員でもない自分を、家族のように迎え入れてくれた。特に婆さん。目覚めてからずっと部屋を使わせてくれた。若干の申し訳なさはあるが、あの家の居心地の良さと言ったら…

もう完全に居場所だ。

しかし、このままでいいのだろうか?
自分について何も知らずに、このままここで過ごしていて良いのだろうか?

考え出したのは、去年の冬。
自分が見つかったところに連れて行ってもらった時だ。

そこで当時の話を聞いた。

狩人が狩りの途中で、吹雪に遭い、洞窟に逃げ込んだこと。
その奥にあったら開けた場所、その中心に、自分はいたこと。

持ち物は何も無く、唯一身につけていたのは円形のペンダントだけだったらしい。
その場所を訪れてみたとき、自分の中で何かが疼いたのを感じた。

それ以来、心の声が聞こえる気がする。

『...探せ、失われた自分を。』

自分のルーツを知りたいのは当然のことと言えば当然である。しかし、その決心はできずにいた。
知ってしまうと、何かを失ってしまう。この5年間はかけがえのない日々だった、失いたくない日々だ。

それを捨てて探すほど、前の自分に価値はあるのだろうか?

そんな葛藤を胸に、毎日を過ごしてきた。いいんだ、このままでも。そう思うことも増えてきている。果たして、何が正解なのだろう。

『おーい!いつまでやってるさ!帰ろ!』

考えを止めた声の主は、10メートルほど離れたところで立ち止まり、自分を見つめた。

『ほら、ユキト!何ぼーっとしてんの!』

『ごめんごめん。ちょっと考え事してた。』

『いつもそう!斧振り出すとなにも聞こえなくなるんだから…』

『そういうお前は存在感無さすぎかよ、セリア。いつからそこに?』

『30分前よ!』

セリアは頬を膨らませながらムッとして言う。

『アホか、声かけろって…』

『かけてたあ!!!帰るよ!』

二人で笑いながら帰路に着く。
ああ、この感覚。失いたくないのはこの感覚なんだよな。

夕陽に背中を押されながら、並行する二つの影を見て思う。

果たして、本当に探す価値はあるんだろうか?

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