彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

11/13(金) 小鳥遊知実②

 お見舞いを終えて、急いで自転車を飛ばして帰り、カフェを開けた。サチさんがこちらを見てホッとしたような顔をした。
 お客さんはまばらで、奥のカウンターに音和ちゃんが座っていた。
 最近はあたしがカフェに入るタイミングでサチさんと音和ちゃんが車で病院に行く。そして1時間半後に戻って、また仕事に入る。サチさんの顔にはいつも疲労が浮かんでいて心配だった。


 バイトが終わって帰る前、明日知実くんの治療に立ち会いたいという話をして、バイトを休ませてもらうことにした。
 最近バイトを遅くしてもらったばかりなのに、二人とも優しい。
 明日はあたしの代わりに、夏休みに来てたバイトさんが入ってくれることになった。

 上にあがって身支度を整えてから、テレビを見ていた柊と杏に「帰ろう」って声をかけた。二人ともすぐに頷いて帰り支度をはじめた。
 カバンにおもちゃを片付ける途中で、柊が手を止めた。


「ねー最近、お兄ちゃんどこ? 部屋にもいないんだよ」


 不満げに知実くんの部屋を指差す。


「音ちゃんも来ないし、つまんない」


 杏があたしの手を引いた。


「お姉ちゃんとも遊びたい〜」


 柊が反対側の手を引く。
 最近二人に全然構えてないし、お留守番も増えている。うまくやれない自分に胸が痛くなる。


「そうだよね。ごめんね、二人とも……」


 しゃがんで二人を抱きしめる。
 ぎゅっと抱きしめたのもいつぶりだろう。いろいろありすぎて、あたし自分のことばっかりだった。


「あーあ、おれが働けたらなあ〜。お姉ちゃんばっかり大変でかわいそう」


 柊がひときわ大きな声で言った。杏が「えー!」と不満そうに漏らして、


「小1で働けるところないの、お姉ちゃん? あたしはお花屋さんがいいなあ!」
「おれはーおもちゃ屋さん!」


 無邪気に言い合っていた。
 目頭が熱くなって、再び強く抱き寄せる。こんな小さな子に不安がらせて、本当にだめなお姉ちゃんだよ。


「よし! 帰ったらみんなでお風呂入ろっか」
「じゃあ鉄砲やろー!」
「泡いっぱい作るー!」
「いいよ! でも眠いって言わずに、ちゃんと頭拭いてから寝るんだよ〜? 帰ろっか!」


 二人に笑顔を向けて、立ち上がった。

 今は絶対にどれも後悔したくない。あたしがしっかりしないと……。
 気合いを入れ直して、知実くんの家を出た。

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