異世界の死の商人
第三十一話 反攻の前に
俺は革命軍からの呼び出しを受けて一番大きな天幕に来ていた。この前大量の兵器の発注があったからもう当分無いと思ったがどういうことだろう?
「アンテラ山脈を超えて王都を僅か一撃で占領する。」
会議が始まった早々にリベレはこう言った。城塞都市からの話し声が聞こえる位静かになった後。周りの参謀や補給担当の部下が止める。
「元帥、歴史上でそれを成功したのは一人しかいない。そんな英雄ですら片目と軍の半数を失った行軍をまたやる気か?」
「王国の政治、経済は王都に集中している。そこを占領したら王国正規軍はただの武装組織に成り下がる。これ以外に正規軍と戦わずして勝つ術は無い。」
「元帥、すると南の大河に向かわせた部隊は囮か?」
「その通りだ。帝国についた貴族も協力してくれたから数は確保出来た。敵は否応なしに南の河川の対岸に陣を敷かざるをえない。」
机の真ん中に置かれた地図と兵士の駒を動かして議論が白熱していく。俺が呼ばれた理由はこの状況に適した兵器があったら言って欲しいという事だろう。
アンテラ山脈を超えるか……山脈を超えるのは出来なくは無いが空軍を使うと大軍だと時間がかかって奇襲の意味が損なわれてしまう。
逆の発想をするか。山脈をくぐるのは可能か?
「出来るか……。」
「ユータどうした?」
「山脈を超えるのは厳しいがくぐる事は可能だ。」
「a地点に基地を召喚してb地点にも基地を召喚すると道がa地点とb地点を結んで現れる。」
「だから山脈のこちら側と反対側に軍事基地を召喚すればトンネルができるはずだ。」
本拠地で試した時は基本的に直線で基地同士を結ぶ道が出来ていた。曲がっていたとしてもそれは精々地形に少し合わせたくらいで基地と基地の間に道が召喚されるのは紛れもない事実だ。
「信じられんが……元帥はこれに賭けるようだな?」
「兵士達が灰の下に勝機ありと言っているからな。」
「ハハハ、その方向で動きましょう。」
冗談混じりにリベレが言うと乾いた笑いと共にその場いるそれぞれが細かい手配をし始めた。ただ悲観した様子は見られなかった。
俺は城塞都市への帰路につく。陣地を出る直前にリベレが俺に話しかけてきた。彼の方が背が高く年も上だから並んで歩いているとどうも話しづらい。
「ユータ、護衛はどこにいるんだ?」
「上にRQ-1プレデターって無人機が護衛している。」
「もう対策してたのか。流石だな。」
「……今回のお前の襲撃事件は箝口令をしいてある。兵士の士気に関わるからな。」
「敵はなりふり構わなくなってきた。でも逆に言えば俺たちはそれだけ王国を追い詰めたって事だ。」
断言するのは早計な気もするがそうであって欲しい。
「戦後は近いぜ。楽しみに待ってろ。」
「期待しとくよ。」
城塞都市の門の所で俺はリベレと別れた。戦後か……。おそらくもうすぐこの内戦は終わる。そう願いたい。
城塞都市の中心部へ俺は護衛と共に向かう。街路樹の葉は少しづつ赤や黄色に色を変えて季節が秋に移り変わっている事を教えてくれる。
こうやって俺が景色を見て気を紛らわせているのは理由がある。
「何かユータ様とアイスさんの距離感が違くないですか?」
「べ、別にsame as usualよ。」
物理的な距離は全く変わっていないがミーラには分かるようだ。というかアイスは何で別言語何だろう。
「そ、それよりユータ、話があったんじゃないの?」
今日は珍しく百希は来ていない。だから会話のベクトルが不自然に俺に向く。
「そうだった……。スキルの実験をしたいから遠くに行きたいんだ。みんなも来る?」
「もちろん。護衛ですからね。」
「わ、私も行かないとだめかしら?」
自分よりも動揺している人間を見て逆に冷静になった。
「いや、危険な場所じゃないから来なくても良いよ。」
「私一人だと心もとないからアイスさんも来るべきです。」
俺が死にかけたからかミーラは護衛の人数を増やしたいらしい。あれ以来俺も反省して常にRQ-1プレデターを上空にを待機させているがミーラはそのことを知らない。
「ええっと……。」
アイスは俺とミーラを見比べてから俺を見たのはほんの一瞬だったが答えた。
「やっぱり休むわ。」
彼女は百希よりは積極的でないけどそれでも俺を静とするなら彼女は動であることには変わりない。全く普段とは違う行動だ。
それからVTOL機を使って拠点とは別の島に着陸した。地図上では赤道に位置しているらしく暖かい。少なくとも衛生で確認出来る限りこの世界では人類は大陸から出ていないのか新大陸や新たに発見された島々は無人のままだ。
「ユータ様と二人なのは久しぶりですね。」
嬉しそうな彼女の手を握ってVTOL機から降りる彼女を補助する。こうやって彼女に何かしている時は罪悪感はやってこない。
「ミーラとこうしていると出会ったばかりの頃を思い出すね。」
「私の第一印象ってどうでした?」
彼女は何かを期待した目で聞いてくる。俺は羞恥心からか答えることが出来なかった。
「……もう忘れちゃったかな……。」
「素直じゃないですね。」
笑いながらそう言う彼女の顔はほんのり赤かった。左には透明度が高いコバルトブルーの海と砂浜が見える。右には山。
「とりあえずスキルの実験をしようか。」
「ここに軍港と山の向こう側に駐屯地を召喚せよ。」
白い光で視界が染まった後アスファルトで舗装された道が山に向けて伸びていた。もうこのスキルにも慣れたものだ。
「何を確かめるんですか?」
「あっちの山を貫くトンネルが出来たかどうか。行けば分かるよ。」
道に沿ってしばらく歩く。彼女ととりとめない話をしながら道を歩いているとやがてこの道が山を迂回している事に気がついた。
「とんねる出来てないですね。」
「…………この道を直線にせよ。」
『エラーコード5 命令が武器の概念から離れ過ぎています。』
俺の左手に文字が浮かんで命令を拒否する。これ前にも見たな。あれあの時を思い出すとと胃が痛い。
「どうしよう……。」
「お腹が空いていたら良いアイディアも出ないですよ。」
待てこの流れからすると悪夢しか待っていないのでは。
「私、お昼ごはん作って来たんです。」
焦ったら負けだ。動揺しても負けだ。ただ事実のみを認識して変な憶測で判断しないようにする。戦略の基本だ。騙されるな。
「ありがとう。ちなみに何の料理?」
「サンドイッチです。」
彼女は近くの大きな岩に座って用意を始めた。サンドイッチで失敗する事なんてありえないない。きっと大丈夫だ。
彼女のバッグからサンドイッチを受け取る。ミーラは普通に食べられるようだ。俺の味覚がおかしいのか?口に運んで確かめる。
「?どうかしたんですか。」
食べられなくは無いが進んで食べようとは思わないそんな微妙な味。それでも進歩している。
「料理上手くなったね。」
「えへへ、嬉しいです。」
ミーラは手を繋いでいたときより嬉しそうにしていた。その後、何を思ったかは分からないけど少し欠けたサンドイッチを俺に食べさせてくれた。
「あ〜んです。」
この微妙な味と稀なシチュエーションを天秤にかけた末に俺はこの状況を楽しむ事に決めた。
この理想的な状況に身を任せ、アイスの事を忘れられたらどれほど良かっただろうか。でも良心が俺をまだ苛む。ミーラに全て打ち明ければ解決はする。でもその未来が怖い。しばらく彼女を見てから決めた。
進もう。きっとアイスなら迷わず進んだ筈だ。
「ミーラ、実は話したい事があるんだ。」
「アンテラ山脈を超えて王都を僅か一撃で占領する。」
会議が始まった早々にリベレはこう言った。城塞都市からの話し声が聞こえる位静かになった後。周りの参謀や補給担当の部下が止める。
「元帥、歴史上でそれを成功したのは一人しかいない。そんな英雄ですら片目と軍の半数を失った行軍をまたやる気か?」
「王国の政治、経済は王都に集中している。そこを占領したら王国正規軍はただの武装組織に成り下がる。これ以外に正規軍と戦わずして勝つ術は無い。」
「元帥、すると南の大河に向かわせた部隊は囮か?」
「その通りだ。帝国についた貴族も協力してくれたから数は確保出来た。敵は否応なしに南の河川の対岸に陣を敷かざるをえない。」
机の真ん中に置かれた地図と兵士の駒を動かして議論が白熱していく。俺が呼ばれた理由はこの状況に適した兵器があったら言って欲しいという事だろう。
アンテラ山脈を超えるか……山脈を超えるのは出来なくは無いが空軍を使うと大軍だと時間がかかって奇襲の意味が損なわれてしまう。
逆の発想をするか。山脈をくぐるのは可能か?
「出来るか……。」
「ユータどうした?」
「山脈を超えるのは厳しいがくぐる事は可能だ。」
「a地点に基地を召喚してb地点にも基地を召喚すると道がa地点とb地点を結んで現れる。」
「だから山脈のこちら側と反対側に軍事基地を召喚すればトンネルができるはずだ。」
本拠地で試した時は基本的に直線で基地同士を結ぶ道が出来ていた。曲がっていたとしてもそれは精々地形に少し合わせたくらいで基地と基地の間に道が召喚されるのは紛れもない事実だ。
「信じられんが……元帥はこれに賭けるようだな?」
「兵士達が灰の下に勝機ありと言っているからな。」
「ハハハ、その方向で動きましょう。」
冗談混じりにリベレが言うと乾いた笑いと共にその場いるそれぞれが細かい手配をし始めた。ただ悲観した様子は見られなかった。
俺は城塞都市への帰路につく。陣地を出る直前にリベレが俺に話しかけてきた。彼の方が背が高く年も上だから並んで歩いているとどうも話しづらい。
「ユータ、護衛はどこにいるんだ?」
「上にRQ-1プレデターって無人機が護衛している。」
「もう対策してたのか。流石だな。」
「……今回のお前の襲撃事件は箝口令をしいてある。兵士の士気に関わるからな。」
「敵はなりふり構わなくなってきた。でも逆に言えば俺たちはそれだけ王国を追い詰めたって事だ。」
断言するのは早計な気もするがそうであって欲しい。
「戦後は近いぜ。楽しみに待ってろ。」
「期待しとくよ。」
城塞都市の門の所で俺はリベレと別れた。戦後か……。おそらくもうすぐこの内戦は終わる。そう願いたい。
城塞都市の中心部へ俺は護衛と共に向かう。街路樹の葉は少しづつ赤や黄色に色を変えて季節が秋に移り変わっている事を教えてくれる。
こうやって俺が景色を見て気を紛らわせているのは理由がある。
「何かユータ様とアイスさんの距離感が違くないですか?」
「べ、別にsame as usualよ。」
物理的な距離は全く変わっていないがミーラには分かるようだ。というかアイスは何で別言語何だろう。
「そ、それよりユータ、話があったんじゃないの?」
今日は珍しく百希は来ていない。だから会話のベクトルが不自然に俺に向く。
「そうだった……。スキルの実験をしたいから遠くに行きたいんだ。みんなも来る?」
「もちろん。護衛ですからね。」
「わ、私も行かないとだめかしら?」
自分よりも動揺している人間を見て逆に冷静になった。
「いや、危険な場所じゃないから来なくても良いよ。」
「私一人だと心もとないからアイスさんも来るべきです。」
俺が死にかけたからかミーラは護衛の人数を増やしたいらしい。あれ以来俺も反省して常にRQ-1プレデターを上空にを待機させているがミーラはそのことを知らない。
「ええっと……。」
アイスは俺とミーラを見比べてから俺を見たのはほんの一瞬だったが答えた。
「やっぱり休むわ。」
彼女は百希よりは積極的でないけどそれでも俺を静とするなら彼女は動であることには変わりない。全く普段とは違う行動だ。
それからVTOL機を使って拠点とは別の島に着陸した。地図上では赤道に位置しているらしく暖かい。少なくとも衛生で確認出来る限りこの世界では人類は大陸から出ていないのか新大陸や新たに発見された島々は無人のままだ。
「ユータ様と二人なのは久しぶりですね。」
嬉しそうな彼女の手を握ってVTOL機から降りる彼女を補助する。こうやって彼女に何かしている時は罪悪感はやってこない。
「ミーラとこうしていると出会ったばかりの頃を思い出すね。」
「私の第一印象ってどうでした?」
彼女は何かを期待した目で聞いてくる。俺は羞恥心からか答えることが出来なかった。
「……もう忘れちゃったかな……。」
「素直じゃないですね。」
笑いながらそう言う彼女の顔はほんのり赤かった。左には透明度が高いコバルトブルーの海と砂浜が見える。右には山。
「とりあえずスキルの実験をしようか。」
「ここに軍港と山の向こう側に駐屯地を召喚せよ。」
白い光で視界が染まった後アスファルトで舗装された道が山に向けて伸びていた。もうこのスキルにも慣れたものだ。
「何を確かめるんですか?」
「あっちの山を貫くトンネルが出来たかどうか。行けば分かるよ。」
道に沿ってしばらく歩く。彼女ととりとめない話をしながら道を歩いているとやがてこの道が山を迂回している事に気がついた。
「とんねる出来てないですね。」
「…………この道を直線にせよ。」
『エラーコード5 命令が武器の概念から離れ過ぎています。』
俺の左手に文字が浮かんで命令を拒否する。これ前にも見たな。あれあの時を思い出すとと胃が痛い。
「どうしよう……。」
「お腹が空いていたら良いアイディアも出ないですよ。」
待てこの流れからすると悪夢しか待っていないのでは。
「私、お昼ごはん作って来たんです。」
焦ったら負けだ。動揺しても負けだ。ただ事実のみを認識して変な憶測で判断しないようにする。戦略の基本だ。騙されるな。
「ありがとう。ちなみに何の料理?」
「サンドイッチです。」
彼女は近くの大きな岩に座って用意を始めた。サンドイッチで失敗する事なんてありえないない。きっと大丈夫だ。
彼女のバッグからサンドイッチを受け取る。ミーラは普通に食べられるようだ。俺の味覚がおかしいのか?口に運んで確かめる。
「?どうかしたんですか。」
食べられなくは無いが進んで食べようとは思わないそんな微妙な味。それでも進歩している。
「料理上手くなったね。」
「えへへ、嬉しいです。」
ミーラは手を繋いでいたときより嬉しそうにしていた。その後、何を思ったかは分からないけど少し欠けたサンドイッチを俺に食べさせてくれた。
「あ〜んです。」
この微妙な味と稀なシチュエーションを天秤にかけた末に俺はこの状況を楽しむ事に決めた。
この理想的な状況に身を任せ、アイスの事を忘れられたらどれほど良かっただろうか。でも良心が俺をまだ苛む。ミーラに全て打ち明ければ解決はする。でもその未来が怖い。しばらく彼女を見てから決めた。
進もう。きっとアイスなら迷わず進んだ筈だ。
「ミーラ、実は話したい事があるんだ。」
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