異世界の死の商人

ワナワナ

第十八話 城塞都市攻略戦

 あれから二週間が経った。雨雲は嘘の様に消えていて、丁度日が登ろうとしていた。トワイライトが辺りを暖かく包んでいる。この天気にアトランがしたというのだから信じられない。気象兵器は実用化されていなかった筈なのだが一体どんな方法で行ったのだろう。


「ユータ様、勝てると思います?」


 俺の後ろにいたミーラはか細い声で尋ねた。俺はタブレットを地面に置いて答える。


「絶対に勝つよ。直に分かる。」


 俺がそう言ってもミーラはまだ不安そうな顔をしていた。俺達は三人で端末を見る。勇気ある人なら戦場に難なく立てるだろうが俺には厳しい。


「時間だ。攻撃開始!」
「戦車前進!」


 M1エイブラムスが城塞都市全ての門で一斉に前進する。全く同時に攻撃を始められるのも戦車のデータリンクシステムのおかげだ。本当に革命軍の兵士は凄い。彼等の士気は異世界中の何処の軍隊よりも高いだろう。そしてその高い士気がAk-47や戦車といった新たな兵器を運用する事を可能にした。


「な、何だあれは……。」
「あんな物見たこともない……。」
「大丈夫だ。俺たちには魔導士がついてる。」


 他とは違う杖を持った男が城壁の上に立っている。彼だけは周囲の恐怖もどこ吹く風だ。彼が恐らく魔導士だ。


「ファイアーバレット。」


 視覚的に見える魔法を俺はその時初めて見た。ファイアーバレットの赤く眩い炎は戦車に向けて飛ぶ。そのまま行けば直撃だろう。確かにとても威力だ高いように見える。魔導士自身ももう興味は無いのか次の敵を探している。
 ただその程度の攻撃を米軍が想定していないはずがないだろう?
 一瞬戦車は炎に包まれたがすす一つ無いまま進み続け、即座に12.7ミリ重機関銃で反撃し魔導士を射殺した。傭兵達に動揺が走る。


「俺の契約は今日までだったよな?逃げさせてもらうぜ。」
「待て!お前は確か後二日程戦う予定だ。」
「うるせぇ!傭兵はな命あっての物種何だ!」


 怒号が飛び交う。逃げ出す者、立ち向かう者、反応は様々だった。キャタピラが動いて戦車は城門の前に進む。


「照準完了。てぇー!」


 百二十ミリ滑空砲から劣化ウラン弾が放たれる。翼の付いた徹甲弾は安定した軌道でまっすぐに城門へ命中する。やがて小銃とは桁違いの火力が城門を華麗に撃ち破る。
 そしてそれを合図に歩兵が突撃する。この時にはもう勝負はついていた。城門が壊れた今、数で劣る傭兵達に勝ち目は無かった。


「あぁ……城門が壊れてゆく……。」
「馬鹿な……上級魔法ですら防ぐ鉄の扉だぞ……。」
「門が開いたぞ!進め!」


 例え鉄だろうと劣化ウランの比重の前には意味をなさない。ただ少し心配な事もある。この後アトランと相談をして化学防護車を召喚して何とかしてもらったが革命軍にも劣化ウラン弾の危険性を伝えるべきだろう。
 途切れ、途切れに小銃の発砲音が辺りに響く。革命軍は傭兵達に次々と遠くから射殺していった。俺は基本的な撃ち方を教えただけでこんな立ち回りは教えていなかった。きっと自分達で編み出したのだろう。


「南門クリア。直ぐに伝えに行くんだ。」


「北門もクリア。これより我々は指示どおり中央広場を目指す。」


「東門制圧完了。武器を捨て投降せよ。」


 革命軍が背中合わせに銃を構えるその姿は地球の職業軍人を彷彿させた。最早、貴族側に戦力は残されていなかった。城塞都市の領主である侯爵は王都へ逃げようとしたが全ての門が革命軍の手に落ちた今、どこにも逃げ場は無かった。


「どうやら搾取しすぎたようだな………………ここまでか。愚民共に武器を与えたのは誰かは知らないが……王国正規軍には勝てんよ。」


 この日、侯爵は自らの命を終わらせた。そしてそれが伝わるや否や戦争は終わり領主の館に掲げられた家紋の旗は降ろされた。








 城塞都市攻略戦は革命軍の勝利に終わった。この戦争で評価されたのは以下の点だ。一つ目は科学技術に基づいた兵器は攻城戦でも使える点。二つ目は諸外国、王国中の民にスキルが無くても戦える事を示した点。特に二つ目が大きかった。これについては我が国の建国の歴史でも詳しく学ぶ。
フロント帝国 中等学校歴史Ⅰの教科書より引用




 あれから二日程経った。空に虹がかかっている。中央広場には戦車の上に立つリベレが聴取に拡声器を使って語りかけている。俺は三人で通りの建物の上から演説を聞く。


「我々は……今日フロント帝国の建国を宣言する。この国は万人の意志を反映する政治を行なうために立憲君主制を採用し……。皇帝には古代より血を引くメラージ家の……。」


 リベレの演説は不思議と長時間聞いていられた。民はもうすぐ終わると思ったのか盛大な拍手が広場に巻き起こる。


「待ってくれまだ終わっていない。最後に一つ。我々の国旗を発表していない。」


 リベレが指を鳴らすと旧侯爵の館に一つの旗がひるがえった。


 白地に真ん中の王冠、そこに右上から左下に一本の斜線が描かれている。


 歓声や拍手、悲鳴とにかく興奮が伝わる。そんなに優れたデザインなのだろうか。いまいちピンと来ない。


「あの国旗って何がモチーフなの?」
「フロント王国の旗に斜線を引いただけよ。たったそれだけの事だけど中々出来る事じゃないわね。王国への宣戦布告と同義なのよ。」


 アイスが答えてくれた。リベレの演説も終わりそうだ。


「諸君らは如何なるスキルを持とうと平等であり他者を害さない限り自由を謳歌してくれて構わない!二度と王政には戻らない事を約束する!以上だ。」


 演説は終わり、国が建てられた。ふと隣を見るとミーラと目が合う。彼女はすごく悩んでいる様子だった。


「どうかしたの?」
「別にどうもしてないですよ。心配しないでください。」


 そう元気そうに答えた彼女を俺はどうも痩せ我慢をしている気がしてならなかった。


 広場の人がまばらになった所でリベレに声をかけられた。もう夕方だ。明るいオレンジの光が西からフロント帝国の斜線旗を照らす。


「降りてきてくれ。遅くなって済まない。」


 俺はアイスに頼んで建物から重力魔法で降ろさせてもらう。


「いや、良いよ。それより何の用?」
「ようやく金を渡せる。ついてきてくれ。」


 リベレは俺とミーラを侯爵の館に案内する。アイスは何故か案内されていなかった。館の中には袋に入った金貨が積み上げられていた。


「これが金貨十万枚だ。きちんと返したぜ。」
「ありがとう。」
「ミーラ、お前の担保しての役割も終わりだ。これからどうする?」


 リベレはミーラに問う。あれ……。もしかしてこの金を受け取るとミーラと一緒にいれないのか?彼女と一緒にいる事が当たり前になり過ぎていて気づかなかった……。もし彼女がいなくなったら俺はどうしよう。その先の未来が描けない。


「私は……一つだけユータ様に質問があります。」


 彼女の目から今にも涙が零れ落ちそうだ。西からの光が彼女の白い髪を照らしてきれいだった。


「私はあなたの隣にたてますか?」


……。そんな悲しそうに言わないで欲しい。


「もちろん。君以外の誰が隣に立てるというんだ。」


「本当ですか?私はあなたみたいに凄い人じゃないですよ。」


「ミーラが隣にいないなんて想像も出来ない…………。」


「それにリベレが言ってたでしょう。もうスキル何て関係ない。みんな平等なんだ。」


「ユータ様っ。」


 彼女は俺を抱きしめる。こんなにも距離が近くなったのは初めてだ。そして彼女は耳元でささやく。


「大好きです。」
「ずっとあなたを見ていて、あなたが起こす事の大きさに驚いていました。私なんかがユータ様の隣に居ていいのか不安になりました。でも今そう言ってくれて分かったんです。あなたと離れたくない。」


 俺は嬉しい気持ちと戸惑いの気持ちで満たされた。そんなに悩んでいたなら言ってほしかった。気づかなかった自分に腹がたった。俺はどうすれば良いのか分からず、ただ彼女を抱きしめていた。





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