異世界の死の商人

ワナワナ

第二十五話 彼女の二三の発言

 現在ユータ達がいる場所でもあり革命軍の臨時首都でもある城塞都市は文字通り壁に囲まれた都市だ。ただし壁の中は決して平和な訳ではない。今日も一般人にふんした何者かが空き家へ入る。


「BRAVOよりALPHA、首尾はどうだ?」
「ALPHAよりBRAVO、駄目です……。アイス様にはこれまで自由にさせていましたから厳しい戦いになるかと。」


 合図で互いを証明した彼らは世間話を始める。彼らはメラージ家の裏の顔だ。


「彼女からの手紙では順調に進んでいるとあったが?」
「後ろに進んでいるんですよ。」


 二人は頭を抱える。彼らの本来の任務は影からアイスとユータを守る事であるが今話している内容はそれとは無関係だ。


「せめてアイス様がメラージ家として普通の教育を受けていればな……。」
「今は彼女に期待する他ありません。歳的にも彼女の代わりはいませんから。」


 スラム街の掘っ立て小屋を根城に彼らは活動を続けている。窓ガラスも無いこの粗末な家は裏の人間にはうってつけだった。


「では本題だ。灰に対して直接的な動きは?」
「見られませんでした。ですが王国も馬鹿ではないです。必ず接触かそれに準ずる何かをする筈です。」


「候補は?」
「絞れましたよ。」


「上々だ。」
「まぁ、馬鹿な行動はしない筈ですし監視に留めます。」


 今日も彼らの護衛?は続く。混迷の最中にあるアイスはこの事を知らない。










 論理的には何も悪い事をしていない筈だが罪悪感がある。あれから百希はどこかいつもとは違う雰囲気を発していた。彼女は俺とミーラの事を誤解しているのではとも思うがそもそも説明しても信じて貰えなかった。


「…………。」


 木目の床に並べられたAK-47やその銃剣(銃の先に取り付けられる刀剣)それらをお互いに無言で店に並べ続ける。受付さんが本契約しに来たときは彼女の態度にひどく驚いていた。そして正式にここは俺の店となったのだがどうにも彼女の気持ちが分からない。


「そのバヨネット(銃剣)はそこにして。」
「あ、うん。」


 彼女がバヨネットという言葉を知っているとは驚きだ。こんな言葉とは全く縁の無さそうなのに。日陰に隠れた彼女の顔を見て言葉に詰まる。


「値段はどうするの?」
「…………1ルーブルっていくらだっけ?」
「僕は滅んだ国の通貨何て知らないよ。」


 少しづつ会話が戻り始めたが義務的な内容ばかりだ。彼女のいつもの冗談が無いとここまで寂しいものなのか……。俺はまた言葉に詰まる。いつもとは違う彼女に俺は罪悪感と戸惑いを感じた。




「君は僕の事を覚えてないけどね僕は覚えてる。」
「今の君は昔の君と瓜二つ何だ。」


 彼女は俺を見ずに目の前の銃を布で磨きながら問う。百希は異世界で俺の過去を知る唯一の人間だ。もう本人ですら覚えていない過去は彼女にとってはとても近いかもしれない。


「だから同じ質問をするね。」
「君は僕の事を嫌い?」
「いやそんな事は無い。」


 俺が即座に否定すると彼女はただ悲しそうに微笑む。そんな顔をされても俺には理由も分からない。記憶の無い俺は彼女から見てどのように写っているのだろうか。


「同じだね……。でも同じだと僕には意味が無い。」
「記憶が失ったのが君の意志なら残酷な事この上ないよ……。」


 彼女の目に涙がにじむ。そんな彼女を見るのは初めてで、どう接すれば良いか分からない。でもこのまま黙っているのも申し訳なくて俺は一つ質問をした。


「俺と百希はどんな関係だったの?」
「駄目。」


 答えにもなっていない非常に強い拒絶。この反応は全くの予想外だった。


「言えないんだ……。それは過去の君に対する冒涜だから。」
「もちろん僕、個人はすごく言いたい。だけど駄目。」


 この後会話はまた途切れた。最後の彼女の悲痛な姿がひどく印象的で記憶に残り続けた。俺はこの時まだ百希の事も自分自身の事も全然知らなかった。










 あれから2日ほど経った。開店するための準備はアトランと俺のスキルもあって順調に進んでいた。百希は気持ちを持ち直したどころか前よりも積極的になった気がする。


「電気がここに通るとは思わなかったよ……。あの時代から電気の時代だよね。」
「俺が地下に通信設備を召喚したら何故か電気が来た。」
「発電所は?」
「さあ。」


 木の壁にコンセントが突然現れたときは流石に困惑した。百希はカウンターにタブレットを並べて充電している。


「電卓アプリってどこかな?」
「アプリ検索って欄が……。」


 俺がアプリ検索を教えようと百希に近づくと逆に彼女から近づいてきた。肩の触れるくらいの距離で俺はその機能を教える。


「ありがとう僕、こういうレトロな物は好きだよ。」


 レトロ?ああこの店全体の事か少し引っかかる言葉があるけど彼女が元気になって良かった。俺がそんな事を考えていると来客が見えた。まだ店は開店していないが一体誰だろう。俺よりも背の高い彼は一目見ればすぐに分かった。


「よお、ユータ。実は聞きたいことと追加注文があるんだが。」
「俺のスキルが国土が二十倍になってその大部分がお前のものだって言ってるんだが本当か?」


 あの欠陥制度か。リベレのスキルは国家俯瞰だったよなそれなら分かるか。おそらく情報系のスキルなのだろう。俺は一人納得して答えを言う。


「本当。あの制度は廃止した方がいいと思う。」
「……そう……か…………考えとく。」


 彼は壁に飾られたAK-47やその他の銃器を見ながらそう答えたでも視線はもっと遠くにある気がする。それからしばらく経ってところ狭しと並べられた武器を彼は眺めながら俺にこう聞いてきた。


「もっと多くの銃弾をばらまける兵器って無いか?」
「今のAKはマガジンを取り替えるのが面倒って現場から声が上がっているんだ。」
「後は、兵士を輸送できる乗り物はあるか?」


 俺の頭の中にいくつもの案が消えては思い浮かぶ。62式…………何で思いついたのか自分でも分からない。もっと信頼性の高い兵器は……俺はコピー用紙で作った自作のカタログのページをめくりながら探す。ブローニングM2重機関銃これだ。


「これは?有効射程も二千メートルでベルト給弾。」
「なら僕はPKM(汎用機関銃)を薦めるよ。同じベルト給弾で有効射程は千メートル。」


 今までとは違い百希が対案を出してくる。リベレは両方のページを見比べてその後俺に現物を見せてほしいと頼んできた。
 彼女に棚をどけてもらいスペースを確保する。俺は比べるためにPKM(汎用機関銃)とM2(重機関銃)を召喚した。


「これとそれを召喚せよ。」


 木製の穴の空いた銃床が印象的なPKMと重機関銃というだけあって大きいブローニングM2重機関銃、どちらも有名で信頼性は高い。彼はどちらを選ぶだろうか?


「……小さい方で頼んだ。数は二十もあれば良い。」


 百希が俺の肩を叩いて煽ってくる。こういう時に彼女より俺の身長が低いことが悔やまれる。


「次はAPC(装甲兵員輸送車)だね。」


 だから百希は何で知ってるんだ……。まさか過去の俺が教えてたのか?でもこれは証明しようがない。


「それはもう決めてるんだ。さっきページをめくった時に見えた……これだ。」


 彼が指を指したのはM113装甲兵員輸送車。武装は少ないが兵士を運ぶのには長けている。あれ?この車両にブローニングM2重機関銃がついてるから百希に負けてはない気がする。


「これを五十台ほど頼む。」


「すまないが支払いは俺たちが王都に入るまで待ってほしい。」


 ばつの悪そうな顔を彼はしながら俺にこう言い最後にこう付け足した。


「必ず勝つ。約束するからここで時代が変わるところを見てろ。」


 彼の最後の言葉には人を導く力があった。担保を取らないのは商人としては駄目なのだろうがそれでもやらなかった。俺とリベレは契約を書面に残して別れた。

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