彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
10/2(金) 穂積音和⑥
┛┛┛
ひとりで虎蛇に戻ると、音和と詩織先輩が座っていた。音和は俺の姿を見ると頬を膨らませてそっぽを向いた。
「おじさんへこんでたぞー」
「……知らない」
やれやれ……。音和の隣に座ると、音和を挟んで逆隣に座っていた詩織先輩と目が合う。
「さっきまでドレス見せてもらってたんですよ。お姫さまみたいでしたね、音和ちゃん♡」
あー、じゃあ俺が来てからわざとむくれてんのねー。
「いいけど、俺、詩織先輩と出て行くからね?」
「!?」
「あの、音和ちゃんひとり残すのは……」
詩織先輩はおろおろしながら、音和の肩を抱いた。
「ダメです、そういう当番なので。それに先輩全然遊んでないでしょ。俺もまだクラス見てないし、絶対に行くぞ」
立ち上がって詩織先輩の手を取り、引っ張ってドアに歩く。
「音和。必ずだとか永遠だとか。人生に確証なんてないんだからさ。長い人生だし、別に寄り道も隠れるのもうずくまるのもするなとは言わないよ。でも、本来の道を間違えんなよ」
言うだけ言って、扉を閉めた。
「さて、どこから回りますかねー?」
つとめて明るく振り返ると、詩織先輩は真剣な表情で俺の顔をじっと見つめていた。
「音和ちゃん、今日絶対変ですよね……。ひとりは心配です。戻りませんか」
「先輩、優しいですね」
「トモくんこそ、どうしてこんなときについてあげないの? いつもあんなに可愛がってるのにおかしいですよ!」
俺がそばにいると、余計に甘えるか落ちるかしてしまうからなんだけど、言えない……。
「トモくんがいやでも私は戻りますから」
「待って、わかった!」
踵を返そうとする先輩の腕を取り、周りを見回す。渡り廊下に1年の女子を見つけて、先輩の手を引いたまま、その子に迫る。
「ねーね、ちょっと!」
「え、誰?」
「虎蛇会っす! 1Aのギャルたちの連絡先知らない?」
「あ、もなちゃんなら……」
「ちょっと貸して!」
メッセ画面から通話ボタンを押して、勝手に電話をかける。
「あ、俺俺! あのさ、音和が虎蛇会でひとりなんだよね。暇だったら顔出してやって。あと音和の仲良い人いたりする? みんなに伝えてほしいんだけど。うん、1階の職員室となり」
電話を切って1年女子にスマホを返し、手を振る。詩織先輩は呆れていた。
「……そんなに戻りたくないんですか?」
「戻ったら、詩織先輩が文化祭見れなくなるでしょ」
広報班が作ってサイトに掲載してくれたスケジュールと、模擬店の地図をスマホで確認する。
フィナーレまで1時間もないんだよな。急いで回らなきゃな。
「体育祭とか文化祭とか、楽しんだ経験ないって言ってたから。今年はちゃんと全部参加しようぜ〜」
スマホから顔を上げると、詩織先輩は赤面して突っ立っていた。
「……え?」
「いえ、なんでも。……回りたいです、行きましょ」
急に腕を引かれるからよろめく。手とかつないで歩いてると、目立つと思うんだけど……。
でもズンズン進んでいく先輩にそんなこと言えず、とりあえず連れて行かれるがままに従った。
………………
…………
……
「おかえりなさいませ。ってお嬢!?」
「えーお嬢、男子連れてきてるじゃん! 誰ー?」
先輩が顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。
どうやら何も考えずに、自分のクラスに来てしまったらしい。俺に好奇の視線が突き刺さる。
「先輩のところ、なんなんですかこれ」
「し、執事喫茶です……」
教室には白いテーブルクロスが輝き、きれいめなツーピースを着た男子とクラシカルなメイド服の女子が接客をしていた。
おやつどきということもあり、席は半分以上埋まっていて、奥のカウンターテーブルではラッセルホブスの電子ケトルが忙しく蒸気を吐き出していた。
「あれ、虎蛇の女装の子じゃん! 座って座って! うちのクラス、お嬢がプロデュースしてくれたんだよ。ほら、お嬢ってお嬢だから!」
「女装言うな! どしたの先輩、お嬢って。極道教えてんの?」
「ちがいますぅ……」
メイドさんに肩を揉まれながら席に案内される。何を教えたんだよ、先輩。
「鹿之助が学校に来たことがあったでしょ。それで、いろいろバレてしまいまして。美しい言葉遣いや所作などを、みなさんに教えるというか……アドバイスしただけなんですけど」
席につくと、顔を寄せつつ小声で先輩が説明してくれた。……まあでも、俺たち以外への接客はきれいだよな。
「今まで、同級生の方とはよそよそしい感じだったんですけど。あのときのおかげで打ち解けて、文化祭でもクラスのお役に立てました。結果オーライですねっ」
微笑む先輩との間を引き裂くように、紅茶とシフォンケーキが目の前にどんっと置かれる。
ツーピースのオールバック男子が先輩とにっこりアイコンタクトを取ったあと、俺の方へと向いた時の顔はビンビンに殺気立っていてビビった。
「おい。俺たちのお嬢に、変な気を起こすんじゃねえぞ……」
ごくりと唾を飲み込む。
「大村くん、今日はいつもとは違う大人の魅力が素敵です♡」
「え、マジ!?」
「うふふ。言葉遣い忘れてますよ♡」
……先輩、人たらしだもんなあ。
ひとりで虎蛇に戻ると、音和と詩織先輩が座っていた。音和は俺の姿を見ると頬を膨らませてそっぽを向いた。
「おじさんへこんでたぞー」
「……知らない」
やれやれ……。音和の隣に座ると、音和を挟んで逆隣に座っていた詩織先輩と目が合う。
「さっきまでドレス見せてもらってたんですよ。お姫さまみたいでしたね、音和ちゃん♡」
あー、じゃあ俺が来てからわざとむくれてんのねー。
「いいけど、俺、詩織先輩と出て行くからね?」
「!?」
「あの、音和ちゃんひとり残すのは……」
詩織先輩はおろおろしながら、音和の肩を抱いた。
「ダメです、そういう当番なので。それに先輩全然遊んでないでしょ。俺もまだクラス見てないし、絶対に行くぞ」
立ち上がって詩織先輩の手を取り、引っ張ってドアに歩く。
「音和。必ずだとか永遠だとか。人生に確証なんてないんだからさ。長い人生だし、別に寄り道も隠れるのもうずくまるのもするなとは言わないよ。でも、本来の道を間違えんなよ」
言うだけ言って、扉を閉めた。
「さて、どこから回りますかねー?」
つとめて明るく振り返ると、詩織先輩は真剣な表情で俺の顔をじっと見つめていた。
「音和ちゃん、今日絶対変ですよね……。ひとりは心配です。戻りませんか」
「先輩、優しいですね」
「トモくんこそ、どうしてこんなときについてあげないの? いつもあんなに可愛がってるのにおかしいですよ!」
俺がそばにいると、余計に甘えるか落ちるかしてしまうからなんだけど、言えない……。
「トモくんがいやでも私は戻りますから」
「待って、わかった!」
踵を返そうとする先輩の腕を取り、周りを見回す。渡り廊下に1年の女子を見つけて、先輩の手を引いたまま、その子に迫る。
「ねーね、ちょっと!」
「え、誰?」
「虎蛇会っす! 1Aのギャルたちの連絡先知らない?」
「あ、もなちゃんなら……」
「ちょっと貸して!」
メッセ画面から通話ボタンを押して、勝手に電話をかける。
「あ、俺俺! あのさ、音和が虎蛇会でひとりなんだよね。暇だったら顔出してやって。あと音和の仲良い人いたりする? みんなに伝えてほしいんだけど。うん、1階の職員室となり」
電話を切って1年女子にスマホを返し、手を振る。詩織先輩は呆れていた。
「……そんなに戻りたくないんですか?」
「戻ったら、詩織先輩が文化祭見れなくなるでしょ」
広報班が作ってサイトに掲載してくれたスケジュールと、模擬店の地図をスマホで確認する。
フィナーレまで1時間もないんだよな。急いで回らなきゃな。
「体育祭とか文化祭とか、楽しんだ経験ないって言ってたから。今年はちゃんと全部参加しようぜ〜」
スマホから顔を上げると、詩織先輩は赤面して突っ立っていた。
「……え?」
「いえ、なんでも。……回りたいです、行きましょ」
急に腕を引かれるからよろめく。手とかつないで歩いてると、目立つと思うんだけど……。
でもズンズン進んでいく先輩にそんなこと言えず、とりあえず連れて行かれるがままに従った。
………………
…………
……
「おかえりなさいませ。ってお嬢!?」
「えーお嬢、男子連れてきてるじゃん! 誰ー?」
先輩が顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。
どうやら何も考えずに、自分のクラスに来てしまったらしい。俺に好奇の視線が突き刺さる。
「先輩のところ、なんなんですかこれ」
「し、執事喫茶です……」
教室には白いテーブルクロスが輝き、きれいめなツーピースを着た男子とクラシカルなメイド服の女子が接客をしていた。
おやつどきということもあり、席は半分以上埋まっていて、奥のカウンターテーブルではラッセルホブスの電子ケトルが忙しく蒸気を吐き出していた。
「あれ、虎蛇の女装の子じゃん! 座って座って! うちのクラス、お嬢がプロデュースしてくれたんだよ。ほら、お嬢ってお嬢だから!」
「女装言うな! どしたの先輩、お嬢って。極道教えてんの?」
「ちがいますぅ……」
メイドさんに肩を揉まれながら席に案内される。何を教えたんだよ、先輩。
「鹿之助が学校に来たことがあったでしょ。それで、いろいろバレてしまいまして。美しい言葉遣いや所作などを、みなさんに教えるというか……アドバイスしただけなんですけど」
席につくと、顔を寄せつつ小声で先輩が説明してくれた。……まあでも、俺たち以外への接客はきれいだよな。
「今まで、同級生の方とはよそよそしい感じだったんですけど。あのときのおかげで打ち解けて、文化祭でもクラスのお役に立てました。結果オーライですねっ」
微笑む先輩との間を引き裂くように、紅茶とシフォンケーキが目の前にどんっと置かれる。
ツーピースのオールバック男子が先輩とにっこりアイコンタクトを取ったあと、俺の方へと向いた時の顔はビンビンに殺気立っていてビビった。
「おい。俺たちのお嬢に、変な気を起こすんじゃねえぞ……」
ごくりと唾を飲み込む。
「大村くん、今日はいつもとは違う大人の魅力が素敵です♡」
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……先輩、人たらしだもんなあ。
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