彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/28(月) 部田凛々子③

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 放課後の虎蛇の空気は最悪だった。室内にいる人全員に伝わるほど、凛々姉のピリつく不安定さは漏れ出していた。
 虎蛇で作業している文化祭実行委員たちは気が散ってかわいそうなので、別室に避難してもらった。
 天気も凛々姉の心を代弁するように、台風で大雨が降りしきっていた。
 そんな虎蛇会室では、七瀬の明るい声がやけに響く。


「えーウソー? なんでー、あたしもいるしぃ! ……うん、うん。えーどうしてもー? ……そっかぁ仕方なしだね、りょーかい。いいよーんじゃ、クラス頑張って!」


 電話を切ると、さっきまでの元気が嘘のように七瀬は覇気を失う。


「かいちょー、有志また1グループキャンセルだってー」

「……そう」

「あ、じゃあ追加募集をかけよっか。大丈夫、すぐ集まるよ!」


 広報トップのいちごが、慣れないPCを一生懸命打ち込む。


「いちごちゃん。追加募集は3グループでお願いしてもいいですか?」

「了解でーす!」


 詩織先輩も手持ちのPCからデータを調べてフォローする。


「おーい、業者からベニヤ来たぞ。どこ置く?」


 傘をさした野中が窓を開け、顔を出した。


「サンキューそれ体育館! 俺も運ぶの手伝うわ。音和、道開ける係モーゼして」

「おけまる」


 資料を置いて立ち上がる。
 ねえ。凛々姉の作った虎蛇、見てみなよ。今すっげー、いい感じなんだよ……。
 部屋を出るときにちらりと伺った凛々姉は、俺たちが出ていくことにも我関せずで、魂はどこにもいないようだった。



 体育館の中に板を運び、文化祭実行委員会の入場ゲート制作班と合流した。残りの資材は指揮を取る3年生にお任せして、制作班のほうで運んでもらうことになった。


「文化祭準備ってこんな忙しかったんだな。去年なにしてたんだ俺ら……」


 雨に濡れた頭を拭きながら、隣の野中に声をかける。ぐるぐると肩を回していた野中は、肩をあげたまま止まって首をひねる。


「寝るのには忙しかったなー」

「そうだ、高みの見物してたんだっけかね、文字通り」


 去年は屋上で、忙しそうな生徒たちを他人事のように眺めてた。俺には関係ないと思いながら、一生懸命になれることがあるやつらが、ちょっとだけ羨ましい気がしてたんだ。
 そういえば去年の今頃、凛々姉はどうしていたんだろう。去年1年間、彼女の姿を校内で見ていないから、きっとせわしなく裏方で回ってんだろうけど。
 そんな背景も知らずに、俺たちは文化祭当日、準備された土台の上で、勝手に楽しく派手に遊んでいたってわけだ。


「ああ、段ボールが足りないって言われてるから、俺ちょっとスーパーで拾って来るわ」


 体育館の玄関を出て、軒下で空を見上げながら野中が言った。遠くで雷が光る。


「え、こんな大雨だし、さすがに明日でいいだろ」

「まあでも早いにこしたことないし。それに、人に喜ばれるの悪くないからな」


 ふっと、野中が柔らかく笑った。


「っ! キューン! 野中どしたの、今日男前すぎ!!」

「はいはい、おいで」


 ガバッと抱き合っているところを、通りすがりの一般人(ハツさん・80歳・家事手伝い)(カッコ内は想像)にまん丸な目で凝視された。

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