彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

10/30(金) 日野 苺②

「は?」


 思いもしなかった要望が出て、変な声が漏れてしまった。


「あ、音和ちゃんだ。おはよー!」


 音和の家に手を振るいちご。
 おいおいおい、そんなことある?
 普通にいちごが何を考えてるのかわからない。


「いやいやいや、ちょっと待って、どういうこと? なんで、七瀬が出てくるの?」


 脇目もふらずにいちごの肩を掴むと、彼女は驚いてそれを振りほどき、手のひらを前に出して、俺と距離を取った。
 その行動がまた心にズキンと痛みを走らせる。


「……えっ、なんで知ちゃん怒ってるの?」


 そばまでやってきた音和が、引きつった顔で俺たちを見比べる。


「……あたしの願いが、それだからだけど……」


 そんな俺の心うちなんか知るよしもなく。
 いちごは俺から目をそらすことなく恐ろしく落ち着いて、恐ろしく優しい声でそう言った。
 頭が真っ白になって、ただ立ち尽くしてしまう。


「このお願いは“遊び”でしょ? 前から言ってるけど、二人仲いいし。デートしたらどうかなって、単純に気になっただけ!」


 嘘だろ、なんでまだ七瀬推しなんだよ。これわざと?


「全然わけわからん。毎回違うって言ってるし」
「えっと、そんなに七瀬ちゃんとデートは嫌だった?」
「そういうわけじゃないけど……」
「二人とも息ぴったりだし大丈夫だよ〜。それに最近七瀬ちゃん元気ないし……ね? デートしたら報告してよねっ」


 ……なにこれ。なんでそこまで言うの? 俺がおかしかったの? 俺が勘違いしてただけってこと?
 クッキーもらって、特別だと思って、舞い上がってたってこと?
 うはあーーーーー。めっちゃ恥ずかしいんだけど!
 つか、やだ。今すぐ消えたい……。


「知ちゃん、日野さん……とりあえずがっこ、行こ?」


 音和の声がどこか遠くで聞こえたような感覚だった。



 ………………

 …………

 ……



「おはよー。ねえなっちゃん、これどう思う?」


 いちごと妙な雰囲気のままで登校し、教室に着いてすぐに俺だけクラスの男子に捕まった。
 向けられたスマホにはくだらないSNSのネタが載っていた。
 一緒にいたいちごは立ち止まることなく、そのまま自分の席に着いた。

 クラスのやつらとバカ話をしていると、気持ちも少し落ち着いてきた。
 俺がちょっと仲良いって勘違いしていただけで、いちごはいちごで、気を使って言ってくれたことだもんな。
 あそこで怒るとか俺まじでないし、キモすぎ。挙動不審すぎるだろ……。
 冷静になると、自分の行動がひたすらにキツい。
 話が終わって自分の席に向かう途中、いちごの席の脇を通る。
 いちごは緊張したように前一点を見つめて、不自然に肩を縮ませて座っていた。


「さっきはごめん」


 すれ違うとき、小さな声でそう告げる。
 ガタッと椅子が床をこする音がして振り返ると、いちごも振り返っていて、悲しそうにぶんぶんと首を振った。


「え? なんで今にも死にそうな顔してるの?」


 俺は苦笑いするしかなかった。

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