彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
11/17(火) 小鳥遊知実①
そして朝陽ヶ浜を出ることになった。完。
……ときれいに終わればよかったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
(……来た)
神経を張り詰めていた俺は、カッと目を開いた。
ほとんど同時にノックもそこそこ、ドアが開く。隙間から凍てつく空気が流れ込む錯覚。
……この緊張感は、よく知っている。しかし、俺も覚悟は決めている。
「……」
うっわあああああああああ! 思ってた以上にガチギレされていらっしゃるううううう……!!
「あんたね……」
「なっちゃーーん!!!」
闇堕ちした凛々姉の後ろから飛び込んできたのは七瀬だった。
その勢いに押されて凛々姉の威圧感ゲージがするすると下がっていくのが目に見えるようだ! ありがとう七瀬! この瞬間だけ世界で二番目に愛してる!!
「なんでこんなことになってんのーありえないんだけどぉ? ハロウィン終わったしぃ!」
「仮装じゃねえよ」
「ううううううー」
七瀬が下を向いて泣いてしまう。いや……そうなんだよな。これが嫌だったんだ。
「知実くん」
凛々姉の後ろから、いちごと音和も入ってきた。
「だめだよ。ずっと迷惑かけてきたんだから、きちんと向き合おう。これは義務です」
いちごちゃん容赦ないっす。だけど……まったく言う通りだ。
俺は自分のことしか考えてなかった。
彼女たちが悲しむ姿を見たくないばかりに、言い訳をして逃げていた。
でもさ、見てみろよ。連絡したらすぐ飛んで来てくれたんだよ。ずっと不義理をしていたのに……凛々姉が怒るのも当然のことだ。
「あたし、こんな短期間にぃ、大事な人ふたりもなくすとか無理だよ、そんなのもう立ち直れないよ!!」
ベッドに炸裂する七瀬パンチ。
胸の痛みを押さえるかわりに、その腕を強引に掴んで止めた。
「待って、死ぬ気ないけど」
「……え?」
「大丈夫、なんとかなる。俺、いつだってなんとかしてきたじゃん」
「そーかもだけど! めっちゃ倒れてる印象しかないし!」
「お前、そんな俺に山からおんぶさせて走らせたんだぞ?」
「だ、だってえ、知らなかったんだもんーー!!」
「俺は生きるし、お前は古生物学者になる。約束。インディアン嘘ツカナイ」
「……求婚してきた」
「それは……ごめん」
「こっちも冗談だし、バカ!」
不貞腐れている彼女に向かってすしざんまいのように手を広げてみたら、飛び込んで来てくれた。よしよし。
最後まで、空気読んでギャルってくれてありがとう。
「本当に……もう。あんたなんでこんな重要なことを……」
ガチ切れスタートだった凛々姉は勢いを削がれ、怒ってるのか泣いてるのか微妙な顔をしている。
「凛々姉ごめん。虎蛇の来年の会長、引き継げなくて」
「そんなのどうでもいい。なんで、なんで日野や穂積には話して、あたしには言ってくれなかったの。腹立つ。本当にむかつく!」
「す、すみま……」
「本当に、自分の不甲斐なさにむかつくの! あなたが頼れるほどの器がなかったあたしにっ」
「違うから!」
2メートルほど離れて顔をしかめる凛々姉に、聞こえるようにと声を張った。
「俺が凛々姉のことどれだけ推しだか知ってるでしょ。ただ、凛々姉の前でカッコつけたままでいたかった俺のちんけなプライドのせいだよ……ごめん」
「なによ……それ」
「あと内緒で急にパワーアップして帰ってきたら、おもしろいかなって……」
「思うわけないでしょう! それにあんた勘違いしているようだけど……」
冷たい視線にぞくりとする。
「あんだけ虎蛇引っ掻き回して、カッコつけたままだなんてよく言えたわね」
「深謝」
呆れたようにではあったけど、やっと彼女は笑ってくれた。
俺たちは文化祭前夜の屋上で、別々の道を歩むことをお互いに感づいていた。
だけど二人の奇妙で特別な絆は、少ない会話でも信頼できるほどの効力はある。
「……詩織先輩は? ドアの向こうとかでもじもじ隠れてるのかと思ったけど、全然出てこないね。来てくれなかったんだ」
みんながドアを振り返る。けれどそこに詩織先輩の姿はなかった。
……ときれいに終わればよかったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
(……来た)
神経を張り詰めていた俺は、カッと目を開いた。
ほとんど同時にノックもそこそこ、ドアが開く。隙間から凍てつく空気が流れ込む錯覚。
……この緊張感は、よく知っている。しかし、俺も覚悟は決めている。
「……」
うっわあああああああああ! 思ってた以上にガチギレされていらっしゃるううううう……!!
「あんたね……」
「なっちゃーーん!!!」
闇堕ちした凛々姉の後ろから飛び込んできたのは七瀬だった。
その勢いに押されて凛々姉の威圧感ゲージがするすると下がっていくのが目に見えるようだ! ありがとう七瀬! この瞬間だけ世界で二番目に愛してる!!
「なんでこんなことになってんのーありえないんだけどぉ? ハロウィン終わったしぃ!」
「仮装じゃねえよ」
「ううううううー」
七瀬が下を向いて泣いてしまう。いや……そうなんだよな。これが嫌だったんだ。
「知実くん」
凛々姉の後ろから、いちごと音和も入ってきた。
「だめだよ。ずっと迷惑かけてきたんだから、きちんと向き合おう。これは義務です」
いちごちゃん容赦ないっす。だけど……まったく言う通りだ。
俺は自分のことしか考えてなかった。
彼女たちが悲しむ姿を見たくないばかりに、言い訳をして逃げていた。
でもさ、見てみろよ。連絡したらすぐ飛んで来てくれたんだよ。ずっと不義理をしていたのに……凛々姉が怒るのも当然のことだ。
「あたし、こんな短期間にぃ、大事な人ふたりもなくすとか無理だよ、そんなのもう立ち直れないよ!!」
ベッドに炸裂する七瀬パンチ。
胸の痛みを押さえるかわりに、その腕を強引に掴んで止めた。
「待って、死ぬ気ないけど」
「……え?」
「大丈夫、なんとかなる。俺、いつだってなんとかしてきたじゃん」
「そーかもだけど! めっちゃ倒れてる印象しかないし!」
「お前、そんな俺に山からおんぶさせて走らせたんだぞ?」
「だ、だってえ、知らなかったんだもんーー!!」
「俺は生きるし、お前は古生物学者になる。約束。インディアン嘘ツカナイ」
「……求婚してきた」
「それは……ごめん」
「こっちも冗談だし、バカ!」
不貞腐れている彼女に向かってすしざんまいのように手を広げてみたら、飛び込んで来てくれた。よしよし。
最後まで、空気読んでギャルってくれてありがとう。
「本当に……もう。あんたなんでこんな重要なことを……」
ガチ切れスタートだった凛々姉は勢いを削がれ、怒ってるのか泣いてるのか微妙な顔をしている。
「凛々姉ごめん。虎蛇の来年の会長、引き継げなくて」
「そんなのどうでもいい。なんで、なんで日野や穂積には話して、あたしには言ってくれなかったの。腹立つ。本当にむかつく!」
「す、すみま……」
「本当に、自分の不甲斐なさにむかつくの! あなたが頼れるほどの器がなかったあたしにっ」
「違うから!」
2メートルほど離れて顔をしかめる凛々姉に、聞こえるようにと声を張った。
「俺が凛々姉のことどれだけ推しだか知ってるでしょ。ただ、凛々姉の前でカッコつけたままでいたかった俺のちんけなプライドのせいだよ……ごめん」
「なによ……それ」
「あと内緒で急にパワーアップして帰ってきたら、おもしろいかなって……」
「思うわけないでしょう! それにあんた勘違いしているようだけど……」
冷たい視線にぞくりとする。
「あんだけ虎蛇引っ掻き回して、カッコつけたままだなんてよく言えたわね」
「深謝」
呆れたようにではあったけど、やっと彼女は笑ってくれた。
俺たちは文化祭前夜の屋上で、別々の道を歩むことをお互いに感づいていた。
だけど二人の奇妙で特別な絆は、少ない会話でも信頼できるほどの効力はある。
「……詩織先輩は? ドアの向こうとかでもじもじ隠れてるのかと思ったけど、全然出てこないね。来てくれなかったんだ」
みんながドアを振り返る。けれどそこに詩織先輩の姿はなかった。
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