彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

10/14(水) 小鳥遊知実①

 朝起きて身支度をささっと整える。ドアを開ければ、新たな俺の生活が待っている——。


「おはよー、お久しぶり!」
「……おはよ」


 玄関の向こうにいたいちごとあいさつを交わした。これから俺のボーナスタイムがはじまる。

 今日から登校すると母親がいちごに伝えたからうちに寄ってくれたみたいだけど、さすがに目が不審がっていた。


「学校ずっと休んだよね〜。またテストも、1日も来なかった〜」
「あっははは、サボったわ。俺ワルだからなー(笑)。音和迎えに行こうぜ」


 口を尖らせるいちごを素通りし、そそくさと先を歩いた。
 これから、登校日数も限られてくる。クラスの人たちには「小鳥遊悪いお友だちができた説」で通そうと思っていたけど、彼女だけはなぁ……。ほぼ毎日バイトでうちに来てるから、ごまかし通せる気がしない。
 でもやっぱりいちごって、あんまり俺のこと詮索してこないよな。一定のラインから踏み込んでこないというか。
 今だって、納得いかなさそうな顔はしてるけど何も聞いてこないし。七瀬みたいにうるさくないのは楽だけど、なんでだろ。……俺に興味ないのかな?
 久しぶりに俺が学校に行くってことで、今朝はきちんと時間通りに音和が出てきた。拾うだけでいいので大変ラクである。俺的には毎日こういう感じでお願いしたいのである。


「知ちゃ……っ!」


 しかし彼女は俺を見るや、辛そうに顔を逸らしてしまった。音和のもとまで歩いて、ぐしゃぐしゃと頭を撫でてやる。


「どした、元気ないじゃん〜」


 音和が加わったことで、空気がより重くなった気がした。


「なになに、みんな朝から陰気だなー! いちご、最近のクラスの話してよー」
「ん……そうだね。でも……」


 しかし、いちごも目を伏せて言葉を詰まらせる。
 えー、今日は学校行くまでこのテンションなのかよ、勘弁してくれ。


「……その前に知実くん。下、開いてる……から……」


 ……下を見る。
 ああ。家出る前にいそいでトイレ行ったからなー。おしっこの名残がーって。


「うわああああああ!!!!!!」


 慌ててジップを引き上げる。変な空気これのせいかよ!!



………………

…………

……



 教室に入ると、クラスメイトたちに珍しそうに見られた。1週間ぶりかつテストを受けていないから、信じられないというような目だった。
 もう視線は仕方ない。せめて目立たないように慎ましく生きよう……。


「うえええ!? なっちゃんー! 久しぶりー、学校やめたかと思ったあ!」


 後ろから七瀬が教室に飛び込み、背中にタックルされて早速目立ってしまう。


「わーーー!! 変な噂たつからデカイ声でそういうこと言わないっ!」
「文化祭のこと話したかったのに、全然来ないんだもん! でももう余韻冷めちゃった!」
「七瀬ほど刹那的に生きてる人間はいないと思うの……」


 七瀬は自分の席にカバンを置くと、後方にある俺の席へとやってきた。


「ねえねえ。それでノナカのことなんだけど……」


 小声で、耳打ちするように口元を手で隠した。仕方なく俺も頭を寄せる。


「文化祭のときの……あれって本当なの?」


 ……あれとは?

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