異世界の死の商人

ワナワナ

第二十二話 アイスから見た世界

 私はこの港湾都市で生まれたわ。私の母は元平民で私の貴族としての立場はそこまで高く無かった別に気にしてはいなけどね。だから政略結婚の駒にはならない筈だったわ……。
 私は成人してから家を出て独りで生きてきたわ。一応私にも貴族の血が流れているらしく冒険者としてやっていくには十分なスキルがあった。私のスキル『全ての方向を下と定義できる力』には随分と世話になったわね。今?今は全然使っていないわ……。
 ある日私は伯父に呼び出された。伯父はこの都市の領主をやっていてメラージ家の当主でもある。不意に彼に家訓を尋ねられた時は驚いたが何とか答える事が出来た。あの時は内心では焦ったわね。
 そして会話の流れから気づいてはいたがまさか自由恋愛で落としてこいと言われるとは思わなかった。


 灰色の大きな船が海の上に浮かんでいる。この船に私の目標がいるらしい。どんな人間だろうか?私の好みであれば最高だけど高望みはしない方が良い。
 近づけば近づく程この灰色の船の異様さが分かる。今までたくさんの船を見てきたけどここまで大きな船は初めて見たわね。伯父が私にゴーサインを出した理由も今なら分かる。私を使うなんて余程追い詰められたのだろう。
 灰色の船に乗る。何に使うのか分からない物が多くあった。私が戦闘機を触っていると視線が向けられている事に気づいた。振り向くと彼はそこにいたわ。転移者を彷彿ほうふつさせる黒髪、黒目の出で立ちで物語の英雄そっくり……少し見惚れてしまったわ。


「あなたがこの船の所有者?」


 彼は肯定した。船員はどこかと聞くといないと答えた。信じられない……。私のスキルも強い方だが遥かに強いスキルを見せられて世界の広さを感じたやはり彼は転移者ね。貴族ならすぐにわかるわ。
 そして彼は一人だけ従者を連れていた。実は従者では無かったミーラさんとはまだ数カ月の付き合いだが彼が惚れた理由が直ぐに分かったわ。二人共、温和な性格。そしてとても優しくて似合っている。
 彼は商人と名乗っていたが正直これはまだ掴みかねている。嘘を言うような性格では無いことはとうに知っているがどうも信じきれない。


 突然海賊が港湾都市に来た。領主の私兵が対応すると思ったがその前に彼が迎撃した。彼は攻撃を躊躇していて表情にも迷いが見られた。けど一度攻撃を開始すると圧倒的だった。周りの船から白煙が上がって次々と敵をほふっていく。私の乗るこの大きな船からは戦闘機が飛び立っていく。彼はゲームチェンジャーだ。とてつもない力を持っている。
 海賊達はなす術も無く敗れた。彼は温和よね。これだけの力を持ちながら覇を唱えず、適当に生きている。スキルを溝に捨てている。でもそんな彼だからこそ嫌いになれない。


 彼が真面目に行動したのは今から丁度二週間と二日前の事だ。まさか革命軍を彼が支援しているとは思わなかったわ。でもミーラさんの素性や彼の身分の気にしなさを見ると納得がいった。私は伯父から渡された手紙を持って彼についていく。本当にうちの家は時代の流れを読むのが上手い。結婚だけで繁栄したのだからこういう力が求められるのだろう。


 革命軍の総司令官リベレは即座に私の目的を看破した。流石としか言いようが無い。そしてユータは相変わらず私の目的に気づいていないよう。はぁ……。
 ミーラさんの恋を応援していたらいつの間にか先を越された……。状況は良くない。ただミーラさんは最後まで約束は守ってくれるようで私の邪魔はしてこない。それだけが救いね。


 距離感が縮まらない……。私はミーラさんと共にある一計を案じる。最も最初はミーラさんの悩みだったが私が途中で話を別の方向に持っていっただけで彼女は何もたばかっていない。


「私、全然役に立てて無いんですよね……。」
「ならこういう事はどうかしら?あなたも自立したいでしょ?」
「冒険者ですか……良いですね!私、頑張ります!」
「ええ、私が教えるわ。」


 私は三人で収入を勝負する事を提案する。勝ったひとは負けた人の言う事を何でも聞く条件を盛り込んだこの提案は直ぐに了承されたわ。勝っても負けてもきっとユータとの距離感は縮む筈よね?


 彼は私達の実にスムーズな会話を疑うことなく勝負をする事にした。彼は少しは疑うことを覚えた方がいい気もする。


 少し誤算が生じた……。彼が急に真面目になって商会を設立したらしい。私の予想では宿に引きこもるか本拠地に帰るどちらかと思っていたが当てが外れたみたいね。


 更に事態がまずくなってきた。私は最近になって謀略が苦手だということに気づきユキというライバルが増えてしまった……。これは……完璧に誤算だったわね。


 目の前の彼女、ユキは私に話しかける。


「君は僕が奴隷って事を忘れてない?」
「やっぱり奴隷はそういう事をしてこそだと思うんだ。」


「何時の時代の話を……。とにかくここは通さないわ。」


 彼女は勝手に彼の部屋に行こうとしていた。まだミーラさんですらそういう事はしていない。


「だいたいユキさんの世界はどうだったの?」
「う〜ん、機械の奴隷はいっぱいいたよ。こういう事は彼の方が詳しい筈だ。」


 はぁ……。転移した人が二人もいるという時点で奇跡に近いのに二人共おとぎ話で聞くような英雄には程遠い。


「とにかく通させてもらうよ。彼は押し続ければそのうち落ちるんだ。僕が言うんだから間違いない。」


 !?


「今、何て言いました?」
「へ?とにかく通させてもらうよかな?」
「その後よ。」
「えっと……彼は云々の所?」


 前言撤回するわ。もしかしたらこのユキという子は私にとって大きな力になるかもしれない。


「私の部屋に来て。お願い。」
「良いけど……。」


 ユキは頭の上にはてなマークを浮かべながら私に従ってくれた。彼女を私が泊まっている部屋に案内する。ユキを椅子に座らせて私はベッドに座りながらさっきの話の続きを促す。


「彼を押し続ければ落ちるってそのままの意味でいいの?」
「あ……うん。僕が実証したからね。忘れられたならまたやればいいだけだよ。」


 ユキは強い心の持ち主ね。今までの努力が水泡に帰したのにまたチャレンジするなんて真似できないわ。


「×××もユータも多分断れないタイプだと思うんだ。」
「確かに言われてみると……。」


 思い当たる節が数多くある。これは……良い事を聞いたかもしれない。


「あれ?君ってユータと友達って言ってたよね?」
「ええ、そ、そうよ。」
「こっちのユータは分かりにくい冗談を言ったりする?」


 しばらく考えるが特にそんな事は思い浮かばなかった。


「いえ、私は聞いた事がないわ。」
「……記憶の欠落で性格も変わったのかな……?前の彼なら冗談を言ったリ自分から何かをプレゼントしたら百%無意識では恋してる筈なんだよね……。」


 そういえばミーラさんはプレゼントを貰ってた……。彼女、あのリボンを大事にしまってるけど……。あれ?私って最下位?目の前のユキさんは前の世界のアドバンテージがあるしミーラさんは言わずもがな。絶望的状況ね……。


「まぁ後は直接話して確かめるよありがとねー。」
「ちょっと!ユータさんの部屋に行くのは……。」


 どこから選択肢を間違えたのだろう?ただ確かなのは私は策を練るようなタイプでは無かった事ね。変な本を読まないでさっさと行動するべきでしたわ。

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