彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

11/2(月) 日野 苺②

 
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 4限が終わるチャイムと同時に、サボりから戻ってきた野中を捕まえた。
 野中といちごと3人で1年棟へ行き、音和を拾って、そのまま屋上へとあがる。
 そしてはしごを登って、給水塔の下へ。昼飯セットを出して、準備をする。


「シート敷いたから女子はここ座りな」
「うん。ありがと」
「あとで七瀬も来るから、ちょっと詰めてね」
「わかった。あと、パパからみんなにお菓子があるんだけど」
「おー悪いな。おじさんによろしく伝えてくれ」


 なんか音和に気を使われている……気がする。
 でも、すぐにいつも通りっていうのは難しいけど、一緒にいようとしてくれている気持ちがうれしかった。
 そんな俺たちの心情なんかおかまいなしに、音和の隣に野中が乱暴に座った。いやそこ女子の席なんだが。


「っ!」


 音和がきつい目で野中を睨みつける。


「……」
「……」


 だけど二人ともなにも話さず、目を逸らした。どうしたの、雪降るんじゃないの今日。


「じゃああたしも、音和ちゃんの隣に座ろうかなー」


 気まずい空気を中和するように、いちごが野中と逆側の音和の隣に座った。


「音和ちゃんはおうちのお弁当なんだね!」


 いちごが音和の弁当を見て微笑む。


「ん。今日はパパと一緒に作った」
「へえ。さすがお義父さんだな」
「お前の父親じゃねえから」


 野中の間違いをきちんと訂正してあげていると、がちゃりと重い屋上のドアが開く音が聞こえた。


「やっほー! あれみんなどこーー!?」
「あ、七瀬ちゃんきた〜」
「おーいこっち」
「えーー! まだ上があるーーー!? かいちょーとしおりん先輩も来たよー!」


 まぶしい笑顔で、七瀬が上に向かって手を振った。


「あら。ここは『吊り橋理論で女を落とすにはもってこいの場所』ってチュン太が言ってたところじゃない」
「凛々姉、悪意のある語弊で煽るのはやめようね! おい野中そこを速やかにどけ、詩織ちゃんが座るから」
「えー、なっちゃん、あたしと会長は?」
「こっちは女子の席なんだとよー」
「野中、悪意のある語弊で煽るのはやめようね!!」
「あら、そう、へえ」
「へー、ふーん!?」


 俺を挟むように凛々姉と七瀬が座る。近い。そして圧がすごい。


「あの、私はそちら側でも構いませんけど」
「大丈夫ですよしおり先輩。今日は体調が良さそうですねっ」


 音和と野中の間に座る詩織先輩に、いちごが身を乗り出して話しかける。


「わかりますか? みなさんと会えたからかもですね♡」
「! キュン・デス!!」
「うわ、なっちゃん声野太っ! きもっ! つかあたしがふたり誘ったんだから、あたしにもっと花を持たせろっつーの! ねーノナカ!」
「だよなー、おっぱい選手権でもするか(棒)」
「んだよそれ、花を持たせろつってんじゃん!!」


 こうやってみんなで笑い合える日々が、少し前までは当たり前だって思ってた。
 だけど七瀬も音和も本当は俺らの顔なんて見たくないだろうし、野中も手応えのない片思いしたままだし。
 凛々姉はプライドを捨てた自分と向き合って、詩織はアイデンティティを拾い集めるために必死で。
 それから、いちごと俺も……。

 今までは気づかなかったけれど、誰かが心を少しずつすり減らしていつも通りを徹してくれているから、グループは成り立っているのかもしれない。
 そこまでしても、この場所を選んでくれる愛しい友人たちに。感謝と敬愛を忘れないようにしたい。

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