彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

11/6(金) 小鳥遊知実①

 朝起きていつも通り表に出る。
 夏ほど明るくはないけれど、青く爽やかな海を眺めた。
 珍しく、俺の方がいちごより早く出てきたらしい。けどすぐにやってきて、いつものように、最後の日までおはようのあいさつを交わすんだろう。
 この儀式めいたルーティーンが、何も変わらない俺たちの日常を確かに思わせてくれている。

 音和にメッセして家の前に立つ。
 ……ギリギリの時間になりつつあるのに音和は置いといていちごも来ない。というか、なんか周辺が騒がしいな?

 いつもはいない近所のおばちゃんたちが、外に出て深刻そうに立ち話をしている。
 一体なにがあったんだろ……? 家の前でおばちゃんたちの声に耳を傾ける。


「……だったみたいよ」
「……怖いわねえ……」


 よくわからないなと思っていたら、また別のおばちゃんが立ち話に近づいて行った。
 新しいおばちゃんが加わったのを見て、俺も堤防から海を眺めるふりしてさりげなくその輪に近づいた。


「藤井さんの家の前よ」
「高校生ですって」
「どこの子?」
「いやね、事故なんて」


 胸騒ぎを覚えて、俺はいちごの家へと足を運んだ。

 いちごの家に向かう途中の交差点に、大きなトラックが歩道にはみ出して止まっていた。
パトカーが数台と警察官も立っている。

 いちご今日は寝坊したのかな、こういうの初めてだよな。
 体調不良で休みかな。休みも初だよな。最近寒かったし、いろいろあったし、体調も崩すよなぁ。
 ……だから、とにかく一刻も早く、家まで行って確認したい。


「朝陽ヶ浜高校の女子生徒がそちらに。ええ」


 学校の名前が聞こえて、寒いのに嫌な汗が出てきて足が止まった。電話をしている警察の声に耳をすませる。


「そうです。日野苺。ストロベリーの。ええ、間違いないですね」


 胸を内側からノックするように、大きな鼓動が身体を震わせる。


「大きなトラックと出合い頭で」
「大惨事ね」
「絶望的って」


 野次馬の話すネガティブな声が、気安く頭に入ってくる。

 よく周りを見渡すと、バキバキに割れたトラックのヘッドライトや道路についたタイヤ痕などが、事故の凄惨さをあらわしていた。


「ええ? うそ……」


 だって、死ぬのは俺であっていちごじゃない。こんなこと、あっていいわけがないんだ。


『どうして人は簡単に死ぬの?』


 ……っ!


『あんたを待って、車に押しつぶされて亡くなったのよ』


 そんな悲惨な話が、二度も起こるなんてありえない!


「……了解です。ええ。ひどく潰れていて。残念ですが、二度と使い物にはならないでしょう……」


 警察の言葉に膝をつく。


 ありえない。
 ありえないありえないありえないありえないありえないありえない……!!


「そんなに連れて行きたいなら……さっさと俺の命を持って行けよ、くそったれ!!!」


 涙と怒号を交えた心からの叫びも、地獄に届くことすらないのだろう。

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