彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

11/4(水) 日野 苺④

「っうう……待って、違うのごめん、みんな待って……っ」


 泣きすぎて、うまくしゃべれない。でもこうなってしまったら、あたしひとりだけ、黙っていられないよ。
 だからみんなから一度離れて、下を向いたまま涙を拭う。


「……あたし、はっ……。っ、そんな、いい人間じゃない、から……っ!」


 顔を上げて、ひとりずつ顔を見回した。


「はあっ……あ、あたしは、前の学校も、小中学校でも。ずっと人に嫌われてた。忙しかったからじゃない、空気読めないから! ……っ、はぁ。だからここでは、ちょうどいい自分を演じることにしたの。虎蛇会のみんなの前でも! ……ってことだよね? 知実くん!」


 振り返ると、知実くんは辛そうにあたしを見ていた。


「でもそれって、そんなに悪いことなのかなあ? 誰でもやってることでしょ? それで、昔のことまで詮索されたくなかった!」
「そうだよ。誰でもみんな上っ面を持ってるし、大人になるとそれが処世術にもなるだろうし、悪くはないよ。だけど本物じゃない」
「頭かたすぎるよ知実くん! もはやそんなのどうでもいいよ! 嫌われずに仲良くできているだけで充分でしょ!」
「いちごはそれに慣れて欲しくない。このかけがえのない時間を、心をすり減らしながら過ごして欲しくないんだよ」


 唇を噛む。後ろめたい思いとか、取り残されたような思いはあったから。だけど……それを我慢してもいいって、覚悟だって持ってたんだよ!


「だって、そんなの、もう無理だよ……! みんなと違ってあたしは自分を隠してた。嘘ついてここにいるんだから」
「そんなこと、ないよ。日野さん」


 音和ちゃんが首を振りながら近づいてくる。あたしは一歩下がって距離を取った。


「音和ちゃんはいじめられてたとき、虎蛇のみんながいたし、克服もしたよね。それは心からうれしかった」


 音和ちゃんのことは大好き。可愛いし、守ってあげたくなる。


「でも、境遇はすごく似てるのにこんなに結末が違うなんてって、羨ましくて羨ましくて苦しくてっ、家で吐いたりしてたんだよ!」


 一緒にいると眩しすぎて、苦しく思う日もあった。


「だって音和ちゃんは汚物にまみれたおべんとう見たことある? 頭を下げて保護者に買ってもらった教科書や体操服が、翌日ズタズタに刻まれるとか! あたし今でもぬいぐるみがないと眠れないし、あざは残ってるし、頭だって一部はげてるんだよ!」


 ずっと、ずっと隠していた黒い気持ちが溢れ出す。ただあたしの正面にいるだけで、ただあたしとちょっと状況が似ていただけで。なにも悪くない音和ちゃんにそれをぶつけてしまう。

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