異世界の死の商人
第二十七話 予定された勝敗
『迷宮都市、学園都市等の主要都市はフロント帝国を支持する声明を発表。背景には新大陸発見の利権か?』
右腕に頭を載せて気だるげに新聞をめくる。朝だからかどうも眠気が取れない。新大陸発見ね……だ、誰だろうな……。
「ユータが早く起きるなんて珍しいわね。」
「ん、まぁね。」
俺は言葉を濁して適当に答える。俺自身もここまで早く起きるとは思っていなかった。緊張しているかもしれない。
「隣に座っていいかしら。」
彼女は俺の了承を得る前に俺の隣に座る。彼女の真意ははかりづらい。未だに彼女の目的は見えないままだ。
「私の顔に何かついてるの?」
「いや別に。」
「ふ〜ん。その新聞私にも見せて。」
どうも俺の周りの人間にはパーソナルスペースという概念が欠けているらしい。他人事のように考えないと余裕が無くなりそうだ。
「……どこにも国際情勢が書いてないわね。」
「そういえば外国に行ったことないな。」
「意外ね。勝手なイメージだけど世界中を旅行してたのかと思ってたわ。」
「そこは商売って言って欲しかった……。」
アイスは口に手を当てて笑った。細かい仕草から彼女が貴族だということが伝わる。
「外国ね……私は親戚ばかりだからもし行くなら挨拶しないとならないわね。」
「メラージ家って外国にもあるの?」
「ええ。多すぎて名前が把握できないわ。」
純然に彼女は疑問を投げかけてくる。彼女のオレンジの髪が手に触れて少しくすぐったい。
「……集合時間っていつだったかしら。」
俺は腕時計を見る。
「二時間後。」
「礼を言うわ。」
彼女との距離感は未だに掴みきれない。あと二時間は話せると言いたそうな妖艶な笑みを見るとどうにも勝てる気がしない。
二時間後
ここは宿のミーラの部屋。俺を含め丸いテーブル席に座る四人。左から順に説明していこう。俺の左隣はミーラがどこか緊張した面持ちで座っている。彼女は俺が前にプレゼントした水色のリボンをつけている。
「似合ってますか?」
「あ、うん。」
彼女にそう言われるとうなずくしかない。よほど変な物でなければ彼女は基本何を着ていても可愛い。
「全員揃ったみたいね。そろそろ始めましょう。」
不敵な笑みをするアイス。彼女はどうやらすでに勝った気でいるようだ。だが何も俺だって何もしていない訳ではない。現金は一ミリも稼いでいないがまだもう一つある。
「なら僕が審判をしようか?」
「ありがとうございます。」
楽しそうな百希、この勝負は、はたから見ている分には楽しい。俺もそうしたかった。さてこの中で誰が一番稼いでいるかな?
「まずは私から発表しますね。」
ちょっと待て百希そのシンバルとドラムの音はなんだ!?
「私は……金貨一枚です!」
机の上に金貨を一枚置く彼女は堂々としていた。こちらの方が自然かもしれない。自信に満ち溢れる彼女は以前とはどこか違っていた。
「次は私?それともユータ?」
「そっちからで良いよ。」
「なら私からにするわね。私は金貨五十枚よ。」
絶対に負けないという意思がアイスから感じられる。
さて俺が夜中に考えた末に編み出した逆転策はどこまで通じるだろうか。
「俺が稼いだのは……これ。」
俺は土地の権利書を机の上に置く。アトランが見つけた新大陸だ。完全に偶然の産物だがアイスとも戦える価値はあるはずだ。
このアトランティス大陸より価値あるものはない。
ミーラが頭の上に疑問符を載せている。
「これは……ユータの勝ちじゃないかな?金額に出来ない程の価値だと断言できるよ。」
「確かにそうね……。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。説明をお願いします。」
ミーラがアイスと百希の間に割って入る。彼女は俺でもわかるほど焦っていた。ここまで焦ると逆に彼女の願いが気になる。
「かくかくしかじかで……。」
「そ、そんな…………。」
目に見えて落ち込む彼女。本来の目的は彼女の自立だと思ったがこの反応を見る限り違うらしい。
「それであなたは何を願うつもりなの?」
「いや、何か叶える予定は無いよ。俺は命令されたくないから勝ちに行っただけだよ。」
「保留ってことですか?」
「いや、願いを叶えない事が願いってこと。」
二人が驚いた様子でこちらを見る。一体何を企んでいたんだ。
「本当にそれで良いんですか?」
「せっかく勝ち取った権利を使わないつもり?」
何で罰ゲームを受ける側が罰ゲームを願ってるんだ……。意味が分からない。俺は誰もが幸せになる答えを出した筈だ。
ではあえて極端な命令を出すのはどうか?この場合はろくな未来が見えない。何かちょうどいい命令は……。あ、思いついた。
「そういえば、ミーラって冒険者になったんだっけ?」
「はい。ユータ様もやりますか?楽しいですよ。」
「うん。冒険者ってどんな物なのか見させてほしい。」
戦いたくは無いが魔物という物を知らねばそもそも対策も立てられない。ミーラが戦えるからきっと大丈夫だ。
「はい。冒険者デートですね。今すぐ行きましょう!」
ミーラが嬉しそうで今すぐ立ち上げる勢いなのは良いんだが冒険者デートって何それ?
「ユータ、私は?」
「ん?同じ同じ。」
「ということは三人で行くってことですか?」
「自然に僕を省くのはやめて欲しいかな……。」
俺以外の全員が冒険者デートという単語を知っているようだ。アイスの嬉しそうな顔と今にも開戦しそうな雰囲気のミーラと百希を見る限り誤解が生じている気がする。
ここは正直に聞くべきだろう。
「ところで冒険者デートって何?」
「えぇ……。僕ですら初日に確認したのに……。」
「恋人同士がイチャイチャしながらスライムを倒すだけよ。ちなみに報酬は銅貨(十円)だったわね。」
「このクエストを取るのは子供とカップルしかいないです。」
……安全過ぎて言葉も出ない。というか百希は何故初日に役に立たなそうな情報を確認してるんだ。心の中でツッコむ。
「で、結局君は何人で行くつもりなの?」
百希が期待に満ちた目で聞いてくる。俺が遊んでいるのに彼女だけを働かせるのも申し訳ないか。
「百希が良いなら四人で行こうか。」
「君ならそう言ってくれるって信じてたよ!」
「罰ゲームだから仕方ないわね。」
そう言うアイスもどこか嬉しそうだ。人が嫌がるような罰ゲームはしない方がいいから調整が難しい。
十五分後
俺はミーラの部屋で彼女と二人っきりになった。彼女はしっぽをダランと下げていてそれが気がかりだ。
「あれ?ユータ様は帰らないんですか?」
「えっと……ミーラは元気なさそうだけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ただ……ぎゅっとして欲しいです。」
断ってはいけないような気がして、俺は彼女の背中に手を回す。
「あの時以来ですね……。」
「そうだね。」
「私はあの時よりずっとずっと強くなれました。これでやっとあなたと付き合えた気がします。」
「だから今度は……。」
「二人で?」
俺がそう言うと彼女の耳がぴょこぴょこ動き始めた。何というかすごく分かりやすい。本当に可愛いな……。
「お願いしますね。」
「もちろん。」
幸せそうな彼女を見るとこちらまで嬉しくなる。暗くなってきたから帰ろうと部屋を出ようとすると躓きかけた。だけど彼女が助けてくれた。彼女の目は暗闇を見通せるが俺は特に見えない。その事をすっかり忘れていた。
この後また彼女とそのまま眠ってしまって誤解されてしまうがそれはまた別の話だ。
右腕に頭を載せて気だるげに新聞をめくる。朝だからかどうも眠気が取れない。新大陸発見ね……だ、誰だろうな……。
「ユータが早く起きるなんて珍しいわね。」
「ん、まぁね。」
俺は言葉を濁して適当に答える。俺自身もここまで早く起きるとは思っていなかった。緊張しているかもしれない。
「隣に座っていいかしら。」
彼女は俺の了承を得る前に俺の隣に座る。彼女の真意ははかりづらい。未だに彼女の目的は見えないままだ。
「私の顔に何かついてるの?」
「いや別に。」
「ふ〜ん。その新聞私にも見せて。」
どうも俺の周りの人間にはパーソナルスペースという概念が欠けているらしい。他人事のように考えないと余裕が無くなりそうだ。
「……どこにも国際情勢が書いてないわね。」
「そういえば外国に行ったことないな。」
「意外ね。勝手なイメージだけど世界中を旅行してたのかと思ってたわ。」
「そこは商売って言って欲しかった……。」
アイスは口に手を当てて笑った。細かい仕草から彼女が貴族だということが伝わる。
「外国ね……私は親戚ばかりだからもし行くなら挨拶しないとならないわね。」
「メラージ家って外国にもあるの?」
「ええ。多すぎて名前が把握できないわ。」
純然に彼女は疑問を投げかけてくる。彼女のオレンジの髪が手に触れて少しくすぐったい。
「……集合時間っていつだったかしら。」
俺は腕時計を見る。
「二時間後。」
「礼を言うわ。」
彼女との距離感は未だに掴みきれない。あと二時間は話せると言いたそうな妖艶な笑みを見るとどうにも勝てる気がしない。
二時間後
ここは宿のミーラの部屋。俺を含め丸いテーブル席に座る四人。左から順に説明していこう。俺の左隣はミーラがどこか緊張した面持ちで座っている。彼女は俺が前にプレゼントした水色のリボンをつけている。
「似合ってますか?」
「あ、うん。」
彼女にそう言われるとうなずくしかない。よほど変な物でなければ彼女は基本何を着ていても可愛い。
「全員揃ったみたいね。そろそろ始めましょう。」
不敵な笑みをするアイス。彼女はどうやらすでに勝った気でいるようだ。だが何も俺だって何もしていない訳ではない。現金は一ミリも稼いでいないがまだもう一つある。
「なら僕が審判をしようか?」
「ありがとうございます。」
楽しそうな百希、この勝負は、はたから見ている分には楽しい。俺もそうしたかった。さてこの中で誰が一番稼いでいるかな?
「まずは私から発表しますね。」
ちょっと待て百希そのシンバルとドラムの音はなんだ!?
「私は……金貨一枚です!」
机の上に金貨を一枚置く彼女は堂々としていた。こちらの方が自然かもしれない。自信に満ち溢れる彼女は以前とはどこか違っていた。
「次は私?それともユータ?」
「そっちからで良いよ。」
「なら私からにするわね。私は金貨五十枚よ。」
絶対に負けないという意思がアイスから感じられる。
さて俺が夜中に考えた末に編み出した逆転策はどこまで通じるだろうか。
「俺が稼いだのは……これ。」
俺は土地の権利書を机の上に置く。アトランが見つけた新大陸だ。完全に偶然の産物だがアイスとも戦える価値はあるはずだ。
このアトランティス大陸より価値あるものはない。
ミーラが頭の上に疑問符を載せている。
「これは……ユータの勝ちじゃないかな?金額に出来ない程の価値だと断言できるよ。」
「確かにそうね……。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。説明をお願いします。」
ミーラがアイスと百希の間に割って入る。彼女は俺でもわかるほど焦っていた。ここまで焦ると逆に彼女の願いが気になる。
「かくかくしかじかで……。」
「そ、そんな…………。」
目に見えて落ち込む彼女。本来の目的は彼女の自立だと思ったがこの反応を見る限り違うらしい。
「それであなたは何を願うつもりなの?」
「いや、何か叶える予定は無いよ。俺は命令されたくないから勝ちに行っただけだよ。」
「保留ってことですか?」
「いや、願いを叶えない事が願いってこと。」
二人が驚いた様子でこちらを見る。一体何を企んでいたんだ。
「本当にそれで良いんですか?」
「せっかく勝ち取った権利を使わないつもり?」
何で罰ゲームを受ける側が罰ゲームを願ってるんだ……。意味が分からない。俺は誰もが幸せになる答えを出した筈だ。
ではあえて極端な命令を出すのはどうか?この場合はろくな未来が見えない。何かちょうどいい命令は……。あ、思いついた。
「そういえば、ミーラって冒険者になったんだっけ?」
「はい。ユータ様もやりますか?楽しいですよ。」
「うん。冒険者ってどんな物なのか見させてほしい。」
戦いたくは無いが魔物という物を知らねばそもそも対策も立てられない。ミーラが戦えるからきっと大丈夫だ。
「はい。冒険者デートですね。今すぐ行きましょう!」
ミーラが嬉しそうで今すぐ立ち上げる勢いなのは良いんだが冒険者デートって何それ?
「ユータ、私は?」
「ん?同じ同じ。」
「ということは三人で行くってことですか?」
「自然に僕を省くのはやめて欲しいかな……。」
俺以外の全員が冒険者デートという単語を知っているようだ。アイスの嬉しそうな顔と今にも開戦しそうな雰囲気のミーラと百希を見る限り誤解が生じている気がする。
ここは正直に聞くべきだろう。
「ところで冒険者デートって何?」
「えぇ……。僕ですら初日に確認したのに……。」
「恋人同士がイチャイチャしながらスライムを倒すだけよ。ちなみに報酬は銅貨(十円)だったわね。」
「このクエストを取るのは子供とカップルしかいないです。」
……安全過ぎて言葉も出ない。というか百希は何故初日に役に立たなそうな情報を確認してるんだ。心の中でツッコむ。
「で、結局君は何人で行くつもりなの?」
百希が期待に満ちた目で聞いてくる。俺が遊んでいるのに彼女だけを働かせるのも申し訳ないか。
「百希が良いなら四人で行こうか。」
「君ならそう言ってくれるって信じてたよ!」
「罰ゲームだから仕方ないわね。」
そう言うアイスもどこか嬉しそうだ。人が嫌がるような罰ゲームはしない方がいいから調整が難しい。
十五分後
俺はミーラの部屋で彼女と二人っきりになった。彼女はしっぽをダランと下げていてそれが気がかりだ。
「あれ?ユータ様は帰らないんですか?」
「えっと……ミーラは元気なさそうだけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ただ……ぎゅっとして欲しいです。」
断ってはいけないような気がして、俺は彼女の背中に手を回す。
「あの時以来ですね……。」
「そうだね。」
「私はあの時よりずっとずっと強くなれました。これでやっとあなたと付き合えた気がします。」
「だから今度は……。」
「二人で?」
俺がそう言うと彼女の耳がぴょこぴょこ動き始めた。何というかすごく分かりやすい。本当に可愛いな……。
「お願いしますね。」
「もちろん。」
幸せそうな彼女を見るとこちらまで嬉しくなる。暗くなってきたから帰ろうと部屋を出ようとすると躓きかけた。だけど彼女が助けてくれた。彼女の目は暗闇を見通せるが俺は特に見えない。その事をすっかり忘れていた。
この後また彼女とそのまま眠ってしまって誤解されてしまうがそれはまた別の話だ。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
969
-
-
381
-
-
32
-
-
0
-
-
147
-
-
35
-
-
841
-
-
55
-
-
1978
コメント