異世界の死の商人
第三十九話 学園都市に行こう
壁一面に飾られた銃器と棚に置かれた弾薬を見ると帰ってきたという実感がある。でもそろそろ仕事をしないとならない。
「商会を大きくするためにも、従業員を増やそうと思います。」
「僕の何が駄目だったのさ?散々、僕を使ったのに僕を捨てるの……?」
「あの百希?人聞きの悪いことを言わないでもらえますか……。」
百希は終始ノリノリでサバイバルナイフを持とうとしながら俺の方針に口を挟む。いつか本当に誤解されかねないけどこういう冗談も好きだ。
「君は何人増やすつもりなの?」
「金貨千枚で買えるだけ。」
百希を買ったときは金貨三十枚が費やされた。さて算数の問題です!転移者たる百希は解けるかな?
「えっと金貨千枚で僕が三十枚だから……。」
あの両手を出してるけどそもそも割り算ですよ……。
「三十三人!」
うん百希は両手なしでも正解出来たよね。いつも冗談を言ってるけど本当は頭良いと思う。
「でもさ、兵士ばかり増えてもだめ、指揮官が必要だよね?」
「まぁ確かに……。」
「というわけで学園都市に僕と行こう!」
「え?」
最近はおとなしいなって思っていたけど何か企んでいたのか。何をする気だろう?彼女に手を引かれて勢いよく外に出る。
学園都市はこの国の最高学府が集まっている。そして関係者ではない人は学校には入れない。だけど俺達は入っている。
「うぅドキドキしちゃいます……。」
「ミーラ、堂々としないとバレるよ。」
「わ、分かってます……。」
二人共ブレザーを着ていて似合っている。現在、俺達はもぐりで制服を着て学校に潜入している。
「ほらユータ、僕に何か言うことないの?」
「制服を用意してくれてありがとう。」
「それはそうなんだけど……。」
本当は何を言うべきか分かっているけど何故か百希には素直になれない。
さて何故か制服があるがこの学校は帝国の最高学府だ。クラスなんて無いし多分バレない。
「はぁ……素直にならないなら僕にも考えがあるよ。」
「スマホのダウンロードフォルダの下から三番目の……。」
「ちょっ!ストップ!」
何故そのファイルを知ってるんだ。隠し場所を変えないと……。ミーラが不思議そうにこっちを見ている。早く事態を収拾しないとまずい。
「百希、可愛い、可愛いから静かに。」
「ユータ様、何をそんなに必死になってるんですか?」
「いや、大したことではないよ。」
「なら今度みんなに教えても問題ないね。」
口パクで後で交渉に応じると伝えておいた。百希は不満そうに親指を立てた。大丈夫かな?ただでさえ潜入をしているのに更に不安の種が増えてしまった。
講義の内容を調べて見ると面白そうなのがたくさんあった。
『東の大帝国、その大陸統一の障壁』
『AK-47の構造』
『弾道計算の数学』
『連合王国の戦略』
「ねぇユータ、これ受けてみない?」
百希が示したのは微分積分学。数学はこの世界でも同じらしい。数学好きだったかな?
「あれ?私達は何しに来たんでしたっけ?」
「気にしたら負け。ミーラは何かないの?」
「どれも難しそうです……。あなたは何か無いんですか?」
ミーラの俺の呼び方が自然に聞こえて驚いた。それにしても人を雇いに来たのにいつの間にか講義を受けることになっている。俺と百希だし仕方がないか。
「連合王国の戦略は面白そうだけど……。」
「ならじゃんけんしようか。」
俺が勝った。百希は少しだけ悔しそうだったけどまだ何か企んでいる様子だった。
もぐり学生の俺達は後ろの方で講義を聞いていた。大きな黒板に連合王国やフロント帝国、他の国々が書かれていた。
「〜海洋国家である連合王国は大陸に強力な国家が生まれ、海へ挑戦する事態を避けるべく外交を展開しており……。」
講義内容に関心していたら隣でミーラが眠そうにしていた。右腕に重さが加わる。
「そこの黒髪の男女に質問をしようか。」
嘘だろせっかく後ろに座ったのに。
「以上のことと今の大陸の情勢を踏まえて連合王国が取りうる戦略は何かな?」
百希と俺で目を合わせる。俺が行きたいって言ったから俺が言うか。
「離間計だと思います。現在の大陸はメラージ家の血縁関係で一つになっていますが王が複数いる以上疑心暗鬼になるのは避けられないかと思います。」
「なるほど。そっちの女の子は?」
「東の帝国と西方世界全体を争わせます。そしてどちらかが大勝する前に仲介し、両勢力の力を削ぐのがベストかと思います。」
「……何年か後に君達と会えるのを楽しみにしておく。」
百希が敬語は疲れちゃうねとか小さい声で言ってくる。同意はするけど講義中に話してしまう辺りはやっぱり百希だよね。
「そこの獣人の子は?」
「えっ!?は、はい。えっと……海軍を強くします。」
「シンプルで良いね。どれも可能性はある。勇敢な子供たちに拍手を。」
ミーラは眠そうだったし仕方ないね。俺だったら口をパクパクさせて終わってたからすごいと思う。拍手はしばらく響いて終わった。そしてまた講義が再開される。
講義が終わった。今は校内を歩いて三人でそれぞれ募集ポスターを貼っている。申し訳程度の宣伝活動だ。本当は百希が制服を着て遊びたかっただけの気がする。
「そういえばさっき慌てていたのは結局何だったんですか?」
俺は黙ってスマホを渡す。普通は見つかるはずが無い。ミーラはそれ以前の問題でホーム画面から先に行けなかった。
「私が映ってます……。」
猫耳がふにゃふにゃしてて照れていることが分かる。嫌ではなさそうだ。時折、彼女は顔を赤くしながらこちらを見てまた目をそらす。
「こういうことですか。」
彼女は一人で納得した。俺は一言も発していないし嘘はついていない。彼女が勝手に誤解しただけ。完璧だ。百希がポスターを貼り終えてこっちに来る。
「僕が代わりに操作するよ。」
「百希、何でもするんで許してください。」
「……!君はそれを君自身に誓える?」
「えっ?まぁ誓えるけど。」
会話の流れが本気になった。周りの音が冴えて空気が張り詰める。ここから先はふざけたり茶化したりしたら俺は生きていられないだろう。それぐらいの気迫を彼女から感じた。
「なら僕とちゃんと向き合って欲しいんだ。」
「向き合う?」
「そう、付き合うではないよ。僕を見てほしい。」
それなら質問したいことが山ほどある。でもこれ以上踏み込むのは危険な気がして無意識のうちに先延ばしにしていた。
俺はこの世界に来る前の過去を知らない。でも百希は知っている。ちゃんと向き合えば記憶が戻ってしまうそんな気がする。
「百希は俺の記憶が戻って欲しい?」
「うん。」
ミーラが俺を後ろから抱きしめてくる。彼女が震えているのが背中から分かる。記憶が戻ればおそらく名前も思い出して俺はミーラの知る人ではなくなるだろう。
「駄目……です。」
冷たい何かが俺の首を傳う。彼女は嗚咽をこらえている。
「僕は一からやり直すって言ったからね。君次第だよ。」
俺は自分の記憶なのに選べなかった。どちらかを選べばどちらかが悲しむ。
「百希は俺の記憶を戻せる?」
「君が望めばね。」
「なら一年、一年待ってほしい。それで答えを出す。」
この記憶の問題は転移前の出会いと後の出会いどちらを大切にするかという問にも言い換えられる。そんな質問を俺が即決できるわけがなかった。
「……良いよ。僕は何年でも君を待つから。」
「商会を大きくするためにも、従業員を増やそうと思います。」
「僕の何が駄目だったのさ?散々、僕を使ったのに僕を捨てるの……?」
「あの百希?人聞きの悪いことを言わないでもらえますか……。」
百希は終始ノリノリでサバイバルナイフを持とうとしながら俺の方針に口を挟む。いつか本当に誤解されかねないけどこういう冗談も好きだ。
「君は何人増やすつもりなの?」
「金貨千枚で買えるだけ。」
百希を買ったときは金貨三十枚が費やされた。さて算数の問題です!転移者たる百希は解けるかな?
「えっと金貨千枚で僕が三十枚だから……。」
あの両手を出してるけどそもそも割り算ですよ……。
「三十三人!」
うん百希は両手なしでも正解出来たよね。いつも冗談を言ってるけど本当は頭良いと思う。
「でもさ、兵士ばかり増えてもだめ、指揮官が必要だよね?」
「まぁ確かに……。」
「というわけで学園都市に僕と行こう!」
「え?」
最近はおとなしいなって思っていたけど何か企んでいたのか。何をする気だろう?彼女に手を引かれて勢いよく外に出る。
学園都市はこの国の最高学府が集まっている。そして関係者ではない人は学校には入れない。だけど俺達は入っている。
「うぅドキドキしちゃいます……。」
「ミーラ、堂々としないとバレるよ。」
「わ、分かってます……。」
二人共ブレザーを着ていて似合っている。現在、俺達はもぐりで制服を着て学校に潜入している。
「ほらユータ、僕に何か言うことないの?」
「制服を用意してくれてありがとう。」
「それはそうなんだけど……。」
本当は何を言うべきか分かっているけど何故か百希には素直になれない。
さて何故か制服があるがこの学校は帝国の最高学府だ。クラスなんて無いし多分バレない。
「はぁ……素直にならないなら僕にも考えがあるよ。」
「スマホのダウンロードフォルダの下から三番目の……。」
「ちょっ!ストップ!」
何故そのファイルを知ってるんだ。隠し場所を変えないと……。ミーラが不思議そうにこっちを見ている。早く事態を収拾しないとまずい。
「百希、可愛い、可愛いから静かに。」
「ユータ様、何をそんなに必死になってるんですか?」
「いや、大したことではないよ。」
「なら今度みんなに教えても問題ないね。」
口パクで後で交渉に応じると伝えておいた。百希は不満そうに親指を立てた。大丈夫かな?ただでさえ潜入をしているのに更に不安の種が増えてしまった。
講義の内容を調べて見ると面白そうなのがたくさんあった。
『東の大帝国、その大陸統一の障壁』
『AK-47の構造』
『弾道計算の数学』
『連合王国の戦略』
「ねぇユータ、これ受けてみない?」
百希が示したのは微分積分学。数学はこの世界でも同じらしい。数学好きだったかな?
「あれ?私達は何しに来たんでしたっけ?」
「気にしたら負け。ミーラは何かないの?」
「どれも難しそうです……。あなたは何か無いんですか?」
ミーラの俺の呼び方が自然に聞こえて驚いた。それにしても人を雇いに来たのにいつの間にか講義を受けることになっている。俺と百希だし仕方がないか。
「連合王国の戦略は面白そうだけど……。」
「ならじゃんけんしようか。」
俺が勝った。百希は少しだけ悔しそうだったけどまだ何か企んでいる様子だった。
もぐり学生の俺達は後ろの方で講義を聞いていた。大きな黒板に連合王国やフロント帝国、他の国々が書かれていた。
「〜海洋国家である連合王国は大陸に強力な国家が生まれ、海へ挑戦する事態を避けるべく外交を展開しており……。」
講義内容に関心していたら隣でミーラが眠そうにしていた。右腕に重さが加わる。
「そこの黒髪の男女に質問をしようか。」
嘘だろせっかく後ろに座ったのに。
「以上のことと今の大陸の情勢を踏まえて連合王国が取りうる戦略は何かな?」
百希と俺で目を合わせる。俺が行きたいって言ったから俺が言うか。
「離間計だと思います。現在の大陸はメラージ家の血縁関係で一つになっていますが王が複数いる以上疑心暗鬼になるのは避けられないかと思います。」
「なるほど。そっちの女の子は?」
「東の帝国と西方世界全体を争わせます。そしてどちらかが大勝する前に仲介し、両勢力の力を削ぐのがベストかと思います。」
「……何年か後に君達と会えるのを楽しみにしておく。」
百希が敬語は疲れちゃうねとか小さい声で言ってくる。同意はするけど講義中に話してしまう辺りはやっぱり百希だよね。
「そこの獣人の子は?」
「えっ!?は、はい。えっと……海軍を強くします。」
「シンプルで良いね。どれも可能性はある。勇敢な子供たちに拍手を。」
ミーラは眠そうだったし仕方ないね。俺だったら口をパクパクさせて終わってたからすごいと思う。拍手はしばらく響いて終わった。そしてまた講義が再開される。
講義が終わった。今は校内を歩いて三人でそれぞれ募集ポスターを貼っている。申し訳程度の宣伝活動だ。本当は百希が制服を着て遊びたかっただけの気がする。
「そういえばさっき慌てていたのは結局何だったんですか?」
俺は黙ってスマホを渡す。普通は見つかるはずが無い。ミーラはそれ以前の問題でホーム画面から先に行けなかった。
「私が映ってます……。」
猫耳がふにゃふにゃしてて照れていることが分かる。嫌ではなさそうだ。時折、彼女は顔を赤くしながらこちらを見てまた目をそらす。
「こういうことですか。」
彼女は一人で納得した。俺は一言も発していないし嘘はついていない。彼女が勝手に誤解しただけ。完璧だ。百希がポスターを貼り終えてこっちに来る。
「僕が代わりに操作するよ。」
「百希、何でもするんで許してください。」
「……!君はそれを君自身に誓える?」
「えっ?まぁ誓えるけど。」
会話の流れが本気になった。周りの音が冴えて空気が張り詰める。ここから先はふざけたり茶化したりしたら俺は生きていられないだろう。それぐらいの気迫を彼女から感じた。
「なら僕とちゃんと向き合って欲しいんだ。」
「向き合う?」
「そう、付き合うではないよ。僕を見てほしい。」
それなら質問したいことが山ほどある。でもこれ以上踏み込むのは危険な気がして無意識のうちに先延ばしにしていた。
俺はこの世界に来る前の過去を知らない。でも百希は知っている。ちゃんと向き合えば記憶が戻ってしまうそんな気がする。
「百希は俺の記憶が戻って欲しい?」
「うん。」
ミーラが俺を後ろから抱きしめてくる。彼女が震えているのが背中から分かる。記憶が戻ればおそらく名前も思い出して俺はミーラの知る人ではなくなるだろう。
「駄目……です。」
冷たい何かが俺の首を傳う。彼女は嗚咽をこらえている。
「僕は一からやり直すって言ったからね。君次第だよ。」
俺は自分の記憶なのに選べなかった。どちらかを選べばどちらかが悲しむ。
「百希は俺の記憶を戻せる?」
「君が望めばね。」
「なら一年、一年待ってほしい。それで答えを出す。」
この記憶の問題は転移前の出会いと後の出会いどちらを大切にするかという問にも言い換えられる。そんな質問を俺が即決できるわけがなかった。
「……良いよ。僕は何年でも君を待つから。」
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