彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/29(火) 部田凛々子③

「おいおいおいおいー! おたくらが関わるとろくなことがないね? 金も出さないわ、トラブル多発だわ。委員会さん、今回のはまずいっしょ! 俺も腕痛いんですけど?」


 詰め寄って来たのはゴンドラに乗りたいと無理を通したあいつらだ。
 自分に責任が下りてこないように、凛々姉をスケープゴートにするつもりかよ。


「ちょっと……!!」


 吉崎が前に出ようとするのを、八代が止める。俺と凛々姉を真ん中に、生徒たちが周りを取り囲む絵ができあがっていく。


「そもそもお前が仕切るのが間違いだったな。だから最初から俺たちに任せておけばよかったんだよ!」


 有志の男その2がニヤニヤしながら凛々姉にメンチを切る。


「ああ。お前らあのときのサルだったか」


 ぽつりと凛々姉がつぶやくと、男たちは真っ赤になった。
 俺の知らない因縁関係があんの!?


「ドブスが、そういうところが人をナメてるって言ってんだよおおお……」

「つか、けが人出てるんですけどお、俺とかさあ。その態度責任者としてどうなの?」


 興奮して近づきすぎる男たちの間に、俺は腕を広げて滑り込む。


「おいおい、こっちは止めたけど、お前らが勝手に強行したんだろ! その言い方はないぞ?」

「え、俺たちのせいっていうの? こちらは教師の許可も取ってるの。だったら、事故が起きないようになんとかするのがオメーラの仕事だろが。なにのんびり見学してんだよ!!」


 うわむちゃくちゃ論理をかましてくんなこいつらーーー。こういうやつら話通じなさそうでいやーーー!!


「おい部田とりた、土下座しろよ」


 有志の男が床を指差すのを、凛々姉は冷たく見ていた。


「き、君たち! それはやりすぎだ、やめなさい!」


 輪の外で教師が叫ぶも、おそらく男の仲間たちが中央に近づけないようにガードしている。
 男たちがひときわ大きく笑い、体育館内もざわめく。


「土・下・座! 土・下・座!」


 仲間内でコールを始めた。


「土・下・座! 土・下・座! 土・下・座! 土・下・座!」


 コールに乗る生徒はほとんどいないけれど、それでも数人が面白がってはしゃいでいる。きっと凛々姉に過去、痛い目に合わされた人たちなのだろう。それには同情しますけど!
 でも今の凛々姉に、人の悪意を直に感じるような刺激は与えたくなかった。
 また昨日のような状態になってしまうかもしれない。もしかすると、もっとひどいことになる可能性だって。
 凛々姉の高貴さを、誰にも汚させたくない……!

 そのとき、ぎゅっと手が握られた。
 凛々姉はすました顔で男たちを見つめているけれど、手は震えていた。
 その手を強く握り返す。そして、俺は土下座コールをしているバカを睨みつけた。
 あいつらを黙らせるには、凛々姉への悪意を、全部俺に向けさせればいい。

 心を決めて一歩踏み出そうとするより少し早く、手が離れて凛々姉が前に出た。


「っ、凛々姉!? ダメだ!」


 懇願するように叫ぶ。
 ゆっくりと頭だけで振り返ったその顔には、悪魔のような嫌らしい笑み。
 ……まかせよう。
 俺の全身の細胞たち満場一致で可決した。


「盛り上がっているところ悪いけど。上に立つものとして、このような場所での土下座はありえない」


 有志の男たちのコールがぴたりと止む。ひとりが凄みを利かせて凛々姉に詰め寄った。


「おうおうおう。それじゃ何か。文化祭実行委員会さんは、あんたらの庭で起きたこれは、責任放棄するってことかあ??」


 まるでそれは、体育館内にいる生徒に聞かせるように。


「あなたは誠意がほしいのではなく、パフォーマンスがほしいだけでは」

「ごちゃごちゃうるせえな、どーーーーーーーーーーうでもいいんだよお!!! お前の鼻っぱしらを折れたらそれでな!!!」


 ついにその手が凛々姉の襟元を掴んだ。緊迫した空気が流れる。


「……臭いんだけど。あんまり顔近づけないでくれる?」


 生徒たちのくすくすという笑い声に、男の顔が真っ赤になる。


「てめえ、俺が殴らないと思ってるだろ。俺は停学になるなんてどってことねえんだよ!!!」


 男はためらわずに右腕を大きく振り被った。
 凛々姉えええええ、しゃれにならーん!!!
 俺は男の腕に飛びついた。


「ところで怪我したんじゃなかったの? その腕」


 男子の振り上げた腕が止まった。
 ぶら下がる格好になっていた俺は、簡単に振り落とされた。

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