彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
10/27(火) 日野 苺④
┛┛┛
お昼休み、倉庫舎前であたしは七瀬ちゃんと座っていた。
本当は音和ちゃんが来るかもしれないから虎蛇に行くつもりだったけど、二人で話したいって誘われて、外でごはんを食べてる。
なんの要件だろうと気になりつつ会話をしていると、お弁当箱を閉じたのを合図に、七瀬ちゃんはキリッと真剣な表情になった。
「えっと、今日ね、二人で話したいって言ったのは、いっちーに伝えないといけないことがあって」
深刻そうだったから、あたしもお弁当を膝に置いて、彼女の目を見て頷く。
「今朝のことなんだけどぉ……」
朝……。あたしと知実くんが話してたところに七瀬ちゃんが入ってきたこと、かな?
っ!? もしかして七瀬ちゃん、本当にやきもち焼いてたとか!?
「わわ! そんな暗い顔しないで! えっと、あたし、ノナカ避けたじゃん?」
そういえば、野中くんが来てすぐ、七瀬ちゃん別の友だちのところに行っちゃったけど……。
「あのね、あたし……ノナカのこと好きだったんだー」
「えーーーーっ! と、知実くんじゃなくて?」
「いっちーさぁ、それ天然かと思ってたけど、本当に疑ってたんだ(笑)?」
「うわわわわ。ああああたし空気読めてなかった! ごめんね、野中くんの前でも言っちゃってたよね!? 本当に本当に、ごめんなさいっ」
手で顔を覆いながら、頭を下げる。
知らず知らず、七瀬ちゃんに嫌な思いをさせちゃってた!!
「あたしも言ってなかったし、それは全然気にしたことなかった! それで、日曜のファンスタでノナカと抜けたじゃん。あ、生徒会の顔濃い人もいたけど」
良かった。
怒ってなかった。
絶対もう気をつけよう。
「そのときに直接聞いたんだよねー」
「うええええっ!? こっ、告白したの!?」
ホッとしている間に急展開!
七瀬ちゃんすごい。
行動派……。
「いやー、タイミングあればとは思ったけどさ〜。文化祭のとき、屋上でノナカがほづみんのこと好きだーとか叫んでたでしょ? とりあえずその真偽を聞いたわけー」
「そういえば言ってた……。で、野中くんは?」
「うん。本当って認めたんだよねー」
そう言うと、少し寂しそうに笑った。
あたしの周りで、知らないうちに、いろいろ恋が動いてたんだ。
胸が、痛い……。
「七瀬ちゃん、大丈夫?」
「んー。ノナカって見た目、カッコいいじゃん? だから、憧れっていうか。みんな大好きだし。そんな人があたしのこと好きになってくれたらうれしいなーって軽い感じで好きだったから、ダメージないと思ってたんだけど……」
七瀬ちゃんの目からポロリとひと粒、こぼれ落ちた。
「あーやだな! ごめん、今日は泣くつもりはなかったのに……」
そのひと粒を合図に、ポロポロと目から涙が溢れて、七瀬ちゃんは顔を覆ってしまった。
上下に震える背中をそっとさすった。
それから少しだけそのまま泣いてから、えへへと笑って、七瀬ちゃんは涙を袖で拭きながら顔をあげた。
「はぁ本当ごめんね……。じゃなくてさ、ちょっとしばらくノナカ避ける感じになりそうってこと伝えたかったんだ。まだ普通に話すのさすがにキビしくて。なさけないよね、ちゃんと告ったわけじゃないのにこれだよ」
「情けなくないよ、勇気出したね。もちろん七瀬ちゃんが気持ち落ち着くまで全然いいよ。あたしもなるべく二人がバッティングしないように気をつけるね!」
「ううー。いっちぃー!」
胸に飛び込んでくる七瀬ちゃんを受け止めて、よしよしと頭を撫でた。
「ウジウジするの嫌だから、さっさと告っちゃう系なんだよ、あたし。でもアイツって隙なくない? 告られ過ぎるから、告るなガードが厳しいんだよきっと。でもそれって残酷すぎるよ〜」
人を好きになると、エネルギーをすごく使うんだ。
でもそれだけきちんと人に向き合ってる証拠だよ……。
告白できなかったとしても、失恋でこんなに痛みを負って咀嚼しようと頑張っている七瀬ちゃんを、あたしは尊敬するし、力になりたい……。
それに、こうやって頼ってくれたのはうれしい。
「これ虎蛇の人には内緒で! いっちーとなっちゃんにしか言ってないから」
「うん。わかった」
「ありがと。いっちーもなにかあったら言ってねー」
「あはは、今は特にないかなー。でもなにかあったら相談するね」
「うおーんうおーん! ありがとう親友よ〜〜〜〜!!!」
「あれっ? 七瀬ちゃん本当に泣いてる?」
「泣いてないよー。うえーん」
「あはは可愛いなー、よしよし」
昼休みが終わるまで、よしよししながら七瀬ちゃんの話を聞いた。
でも、七瀬ちゃんが好きな人が知実くんじゃなかったって聞いたとき、ちょっとホッとしたのはどうしてだろう。
ひとつだけ確かなのは、彼女の口から出た“親友”ってワードがくすぐったくて、あたしが少しふわふわしていたこと。
もしかしたら初めての友だち宣言。
七瀬ちゃんのこと胸張って、友だちって、親友って思ってもいいんだ。
すごい。のぼせちゃいそうなくらい嬉しいっ。
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